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それから、リクはバーに足を運ぶのをやめた。ショウの笑顔を、カシスオレンジの味を、忘れようとした。でも、街のどこかでカシスの香りを嗅ぐたびに、あの夜の記憶が蘇る。 ある日、大学の帰り道、リクは偶然ショウとすれ違った。ショウはいつものように軽い笑顔で手を振った。
「よ、リク。元気?」
リクは一瞬、言葉に詰まった。でも、すぐに笑って答えた。
「まあね。ショウは?」
「変わんねーよ。…でもさ、カシスオレンジ、最近誰も注文しねえから、ちょっと寂しいかな」
ショウのその言葉に、リクの胸が少しだけ温かくなった。
二人は少しだけ立ち話をし、別れた。リクは振り返らずに歩き出したけど、心の中ではあの歌のフレーズが響いていた。
『欲しかったのはね 「ごめんね」じゃなくて 「楽しかった」のひと言でいいのよ』
リクは小さく笑った。ショウとの時間は、確かに楽しかった。それだけで、十分だったのかもしれない。