テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ざまぁ
次の日
カーテンの隙間から差し込む容赦のない朝日の眩しさに、俺は最悪な気分のまま目を覚ました。
首を少し横に動かし、隣のスペースを見やる。
当然のように、そこに竜牙さんの姿はなかった。
シーツは綺麗に整えられていて、もうずいぶん前に起きていたことを物語っている。
リビングの方から、ふんわりと香ばしいコーヒーの匂いが漂ってきた。
……普通なら、大好きな恋人の家で迎える朝のこの匂いだけで
ちょっと幸せな気分になれるはずなのに。
昨日の夜、暗闇の中で迎えたあの冷たい拒絶の瞬間を思い出した途端
胸の奥がどろどろとしたモヤで満たされていく。
「……起きたか」
リビングへ足を運ぶと、キッチンカウンターの前に立つ竜牙さんが振り返った。
いつも通りの、低くて耳に心地いい声。
いつも通りの、俺を包み込むような優しい顔。
何もなかったかのように振る舞うその完璧な態度が、今の俺にはなんだか無性に腹が立つ。
「……おはよ」
「コーヒー飲むか?それとも冷たい茶がいい?」
「コーヒー。……ラテにして」
「分かった。座って待ってろ」
ダイニングの定位置につくと、すぐに俺の前にマグカップが置かれた。
一口含むと、驚くほど俺好みの甘めのカフェラテだった。
砂糖多め。ミルク多め。
苦いのがあんまり得意じゃない俺のために
絶妙なバランスで調整された、完全に「俺仕様」のラテ。
こういうところなんだよな。
本当に、どこまでも気が利いて、底なしに優しくて、完璧。
完璧すぎて────
だからこそ、余計にわけが分からなくなる。
なんでそんな人が、自分の体やプライベートのことになると、あんなに頑なに壁を作るのか。
「……竜牙さん、今日、仕事は?」
「夕方からだ。店を開けるのは夜だしな」
「そっか」
そこから、会話がぷつりと途切れた。
お互いにマグカップを見つめたまま、スプーンがカチカチと当たる音だけが響く。
気まずい。息が詰まりそうだ。
付き合って5ヶ月
あんな冷え切った空気のまま同じベッドで寝たのなんて、昨日が初めてかもしれない。
竜牙さんも、どこか申し訳なさそうに視線を落としていた。
だけど。
「ごめん」とも言わない。
理由だって、何一つ説明してくれない。
ただ時が過ぎるのを待つようなその大人の態度が、俺の中のイライラをさらに助長させた。
「……俺、もう帰るわ」
「え、もう?パスタの残りとか、適当に朝飯作るけど」
「いらない。昼からちょっと、外せない予定あるし」
嘘だ。
本当は予定なんて何もない。
ただ、これ以上この部屋で、腫れ物に触るような空気の中で竜牙さんと一緒にいたくなかった。
俺が立ち上がると、竜牙さんは少しだけ傷ついたような、困ったような顔をした。
だけど、すぐにいつもの大人びた笑みを無理に作って、小さく「そっか」と呟いた。
その、どこか寂しげな笑顔を見るだけで胸が締め付けられるように痛むのに
今の俺は、どうしても素直になることができなかった。
玄関でむすっとしたままスニーカーの紐を結んでいると、後ろから竜牙さんが静かに声をかけてきた。
「慧斗」
「……なに」
「…まだ、怒ってるか」
その、ちょっと気遣うような、ずるい聞き方が一番嫌だった。
怒ってるに決まってるじゃん。
でも、本当は俺だって、怒りたいわけじゃない。
ただ、もっと近くに行きたいだけなのに。
「別に。怒ってない」
「別に、って顔じゃないだろ…完全に怒ってる時の顔だ」
「……」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!