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国境を越えてなだれ込んできた、王クセノフォス自らが率いるノブリア王国の軍勢、その数およそ一万五千。後背地というものがあるから一国の軍勢の総力その全てというわけではないが、それにしても全力を投じてザウアシュ侯国を攻め滅ぼしに来ていると言って差し支えのない総力戦であった。当然、ザウアシュ侯国の側でも総動員が行われる。集められた自国兵力、約四千。そして同時に、近隣の友邦諸国への援軍要請のための使者が各自派遣されていった。ザウアシュ侯国は純粋な独立国家ではない。『神聖アルティメイア』という国家連合の中に所属しており、その最頂点には神聖皇帝と呼ばれる存在がいる。といってもこの神聖皇帝は世襲制にはなっていないし中央集権的な権力を持っているわけでもないのだが、ともかく、いちおうは神聖アルティメイアの構成国同士であれば仲間という建前があるにはあるので、援軍の要請が行ったのである。この結果がどうなるかについては、蓋を開けてみるまでは分からない。
「それで、戦況の見通しですけれども」
正式な就任の儀式などは済ませていないのだが、しかし事実上もはや国家元首と呼ぶべき立場にある、モニカが会議の席で音頭を取る。
「敵は圧倒的な数を武器に、正面からこのザウアシュ市を狙ってくる。そういう予測が、やはり妥当であると観測するべきでしょうね」
オゾンも今のところ『客将』という建前でこの国に身を委ねているので、もちろん会議の場に席を与えられている。テトラにしても似たようなものである。そのテトラが言った。
「向こうは恐らく、まだオゾンの力、特に『飢饉』の全容については知らぬはずじゃ。詳しく知っておったならば、こんな真正面から単純な力攻めを仕掛けてくるはずはない……なれば千載一遇よ。余が上空からオゾンを接近させ、ノブリア王国軍主力部隊の至近距離で『飢饉』を発動させる。これが決まれば、それ一撃で戦の帰趨を完全に決めることができるものと思うが。どうだ」
「まあ……そうだろうな」
といって言葉を受けたのはその肝心のオゾン本人である。
「実はあのあと、何度か威力をコントロールして発動することができないか試してはいる。多分……相手の軍隊が固まっていて、あまり動いていないという前提のもとでなら。そして、特殊な他人の『スキル』による妨害なども入ってはこないと想定することができるなら……いける。一撃必殺、かつ不殺での完全勝利を、こちらに持ち込むことができるだろう」
モニカが言った。
「おお、それはなんと心強いことでしょうか。主力部隊の撃滅に成功すれば、ノブリア王国にこれ以上の本格的な後詰を出す余裕はもうないはずです。そして、何よりもクセノフォスを捕らえるか、こちらの支配下に落とすことができれば……その状況こそはこちらの完全な勝利といえる、と言ってよいでしょう」
再びオゾンが口を開く。
「いま、敵軍はどのあたりにいる?」
地図が開かれる。ザウアシュ侯国の地図。敵軍は既に、都まで三日の距離に迫り、行軍を続けている。途中、もちろん迎撃するために適した立地もあるし、なんならザウアシュ市で籠城戦を決め込むというような可能性だとて考えられるわけではあるのだが。
「今夜、だな。短期決戦でことを終わらせたい。今夜、俺がテトラに乗って夜襲を仕掛けてくる。敵がまだ俺の能力の全容を把握していないという情報に間違いがないのなら……この手で、根こそぎ敵を始末してしまえるはずだ。ただ。即座に敵の側を『救援』する必要に迫られることになるから。そのためにこちらの部隊を展開させておく、そのような必要があるだろう。そのための流れとしては、だ……」
手筈は整えられた。夜、オゾンはテトラの背に跨って、宙を舞った。人間の軍勢では三日かかる距離のところにいるとはいえ、龍に乗って飛んでいけばあっという間にである。そして、空中から発動した。その能力、《ペコペコ》第二段封印解除『飢饉』を、だ。
「な……なん、だ……何が、起こった……!?」
《ペコペコ》の異能は、完全にその射程の範囲内に、ノブリア王国の親征軍本隊を捉えていた。なぎ倒されるように、ばたばたと兵士たちが倒れている。ざっと見る限り、死んでいる者はいない。だが、ほぼ全員が完全な戦闘不能の状態であった。陣を割るようにして、オゾンは進んで行く。ノブリア王クセノフォスは、この先に居るはずだ。