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#異世界転移
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情報をかき集めて来いって言われてもなぁ。そんなに器用に立ち回れる方じゃないのに。
麗霞は重いため息をつきつつ、ひと月前の出来事を思い出していた。
宮廷内のざっくりとした相関図を煜峰に教え込まれ、何か有益な情報を得られないかと試みてはいるのだが、これがなかなか上手くいかない。
煜峰から何か報告はないのかと聞きたげな視線を受ける度に、胃がキリキリとする。
「あーぁ。なんで絵と発注書を渡し間違えたのかね、私は」
杖刑にされなかっただけマシとみるべきかどうか。一生脅され続ける方が生き地獄な気がする。
絵を収蔵・保管している蔵の掃除をしていると、一人の男性が戸口から声を掛けてきた。
「そこの官女よ、少し良いか?」
「はい。なにか御用でしょうか」
麗霞ははたきでホコリを払っていた手を止めて、官服を着た男性のところへと寄った。
「礼部郎中の喬空燕だ。祭天の資料を何年か分か見たいのだが」
腰からさげられている佩玉を確認して、「どうぞ」と中へ通した。
「ただいま取って参ります。喬様はこちらでお待ちください」
礼部の郎中……! これはチャンスね。
礼部は祭祀や儀式、それから教育や外交などを管轄するところ。郎中は上から三番目の第三等官で、なかなかの身分だ。
煜峰は昨年行われた占いが、いかにも怪しいものだったと言っていた。
次期皇帝となる皇太子に相応しいのは誰か。
それを占ってみては如何かと、臣下が皇帝に進言したことから行われたらしい。
なかなか男児の産まれない暁明を皇太子に据えたままでいいのか、それともより適した皇子がいるのか。それを天にお伺いしてみようというのだ。
皇太子を別の皇子に変えた方が良いのではないかという声が日に日に高まる中、皇帝は占いで暁明と結果が出ればそんな声も鎮まるだろうと踏んだらしいのだが、その望みは叶えられなかった。
占いの結果が芳しくなかった為に、結果が公表されるどころか、占いが行われたこと自体が伏せられたのだそう。
とはいえ、皇帝の側近や占いを取り仕切った礼部の一部高官は、その事実や結果を知っている。
この事がきっかけでもともと揺らいでいた皇帝の心はさらに揺さぶられ、暁明の皇太子の座はかなり危うい状態に陥っているのだそうだ。
皇帝に進言した臣下と礼部の高官が、直接ではなくとも繋がっている可能性が高い。あの占いは誰の差し金で行われたものなのか知りたいと、煜峰は話していた。
秘書省に属する画院の官女である麗霞が、礼部の官吏と接触する機会はそう無い。どうにかして有益な情報を得られないだろうか……。
考えながら資料を探す麗霞に、戸口で待つ喬郎中から声がかかった。
「おい、まだか?」
「はっ、はい。ただいまお持ちします」
急いで記録画などの資料を抱き抱え、喬郎中の元へ。
「お待たせ致しました。こちらが祭天の資料でございます」
資料を喬郎中の手に渡そうとしたその時、麗霞の手が喬郎中の手に触れた。
「あっ、申し訳ございません」
恥じらい気味に笑ってみせると、喬郎中の耳の先がほんのりと色付いた。
「いや、重たかっただろう? 悪いね」
「いいえ、そんな。過去5回分をお持ち致しましたが、宜しかったでしょうか」
「ああ、構わないよ」
「こちらが一番最近のものですわ。お知りになりたいのは参列者の配置でしょうか?」
「いや、衣装や装飾を確認しておきたくてね」
「左様でございますか」
喬郎中の脇にピッタリと寄り、その手に持つ資料を何枚か捲った。
「えぇと、確かこの辺りに……」
パラパラと紙を捲り探している最中にも、喬郎中の視線を感じる。
「あっ、ありましたわ。こちらの絵をご覧になって下さい」
見上げると、すぐ側には喬郎中の顔がある。
目がバチりと合い微笑む麗霞。
「ありがとう。……君、名前は何と?」
「栗麗霞と申します」
「麗霞か。君にピッタリの良い名だ」
「恐れ入ります。喬様も素敵な名前をお持ちですわ。いいえ、名前だけではなく喬様自身も……」
耳の先から色付いた赤味は、今や喬郎中の顔全体にまで広がっている。
生唾を飲む音が聞こえそうに、喬郎中の喉仏が上下した。
「お名前だけでなく、私、喬様のことをもっと知りたいです……」
「麗霞……」
バサバサと床に落ちる資料。
喬郎中の胸にしなだれる麗霞。
――落ちたわね。
「おい! 資料はまだか?!」
ハッとして我に返ると、いらただしげな声が戸口から飛んできた。
「一体いつまで私を待たせるんだ」
「す、すみません。ただいま!!」
妄想の世界から現実に引き戻された麗霞は、急いで資料を喬郎中の元へと持っていく。
「お待たせ致しました。こちらが祭天の資料でございます」
「全く、これしきの事をモタモタと」
妄想の中ではお互いの手が触れ合ったはずだったが、資料を喬郎中にぶん取られた。
仕方なく曖昧に笑いかけてみると、今度はしかめっ面を返された。
「お前さん、顔は良いがそんなにトロいと嫁にいけないぞ。女は家内を取り仕切るんだからな! ここで働いて、しっかりと学ぶように」
「は……はい……」
「資料はひと月ほど借りていく。帳簿に記録しておくように」
「はい……」
資料を抱え蔵から出て行く喬郎中を見送ることしかできない麗霞は、心の中で絶叫した。
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーっ!
なんで私って、いつもこうなのぉぉぉ!!!
妄想の中では男性に対して上手く立ち回れる麗霞だが、現実となるとてんでダメ。並以下と言っても過言では無い。
そんな麗霞に煜峰は、色仕掛けをして男を篭絡し、情報を引き出してこいと言ってきた。
言われた通りこのひと月ほど、こうしてめぼしい男性を見つけては、何とか取り入ろうとしてきた麗霞だったが、妄想ばかりが捗ってちっとも上手くいかない。
なんっで私が色仕掛けなんて出来ると思ったのよぉっ!
あの玉無しは、女なら誰でも意中の男を手玉に取れると思ってるのかしら?!
ムキーーッとなりながら壁に拳を打ち付けていると、後ろから軽く頭を叩かれた。
「何してるんだ、お前は。蔵を壊す気か」
「ゆ……煜峰殿下」
「今、礼部の者とすれ違ったが、手応えはあったか?」
「あー、はい……。いえ……そうですね……ははっ……」
「ハッキリしない奴だな。役に立たないとなればどうなるか分かっているな?」
煜峰が紙を破り捨てる真似をした。
「わわわ分かっております! 必ずや煜峰殿下のお役に立ちますから!!」
もうやだよぉ。
私の可愛い作品たちを人質にとるなんて、この鬼畜! 人でなし! 玉無しめが!!
心の中で悪態をついていると、煜峰は「まぁ良い」と息をついた。
コメント
1件
え〜〜今回もめっちゃ面白かった!!😭💕 麗霞の妄想の中では色仕掛けバッチリ決まってるのに、現実では資料ぶん取られてお説教される落差がツボすぎるwww「玉無し」って心で悪態つきまくってるのに顔じゃヘコヘコしてるのも可愛すぎるよ! 煜峰の「役に立たないとなれば」の脅しもエグくて笑った。この子、これからどうやって情報集めるんだろ…応援したくなるヒロインだね! 続きが気になる〜!⋆♡