テラーノベル
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「明日からの休みは家に帰るのだろう?」
「はい。そのつもりです」
宮廷では年に一度、まとまった休みを取れる。普段は皇宮の敷地内に用意された部屋で寝泊まりしているが、たまには家に帰れるようにと取り計らってくれるのだ。
「お前の父親も中央官だったな?」
「はい。工部に務めております」
「ふむ……工部か」
そう言えば栗家は、どこの派閥に属しているとかあるのだろうか?
もしかして暁明皇太子とは敵対していたりして?!
そうだとしたら、娘が皇太子の派閥に肩入れしているとか不味いよねぇ?
「あの……。ちなみに栗家は皇太子殿下の派閥とは、敵対関係では無いですよね?」
「栗家? さぁ、知らん」
あぁ、眼中に無いってことね。
家で威張り散らしている父だが、完全に小物扱いだ。
ホッとしたような、スカッとしたような、或いは肉親ではあるから哀しいような……何とも複雑な心境。
「皇帝に忠誠を誓っている律儀な者か、その時の強者になびく者か、それとも与えられた職務を淡々とこなすものか。いずれにしろこちらに害はないという事だ。安心しろ」
「そうですか。ならいいのですが」
そうして休暇を迎え、帰ってきた我が家。
父とは宮内でたまにすれ違うこともあるが、母と会うのは1年ぶりになる。
「お父様、それからお母様、ただいま戻りました」
「麗霞! おかえりなさい。待っていたわよ」
「お母様、お元気そうで安心しました」
広間には父と母の他にも女性が一人。
側妻で、二人の弟の母でもある人。
「美朱様も、お出迎えありがとうございます」
「当然ですよ」
「志駿と志遠はどうしたの? 姉が久しぶりに帰ってきたと言うのに顔も見せないで」
母が側妻に言った志駿と志遠というのは弟達の名前。
それぞれ1歳と3歳、麗霞と歳が離れている。
「科挙の勉強で忙しいのですわ」
「姉に挨拶する時間さえ取れないと言うの?」
「先生から課題がたんと出されているそうで。栗家の跡取りとして二人とも頑張っているのです。お許しくださいまし」
うふふと笑う側妻に、母はギリギリと歯噛みをして睨み付けている。
「まあそう苛立つでない。勉強が一段落したら顔を見せれば良いではないか。なあ、麗霞」
「はい。私も弟たちの勉強の邪魔をしたくはありませんので」
というか会いたくないし。別に。
弟達は完全に麗霞を下に見ている。
正妻である母には麗霞しか子供がいない。
対して側妻の美朱には男児が二人。跡取りを産めなかった母に、美朱は強気だ。そんな母親を見て育ったので、弟達も麗霞に対して姉を敬おうなんて態度は微塵も感じられない。
「そんな事よりも麗霞よ。官女の仕事はどうだい?」
「働き始めてもう3年以上になりますので、多くのことを任されるようになってきました」
「うむ、そうか」
「旦那様、お仕事も宜しいですが麗霞さんはもうすぐ二十歳を迎えるのですよ。結婚も考えてあげませんと」
「おお、美朱の言う通りだな。早速誰か探してやろう」
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
父と側妻とが話しを弾ませているところに、母が冷たい声で割って入った。
「いいえ、旦那様。まだ麗霞に結婚は早いかと」
「あらあら。いくら麗霞さんが居なくなるとこの家で独りになってしまうからと言って、娘を家から出さないなんて可愛そうですよ?」
「そうだぞ。行き遅れてろくな貰い手が見つからなかったら、それこそ親不孝というものだろう」
「麗霞はまだ未熟者です。ねえ、麗霞」
うっ……。
母の目線に射殺される。
とてつもない圧を感じて、麗霞は母に同意せざるを得なくなった。
「は、はい。先日も礼部郎中に『女は家内を取り仕切るのだから、ここで働いてしっかりと学ぶように』とお叱りを受けたばかりです。もう少し宮廷にて花嫁修業に励みたいと思います」
「そうか? だがあまり長くは待ってやれぬぞ」
「はい」
「それではまた夕食の時に」
「はい、また後で」
側妻は立ち上がった父の後を追い、その隣にピッタリと寄り添って部屋から出ていった。母は舌打ちでもしそうな顔で2人を見送っている。
「それで麗霞、どうなの?」
「どうなのと言いますと」
「良い男性は見つかったのかと聞いているのです」
「えぇと、そうですね。まあまあかなぁ、なんて……」
バシンっと母が自らの膝を叩く音が広間に響き、麗霞は肩を震わせた。
「何をもたついているの? 何のために貴女を官女にしたと思っているのです? このままでは本当に行き遅れてしまいますよ」
「はい。申し訳ありません」
「見たでしょう? あの女の態度。正妻の私を差し置いて出しゃばってきて。貴女の心配をするフリして私を孤立させたいのよ。旦那様も旦那様だわ。弟2人は顔も見せに来ないというのに甘やかして。この間もね――」
あーあ、また母の愚痴がはじまった。長いんだよねぇ。
父と母は親が決めた相手と結婚したというだけの関係で、そこに愛はなかった。
そんなのは珍しくも何ともないのだが、如何せん二人は相性が良くない。お互いやる事なす事気に食わない。
一方、側妻の美朱は、父が気に入って家に迎え入れた人。母との間に一人子をもうけた後は、最低限の義務は果たしたとばかりに美朱といる。
おまけにその側妻が立て続けに男児2人を産んだものだから、母は立場がないし、麗霞も父に気をかけては貰えなかった。
『あなたの父よりもっといい男性を捕まえて、あの二人の鼻を明かしてやるのよ』
それが母の口癖。
お父様が選んできた相手では、だいたい同じくらいの家格の者としか縁組みできない。だから麗霞自身の手で、もっとずっと良い家柄の男性を捕まえてくるのよ。そうすればお父様も側妻も、麗霞を産んだ私に頭が上がらなくなるはずだから、と。
「麗霞、聞いているの?!」
「はいっ、聞いております」
「全くこの子は、すぐぼーっとして。まさかとは思うけど、宮廷でも絵ばかり描いているんじゃないでしょうね?」
「ま、まさか。そんな暇はありません」
母というのは、なんでこんなに勘がいいのか。普通の絵ならばまだしも、春画を描いて売っているなんてバレたらどうなるか分からない。
探るような目で見られ、麗霞は袖の中で手をモジモジとさせた。
「そうよね。ええ、そのはずよ。私には貴女だけが頼りなんですからね。貴女、容姿は割と良いのだから、上手くやりさえすればきっといい殿方を捕まえられるわ」
「……はい。それでは部屋に戻って休ませて頂きます」
「ええ、そうしなさい」
母といい煜峰といい、何故麗霞がそう簡単に男を落とせると思っているのか不思議でならない。
そんなに言うなら、自分が父を虜にしたらいいじゃない。……なんて、そんなこと口が裂けても言えないけど。
煜峰の脅しにビクビクとしながら暮らすくらいならば、官女を辞めてしまおうかとも考えたが、やはり無理そうだ。父の決めた相手と結婚したところで、母は絶対納得しない。
それに、麗霞自身も父の決めたよく知らない男性と結婚するのは御免だ。母の二の舞は踏みたくない。
麗霞の趣味をよく理解してくれる男性じゃないと……なんて、そんな都合のいい人いないか。
春画を描くのが趣味などと知られたら、即却下されるのがオチだ。
結局麗霞は、現状からの逃げ道はないと思い知らされて休暇を終えた。
コメント
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しばらくぶりの麗霞家、めっちゃ複雑な空気じゃないですか…! 母・側妻・弟のポジションとか、父が小物すぎて笑っちゃったけど、麗霞の「逃げ道ない」感がめっちゃ伝わってきて切なかったです😭💦 特に母の「絵ばかり描いてないでしょうね?」にビクッとするところ、こっちまでドキッとしたよ…! 春画バレたら終わりなのに、それでも自分に合う人を諦めてない強さが好きです🌸