テラーノベル
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「もう疲れたな」
帰り道の歩道橋の上で、私はつぶやいた。
学校も、友達関係も、家のことも。
全部、うまくいかない。
頑張っても、空回りばっかり。
「もういなくなっても、誰も困らないよね」
下を見ると、車が小さく走っている。
ここから落ちたら、きっとすぐ終わる。
そう思った、そのとき。
「ねえ、お姉ちゃん」
後ろから声がした。
振り返ると、小さな女の子が立っていた。
小学校低学年くらいかな。
「ここ、危ないよ?」
女の子は私の服の袖を、ちょこんと引っ張った。
「……大丈夫だよ」
私は苦笑いした。
でも女の子は、じっと私を見てくる。
「泣いてるよ?」
言われて、初めて気づいた。
頬が濡れている。
「お姉ちゃん、つらいの?」
私は少しだけ黙った。
知らない子なのに。
どうしてだろう。
言葉が、ぽろっとこぼれた。
「……私ね」
「いなくなったほうがいいのかなって思ってた」
女の子は、すぐに首をぶんぶん振った。
「ダメだよ!」
思ったより大きな声で、びっくりする。
「なんで?」
思わず聞くと、女の子は少し考えてから言った。
「だって」
「お姉ちゃんがいなくなったら、悲しい人いるもん」
「いないよ」
私はすぐに言った。
友達だって、そんなにいない。
家でも、私はいつも迷惑ばっかり。
女の子は、また私の袖を引っ張る。
「いるよ」
「え?」
「わたし」
その言葉に、思わず笑ってしまった。
「今日、初めて会ったじゃん」
すると女の子は、ちょっと得意げに言った。
「でも、お姉ちゃん優しかったよ」
「さっき、わたしが転びそうになったとき」
「手、つかんでくれた」
あ。
そういえば、さっき階段で
この子が転びそうになって。
反射的に、手を引いたんだった。
「わたしね」
女の子はにこっと笑う。
「お姉ちゃんみたいな人、好き」
「だから、いなくなったらやだ」
胸の奥が、ぎゅっとした。
こんな小さなことで。
こんな小さな一言で。
少しだけ、息がしやすくなるなんて。
そのとき、遠くから声が聞こえた。
「ゆいー!どこー?」
女の子が振り返る。
「あ、お母さんだ!」
走っていこうとして、
女の子はもう一度振り向いた。
「お姉ちゃん!」
「うん?」
「生きててね!」
そう言って、元気に手を振った。
私はしばらく、歩道橋の上に立っていた。
さっきまで見ていた下の景色を、もう一度見る。
でも。
さっきとは、少し違って見えた。
私が思っているより。
この世界には、
私が知らない誰かがいるのかもしれない。
私が気づいていないだけで。
私が、誰かの役に立つ瞬間が。
もしかしたら、またあるのかもしれない。
私は深く息を吸った。
そして、歩道橋を降りる。
まだ全部がうまくいくわけじゃない。
明日もきっと、つらいことはある。
それでも。
あの子の言葉を、少しだけ信じてみようと思う。
だから私は__
今日も生きる。
コメント
2件
いやまじで…、音透さんの作品好きすぎる…✨️