【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
諦めるつもりの桃さんと、諦めるつもりのない青さんの話。
次のライブでは、夏らしく海で撮影した実写動画を流そうという企画が立ち上がった。
綿密に計画を練って、まだ海開きもされていない時期に貸し切り状態で撮影に挑む。
ビーチバレーやビーチフラッグ、最後にはスイカ割まで全力でやった。
笑いっぱなしで数時間の撮影を終え、それはもう仕事というよりは気の置けない友達とただ遊んでいるだけのような感覚だ。
「遊び」は悪ふざけモードに突入したメンバーによって撮影終了後も続く。
現地解散に切り替え、引き続きビーチバレー対決が始まった。
機材を片付けたスタッフたちは先に帰り、残された6人で動いて笑ってを繰り返す。
体力の限界を迎えた頃にはもう夕日が水平線のあちら側へ傾き始めていた。
結果、負けた青組は罰ゲームとして最寄りのコンビニまで飲み物やアイスを買いに走らされる。
それを見送ってから、しょうちゃんとりうらは砂浜で棒倒しを始めるらしく向かい合って砂の山を作りだした。
子供の頃に同じ遊びをしたときとは比べものにならないくらい、本格的で大きな山が出来上がる。
…元気だなぁ。
そんな呟きを胸の内で転がしてから、俺はあにきの方に向き直った。
赤白2人の砂遊びを笑いながら見ていたあにきに小さく呼びかける。
「俺、ちょっと疲れたからあっちで休んでくるね」
適当な方角を指さして言った俺の言葉に、あにきは一瞬の間を空けてから「おん」と頷いた。
こういうとき、あにきは大人だから助かる。
俺がどうしたいのかを瞬時に汲み取って、問いを重ねてくることもしない。
その上、空気の読めない子供組のことをそれとなく阻止して引き留めておいてくれるのだ。
3人から離れ、砂浜を一人歩く。
傾き始めていた夕日はもう3分の1ほどその姿を隠していた。
より濃くなったオレンジ色を目を細めて眺め、すぐ前に現れた岩肌を上る。
それほど高くないそれを乗り越えると、さっき皆といた場所とはあまり離れていないのに壁ができたように視界から分断された。
そこは小さな入り江のようだった。
波打ち際に座り、足を海水に浸す。
小さく上下させて揺するとパシャパシャと音を立てて波が立った。
パーカータイプのラッシュガードを着込んだまま、ごろんとそのまま仰向けになる。
目を閉じると寄せては返す波の音が穏やかに脳内に響いた。
たまに少し大きめの波が来ては耳や顔に飛沫を上げ、しょっぱい水が唇にかかる。
だけど拭いもせずに両腕を大の字に伸ばしたままで、俺は瞳を閉じてただその音に耳を傾けていた。
…あぁ、落ち着く。日々の忙しさや喧騒も忘れて、ただこうしていられることに心が安らぐ気がする。
そうしてどれくらいその止まったような時に浸っていたか分からない。
やがて頬に、波の飛沫とは違う冷たい感覚を覚えた。
「…」
目をゆっくりと開ける。
そこに映ったのは、夕焼けのオレンジ色の空とは対照的な青。
「やーっほ」
俺の頬に押し当てた缶をひらひらと振りながら、まろが笑っていた。
「…お前も空気読めない側だったか」
あにきはきっと気を利かせて今も子供組の気を逸らしてくれているだろうというのに。
恨めしそうに言った俺に、まろは「何それ」とけらけらと笑いながら俺の隣に座った。
「どしたんないこ、こんなとこで」
「うるせーのに疲れたから一人で癒されてんの」
「撮影中一番うるさかったんはどっちかって言うとないこやけどな」
んはは、と笑って、まろは手にしていた缶のプルタブを開けた。
もう一本は差し入れのつもりか俺の顔の横に置く。
波が押し寄せてきても、まだ口を開けていない缶の重さには敵わないらしくそれは微動だにしなかった。
「…まろは何でここに来たん?」
顔を横に傾けて、俺はまろの方を向いた。
前方の小さな波を見つめながらまろは手にした缶に口をつける。
「ないこが消えそうやったから」
「…? 消えそう?」
まさか海で一人行方をくらませて死ぬとでも思われた?
「何があっても絶対自分から死んだりしないけど、俺」
そんな儚いタイプじゃないと揶揄するように言いかけて、やめた。
思ったよりまろが真面目な顔をしていたからだ。
「違う。『死にそう』やなくて、『消えそう』」
「……ふぅん?」
違いがよく分からずに首を捻ったけれど、続く答えはなかった。
仕方なくもう一度空を仰ぎ見る。
頭上のオレンジはより暗い色に染められていき、先刻よりも更に濃い色に満ちていた。
「今日さぁ、楽しかったな」
何とはなしにそんな話題を振り直すと、まろは答えないままこちらを凝視した。
それに目線を返すことはせず、俺は天を仰いだまま。
波が耳元でちゃぷちゃぷと音を立てる。
「こうやって活動が順調で楽しくやってると、たまに怖くなる時がある」
いつまでこうしていられるんだろう。
いや、いつまでもこうしていたいからずっと走り続けなきゃいけないと自分に言い聞かせた。
でもそれと同時に、この道を選んだからこそ手に入れられなかったものへの憧憬も募る。
「まろ、知ってる? 人間て数センチの水があれば溺れることもあるんだって」
「…うん?」
「ほんの数センチ。たったこれくらいの水でも」
小さく泡立つような波が、俺を飲み込むように押し寄せる。
「それやったらほんまに危ないやん。起きたら?」
「いや、いい。このままで」
ほんの、数センチ。たったそれだけで世界が変わる。
きっと今俺のこの手も、あと数センチ横に伸ばせたら何かが変えられたはずだ。
すぐそこにいる、まろのその手を掴めたなら。
ずっと押し殺してきたこの想いを伝えられたら、諦めるしかなかった今とは違う未来を得られたかもしれない。
でも、それは許されることじゃなかったから。
だって、このグループでずっとやっていくんだと誓った日にそれは捨てなければいけない想いだったから。
活動を成功させるために…みんなでずっと笑い合っていくために、犠牲にしなければいけないものもあるのは当然だ。
この道を選んだからこそ、手に入れられなかったもの…それが、今そこにあるほんの数センチの距離。
それだけが、この道を選んで捨てざるを得なかったものへのほんの少しの後悔。
「まぁないこが溺れたら、俺が引き上げるだけやけどなぁ」
そう言いながらまろは、飲みかけの缶を俺のそれと並べて置いた。
まろの方はほとんど飲んでしまって中身が少なくなっていたのか、次に波が押し寄せたときにズズとさらわれるように動いてあっけなく倒れる。
それを横目で追った俺に、大きな影が覆い被さった。
それに気づいてふと目線を上げたときには唇を塞がれる。
まろがさっきまで飲んでいたらしいレモン味のチューハイの香りが唇から伝ってきた。
「…なんで?」
触れ合うだけのキスの後、まろが唇を離した瞬間に俺はそんな問いを口にしていた。
「言うたやん。『消えそうやから』」
「…消えないよ」
「ないこは消えんでも、ないこの気持ちは消すんやろ」
続いた言葉に、俺はハッと目を見開く。
俺の顔の横に両手をついた態勢で、まろは微かに笑ってみせた。
「消さんで済む方法教えようか」
「…ないよそんなん」
「好きやで、ないこ」
「…聞いて、俺の話」
頼むからこれ以上俺の心をかき乱さないでくれ。
諦める覚悟はできていたんだ。
ただそれに心が追いつかなかっただけで、どうするべきなのかという計算はもう終わっていたんだから。
二人きりのその狭い空間に再び大きめの波が寄せる。
俺の上に覆い被さるまろごとばしゃりと飲み込んで、そしてまた引いて行った。
濡れた前髪から雫を振り落とすように、まろは頭を左右に揺らす。
そしてそのまま、同じように濡れた俺の髪を撫でながらもう一度唇を重ね合わせた。
まろの向こう側に見た空は、もうオレンジ色を超えている。
俺の目の前の瞳と同じ、ネイビーブルーの色に染まっていた。
コメント
2件
初めの感情部分といいますか情景部分の文章が綺麗でストンと内容が入ってきました…✨✨ あおば様の文章力に圧倒されてます😭😭💕 私も勉強して文章力を身につけたいものです…😖🩷 諦めされるつもりが全くない青さんの行動にもきゅんとしてしまいました💕 夕日を元にして反対色の青やネイビーブルーという表現が刺さりました…大好きですー!!!🫶🏻💗 ̖́-
青くん紳士!!いいですねぇ‥海!やっぱり海と言ったらビーチバレーなんかなぁ…?私は海といえば、カニだね!あの小さいカニが可愛くてしょうがないwこれからもがんばってください!!