【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
青さんに彼女がいる設定ですので、苦手な方はお気をつけください!
桃視点→青視点
いつかこんな日が来るとは思っていた。
これからグループとして…仲間として長い時間を共にする上で、いつか言われるだろうとは思っていた。
「…今、なんて言った?まろ」
なのにそんな陳腐な言葉を返してしまったのは、自分に思考を整理する猶予を与えたかったからだ。
決してもう一度その言葉が聞きたかったわけじゃない。
「会社の人と、付き合うことになった」
俺に促されて、素直にまろはそう繰り返した。
「会社」…この場合はまろの本業の方を指し示しているのは分かる。
俺の知らない領域、俺の知らないまろ。
どんな付き合いがあるのか、そこでどんな話をしているのかすら知りようがない。
「相手は歌い手の俺にそれほど興味がなくて…でも活動自体は理解してくれてる。…事務所には迷惑かけんように気を付けるから」
だから、ないこには報告しとくな。
そう付け足したまろの顔を直視できない。
幸せそうな顔をしているのかどうかも確認することができない。
「了解。炎上事にさえならなければ別にうちとしては大丈夫だよ」
特別恋愛を禁止しているわけでもない。
変な匂わせをしたり相手を逆上させたりしなければいいだけで、まろに関してはその辺りは心配ない。
誰かと付き合って浮かれて匂わせるような奴じゃないし、相手の扱いも間違えないだろう。
加えて、こういう商売をしている以上リスナーへのサービスがどういうことかは確実に理解しているはずだから。
…でも、いつか来る日だとは思っていたけれど、覚悟をしていたわけではなかった。
今この時、俺との会話の間も、組んだ足の上で指を絡め合わせているまろの両手。
あの大きな手に守られる特別な存在ができた。
その事実は決して自分にとって簡単に受け入れられるものじゃない。
初めて俺が炎上した日…あの夜、俺の背中をさすっていた手はもう他の人のもので。
『大丈夫、大丈夫』
繰り返された安心できる優しい声音も、きっともう特別耳にすることはないんだろう。
『ないこは俺がずっと守るから』
あの日ひどくほっとしたそんなまろのセリフを、昨日のことのように鮮明に思い出す。
「…うそつき」
話を終えてまろが部屋を出て行った瞬間、ぽつりとそんな言葉が口から零れ落ちた。
ベッドの中、もそりと隣の影が動く気配で起きた。
目を薄く開くと、キャミソールに下着というラフすぎる格好の彼女がベッドから立ち上がったところだった。
「あ、ごめん起こした?」
カーテンの隙間から漏れる光が逆光になり、顔ははっきりとは見えない。
目を細めた俺の前に、彼女はすいとスマホを差し出してきた。
「はい。しなきゃいけないんでしょ? 『おはツイ』ってやつ」
にこりと笑んだんだろう。
少し弾んだような声でそう言う。
小さく頷きながらそれを受け取ると、俺は慣れた手つきで画面のロックを解除した。
彼女は、俺の活動に理解はしていてもさほど興味は示さない。
探ることはしないし、かと言って活動のせいで時間が思うように取れなくても文句を言うことはない。
理解を示しすぎている、と言っても過言ではないかもしれない。
Ifではなく、その中の俺自身を愛してくれているのだと言えば多分聞こえはいい。
リスナーへ向けてのおはツイだけ送信し、昨夜から放置しっぱなしだったタイムラインを何となく眺める。
それから今日は休みだからと、自分の名前関連での呟きを検索した。
エゴサなんていいことばかりではないから進んでやりたいわけではないけれど、これもリスナーの声を知るためにたまには必要なことだと認識している。
忙しい平日には絶対にやりたくないから、休日へと後回しにしてしまう作業の一つだ。
そこに並ぶ意見は肯定的なものばかりではない。
たまに否定的なものももちろん混じる。
最初の頃は雑音のようなそれにいちいち傷ついたりしていたけれど、最近では感覚も大分麻痺したのか耐性はできてきた気がしていた。
…それでも………それでも、全く傷つかないなんてことはない。
並んだ雑音のようなそれに対して、何も思わないなんてことは決してない。
「わ、何それ」
俺の画面を覗き込んだ彼女が、小さく声を上げた。
たまたま見えたらしい否定的な意見。
だけどそれから、「ふふ」と微かに笑って俺の肩にそっと手を置く。
「有名税、ってやつだねぇ」
きっと慰めのつもりだったんだろう。
こうして悪口を言われるのは人気になった証拠だ、と。
心ない人間の言うことなんて気にするなと、そう言いたかったのかもしれない。
それは彼女なりの優しさだとも知っていたから、俺は「…そやね」とだけ小さく笑って呟き返した。
本業の会社は休みでも、活動自体は休めないこと多々もある。
事務所に赴いてやらなければいけないこともある。
休日だというのに昼過ぎから事務所へと足を向ける俺に、彼女はやはり文句の一つも言わなかった。
「おはよう」
事務所の一室を開くと、ないこが椅子に座っていた。
そう呼びかけたけれど返る声はない。
何やらスマホを真剣に眺めていて、こちらの声など聞こえていないようだった。
「ないこ?」
返事がない。
ドアを閉めながら、首を捻ってそちらに近づく。
その間もこちらに気づく様子はなかった。
そんなないこの表情は、あまり見たことがないくらいに険しいものだ。
眉間に皺を寄せ、唇がきゅっと引き結ばれている。
きっと口の中では歯をぎりと噛みしめているんだろう。
珍しく怒りを露わにしたような表情だった。
「ないこ」
すぐ傍まで寄って、声をかける。
するとさすがに俺の存在に気づいたらしいあいつは、「うわ!びっくりした」と椅子から飛び上がりそうになった。
漫画のキャラクターさながらのその様子に思わず笑ってしまった俺の目の前で、ないこは驚きの余り持っていたスマホを取り落としそうになった。
「あっぶな」
慌てて手を出して、俺はそれを空中で受け止める。
キャッチした瞬間に変なところをタップしてしまわなかったか気になって、スマホを表に返した。
その瞬間、さっきまでないこが見ていた画面が視界に映る。
「…! あ、ありがとまろ!」
慌ててないこが俺の手からスマホを取り上げる。
だけど、そのほんの一瞬でも見えてしまった画面。
それは俺が今朝方見かけた、自分への雑音の数々。
ないこは社長として…多分俺らが自分をエゴサするよりももっと世間の声を目にしている。
それがニーズに応えるための一つの道だと知っているからだ。
もちろん、心ない声全てを受け入れるつもりなんてない。
むしろ匿名で好き放題言う人間の言うことなんて価値がないことの方が多い。
それでも立場上、リサーチしないわけにはいかない事情もある。
ないこの立場は、そういうものを含んでいる。
だから、目にしたんだろう。俺に対するあの雑音を。
それであんなに…呼ばれても聞こえないくらいに怒りに満ちていたに違いない。
お前はそういう奴だよな。きっと俺自身よりもその胸を痛めるんだ。
「あぁそれ、俺も見たよ」
何でもないことのように笑って言うと、ないこは眉を寄せてこちらを見つめ返した。
画面を消しながらスマホをぐっと握りしめるのが見える。
「有名税、ってやつやなぁ」
ふふ、と笑いながら、今朝の彼女の言葉を模倣する。
だけどないこは…俺が彼女にこの言葉を言われたときのように笑ったりはしなかった。
むしろ、さっきまでよりも目を吊り上げてこちらを見据える。
「そんなこと言うな!」
へらりと笑った俺の言葉を一蹴するように、ないこは肩を怒らせていた。
「有名になったら何でも我慢しなきゃいけないのかよ!? 人を人とも思わないような奴らに何言われても耐えなきゃいけないのか! そんなわけないだろ! こっちだって…お前にだって心があるんだよ!!!」
怒って威嚇するときの犬みたいに、ふーふーとないこは肩で荒い呼吸を繰り返す。
目を丸くしてそれを見つめていた俺は、思わず「…ごめん」と呟いていた。
「…まろに怒ってるんじゃない」
「うん、知っとるよ」
小さく頷くようにして言って、俺は一瞬だけ目を伏せる。
あぁ…今のこの瞬間に、全てが覆ったなぁなんて胸の内で思う。
俺の「中身」を好きだと言って、アンチの声も「有名税」だと笑い飛ばしてくれた彼女。
それが彼女なりの愛だと理解はしている。
だけど、ないこは違う。
俺の中身もIfという用意された外側も、全てを本物と認めてくれる。
ガワの話だとしても、アンチの声を受ければ傷つく「心」を持っていると理解してくれている。
どちらも本当の優しさだし、どちらが間違っているとかいう話ではないと思う。
でも、今の俺に必要なのが一体どちらなのかは明白だった。
「…ないこ、俺ちょっと急用できた。後でまた手伝いに来るわ。……何時になるかは…ちょっと分からんけど」
「…え? あ、うん…」
話を途中で急に終わらされたような気がしたのか、ないこは少し面食らったように目を見開いた。
それからためらいがちに頷く。
「そんでその時、ちょっと話したいことがあるんやけど」
「話? 話なら今すればいいじゃん」
「順番があるから。ないこに話す前にやらないかんことあるし」
「遅くなりそうなら、お互い家帰ってから通話とか…」
「直接話したい」
終わらない押し問答に、珍しく頑として譲らない気配を俺から感じ取ったのか…ないこは小さく吐息を漏らした。
「ん、分かった。どうせここで仕事してると思うし」
ごめんな、と言いかけた言葉を飲み込んだ。
代わりに「ありがとう」と口にすると、あいつはさっきまでの怒りを鎮めたような表情で微かに微笑んでみせた。
最初から…俺だけが間違えていた。
知ってたよ。
ないこが俺のことをどう思っているか。
どんな目で俺を見ているのか。
多分それは、自分がないこを同じように想っていたからこそ気づけたことだ。
だけど…だからと言って簡単にその手を取るわけにはいかなかった。
活動者という立場でのメリットとデメリットを考えたとき、互いのその感情を受け入れ合うにはリスクが高すぎると思った。
だから、ないこの気持ちには気づかないふりをした。
傷つけると知っていて、それでも他に目を向けようとした。
何も一番好きな人とじゃないと幸せになれないなんて決まりはない。
二番目でも三番目でも…きっとささやかな幸せは見つけられる。
そう思って彼女の手を取った。
そうして離れることが、活動者として…社長としてのないこの立場を守ることにもなると信じていた。
だけど現実はこうだ。
結局彼女の言動をないこの影と比べ、「違う」と実感してしまう日々。
守ってあげる、胸にそう決意してあえて離した手をひどく後悔している。
諦めるのは得意だと思っていた自分が、それでもないこがいないことに感情が枯渇していくのを実感していく。
「…ごめん」
事務所を飛び出して戻り、すぐさま別れを切り出した俺に彼女はこの時も嘘のように理解を示した。
…恐らく気づいていたんだろうと思う。
俺の中に、本当は誰も超えられないくらい大きな存在がいることを。
「ううん、今までありがとう」なんて言われたから、その時初めて泣きたくなった。
「おせーよまろ」
彼女との話を終えて事務所に戻ったときには、休日出勤していた他の社員はもうとっくに退社している時間だった。
社長室に残っていたないこは、揶揄するようにそんな軽い口調で言ってくる。
「で、話って何? 脱退とか引退とかだったら聞かねーから」
「…ないこ」
「あ、彼女と結婚とかだったらさ、事務所的には別にいいけど、スピーチは俺じゃなくてしょうちゃんかあにきにでも頼んで」
「ないこ!」
軽口を続けるように言うないこの言葉を、大きな声で遮る。
勢いに乗せたこちらの呼びかけに、ないこはようやくそこで口を噤んだ。
「……ごめん、何?話って」
吐息を漏らして、ないこは椅子をくるりと回してこちらを向いた。
デスクのすぐ傍まで歩み寄って、俺は座ったまま足を組んだ態勢のないこと対峙する。
「…彼女と、別れた」
小さく…だけどはっきりとした口調で告げると、ないこの宝石のようにきれいな瞳が大きく見開かれた。
「……は?」と、その眼差しに一瞬で動揺が広がっていくのが分かる。
「いやいやいや、付き合ってるって聞いたのついこの前…」
「うん、でも無理やった」
何で、とないこは声にならない声を返した。
言外に視線で問う。
感情の揺らぐその目を見つめ返して、俺は更に言葉を継いだ。
「…ないこじゃ、ないから」
ぽつりとした呟きは、それでもないこの耳にはしっかり届いただろう。
見開かれた目が、これ以上は無理だというのにそれでも驚きに色を染めていくのが分かる。
「ないこじゃないと、誰かと一緒におることに意味なんてないから」
「おま…っ、俺がこの前どんだけショック受けたと…」
「うん、ごめんな」
言外に、ないこの気持ちも知っていることを告げる。
すると自分の想いを見透かされていたことを初めて知って恥ずかしいと思ったのか、ないこは顔を伏せて「…最悪…」と呟いた。
遠回りしたことは何回だって謝るから、お前の隣でお前だけを守ることをこれからも許してほしい。
そんなことを思ったけれど、それを口にしたらきっとないこは「ばーか、俺がお前を守るんだよ」なんて憎まれ口を叩くんだろうな。
腕を伸ばしてないこを引っ張り立たせ、ぎゅっと強く抱きしめる。
沸き立つ感情に比べると割とクリアな頭の中で、漠然とそんなことを考えて小さく笑みが漏れた。
コメント
2件
青くん!自分の「本当の気持ち」に気づけたのかな?自分の気持に気づいてすぐに別れを彼女に切り出すというその行動力!!すんごい尊敬する!解釈違ったらごめんなさい!これからも更新頑張ってください!
自分の気持ちに蓋って簡単にできないんですよね。 やっぱり人だから、「すき」と「すきじゃない」は区別しちゃいますよね。 でもそれを直ぐに行動に移せるのはすごいですよね〜、これぐらいの行動力あったらいいのに。 やっぱり本当の「すき」が1番ですよね。 更新ありがとうございました🍀 最近コメント出来ないことも多いですが、いつも楽しませて貰ってます