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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第85話 〚違和感の輪郭〛(海翔視点)
帰り道。
澪と別れてから、
海翔は一人で歩いていた。
夕方の空は、
やけに静かだった。
(……さっきの)
廊下での出来事が、
頭から離れない。
ぶつかった。
よろけた。
壁に当たった。
それ自体は、よくある事故だ。
でも。
——澪の顔。
あの瞬間の、
一瞬だけ強張った表情。
「頭、痛くなった」
そう言った時の声が、
妙に現実味を帯びていた。
(本当に、ただの頭痛か?)
海翔は、歩きながら考える。
澪は、昔から少し変わっていた。
・危ない場面を、なぜか避けられる
・言葉を選ぶ時が、極端に慎重
・「想像」という言葉を、避ける
(……予知)
最初は、
そう思っていた。
未来が見える。
だから、危険を回避できる。
でも。
今日のあれは、
“未来を見て避けた”動きじゃなかった。
むしろ——
(止めようとしてた)
何かが、
起きる前に。
澪は、
自分の中で何かと戦っている。
それだけは、確信できた。
立ち止まって、
海翔は自販機の前に寄りかかる。
(もし)
もし、澪の力が
「見る」だけじゃなかったら?
もし、
何かを“引き寄せる”力だったら?
考えた瞬間、
背筋が冷えた。
(いや……)
そんなこと、
普通はありえない。
でも。
澪の頭痛。
空気が一瞬だけ、張りつめた感覚。
近づいた瞬間の、あの違和感。
(……俺は、何を見てたんだ)
海翔は、思い出す。
澪は、
距離を取った。
自分から、一歩下がった。
逃げるみたいに。
(俺から、じゃない)
(澪が、選んだ距離)
そこが、
いちばん引っかかっていた。
「俺が気をつける」
そう言ったけど。
本当は。
(澪は、俺を避けたいんじゃない)
(“何か”を避けたいんだ)
海翔は、拳を握る。
(聞くべきか?)
正直に、
「何が起きた?」って。
でも。
澪は、
言えない顔をしていた。
言ったら、
何かが壊れると知っている顔。
(……待つ)
今は、
踏み込まない。
でも、
見ないふりもしない。
——距離が近くなりすぎないようにする。
——人目のない場所を避ける。
——澪が下がったら、追わない。
それは、
“離れる”ためじゃない。
(守るためだ)
海翔は、
静かに決めた。
もし次に、
同じ違和感を感じたら。
今度は、
俺が先に止める。
澪が一人で抱え込む前に。
空を見上げる。
夕焼けの色が、
ゆっくり夜に変わっていく。
(澪)
お前が何を隠していても。
俺は、
気づいてる。
そして、
目を逸らさない。
——それが、
今の俺にできる「守り方」だ。