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でも、そっか、あの時はもう……
昨日の女性と出会ってたんだ。
すごく派手な、ちょっと意地悪そうな女性。
柊君は、あの人とベッドを共にするような大人の関係だったんだ。
淫らな、気持ち悪い関係。
それなのに、柊君は、私にあんなに誠実そうにプロポーズした。
そう思ったら、全身に鳥肌が立った。
やっぱり信じられない。
柊君を、心から嫌いになってしまいそうで。
「私、いろいろ考えようとした。だけど、1晩ですぐに答えなんて出せなくて。でも、今日1日仕事してて、ほんの少しだけ冷静になれた」
「柚葉の気持ち、聞かせて」
「私ね、やっぱり柊君とは結婚できない」
あぁ、言ってしまった。
今の感情だけで思わず出た言葉かも知れない。それでも、もう、後には引けない。
大好きだった柊君との夢にまで見た結婚。
それが、今はドロドロの悪夢に変わってしまった。
今、この場で叫びたい。
昨日言えなかったこと、思いっきり全部ぶちまけてやりたい。
柊君の胸ぐらを掴んで、問い詰めてやりたい。
その辺にあるもの全部壊して、めちゃくちゃにしてやりたい。
そんな私の一気に溢れ出した激しい感情を、何とかギリギリ止めることができたのは、すぐ近くに樹さんがいてくれたからだ。
もし、この部屋に2人きりだったら、怒りに任せて迷わずそうしてただろう。
自分のみっともない姿を柊君にさらしていただろうと思う。
たまらなく悔しくて、つらくて、苦しくて、どうしようもなく切なかった。
「柚葉。僕は、柚葉がいないと本当にダメなんだ。他の誰でもない、柚葉がいいんだ」
「お願い、もう止めて。だったら、だったら……私1人だけじゃダメだったの? 他の女性とは別れられなかったの?」
「……それは……」
「私は、もちろん柊君ただ1人だったよ。この2年間、ずっと柊君だけを見て、よそ見なんか1度もしなかった」
私は、必死に言った。
「どうしてそんな窮屈になるの? 柚葉も、他の人と遊んだらいいよ。遊びなら僕は構わないよ。だってそうしたら、もっと僕のことが良く思えるだろ? 今、抱かれてるこの人より、柊君の方がいい……って。そうやって、僕はもっともっと柚葉に愛してもらいたいよ」
真面目な顔で、柊君はそう言った。
これは、嘘のない柊君の本当の感情なんだろう。
もう、何を言っても無駄なように思えた。
「柊、もう、止めろよ。柚葉に、お前の気持ちを押し付けても無理だ」
樹さんは立ち上がった。
「樹……。僕らは双子なんだから、お前にはわかるよね? 僕は柚葉を愛してる。他の女性も好きだけど、ただ好きなだけで、決して愛してはいないんだ。ただの遊び。遊びの女を抱いて、その時に僕は柚葉の方がいいって……いつだってそう思ってるんだよ。そのおかげでどんどん柚葉を好きになっていくんだ」
「止めて! それ以上言わないで!」
私は、両手で耳を塞いた。
「止めろよ、柊。本当に止めてくれ」
「樹まで……何で?」
「柊。お前の感覚はおかしいんだ。人とは違う。ずっと治してあげたかったけど、でも、言えなかった。柚葉と結婚するって聞いて、やっと1人の人を愛せるようになったのかって、俺は2人のことを祝福しようとしてた。なのに……まだ……」
「まるで病気みたいな言い方するんだね、樹」
「樹さんを責めるのは止めて。柊君、とにかく結婚は取り止めて下さい。そして、私と別れて、お願いだから」
私は、深く頭を下げた。
「柚葉……」
柊君の目が潤んだ。
私は、この人と一緒にいたら絶対ダメになる。
だから、今、ちゃんと言わなきゃ。
「今までありがとう。柊君……さよなら」
悲しくて、つらくて……
それでも、私は奥歯をかみ締め、後ろを振り向かずに社長室から出た。