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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第86話 〚近づかない距離〛(えま・りあ視点)
昼休み。
教室の窓際で、
えまは頬杖をついていた。
視線の先には、
澪と海翔。
……なのに。
(あれ?)
えまは、首を傾げる。
前までなら、
自然に並んで座ってた。
話す時も、
距離は近かった。
でも今は——
(……遠くない?)
同じ机。
同じ会話。
なのに、
間に見えない線がある。
澪は、
少しだけ身体を引いている。
海翔も、
それ以上近づかない。
「えま」
隣から、
りあが小さく声を出した。
「今、思ったでしょ」
「……うん」
えまは、苦笑する。
「やっぱ、りあも?」
りあは、
机の上で指を組んだまま、
小さく頷いた。
「最近さ」
りあは、
澪を見ながら言う。
「二人とも、変」
えまは、
“やっぱり”と思った。
りあは、
人の空気の変化に
やたら敏感だ。
「喧嘩してる感じじゃないし」
「避けてるっていうより……」
りあは言葉を探して、
少し黙る。
「……気を遣いすぎてる」
その言葉に、
えまは息を飲んだ。
「それ」
えまは、
小さく指を立てる。
「それなんだよ」
澪は、
笑ってる。
海翔も、
普通に話してる。
でも。
(“触れない”)
偶然、
肘が当たりそうになった時。
澪は、
ほんの一瞬で距離を取った。
海翔も、
追わなかった。
「前はさ」
えまは、
声を落とす。
「海翔のほうが、
無意識に距離縮めてたよね」
「うん」
りあは、即答した。
「今は、
澪が下がって、
海翔が止まってる」
二人とも、
同時に黙る。
(……意図的)
それが、
はっきり分かった。
「澪、なんか隠してる」
えまが言うと、
りあは、
少しだけ視線を伏せた。
「……たぶん」
「澪だけじゃない」
えまが、
りあを見る。
「海翔も、気づいてる」
りあは、
驚いた顔でえまを見た。
「分かる?」
「うん」
えまは、
息を吐く。
「“知らないフリ”してる感じ」
それは、
無関心じゃない。
踏み込みすぎない、
優しさの距離。
りあは、
唇を噛んだ。
「澪、また一人で抱えてないかな」
その言葉に、
えまは少しだけ笑う。
でも、
目は真剣だった。
「……だからさ」
えまは、
立ち上がる。
「私たちは、
“気づいてる側”でいよ」
「聞き出さない」
「詰めない」
「でも、
目を離さない」
りあは、
ゆっくり頷いた。
「澪が話したくなった時」
「逃げ場、
ちゃんと作っとこ」
二人は、
何も言わずに
澪のほうを見る。
澪は、
ノートを見ている。
海翔は、
少し離れた席で、
窓の外を見ていた。
——距離はある。
でも。
(切れてない)
えまは、
それだけは確信した。
この距離は、
壊れかけじゃない。
(守ろうとしてる距離)
だからこそ。
「……静観だね」
えまが言うと、
りあは、
小さく笑った。
「うん」
「今は、
見てる側でいよ」
昼休みのチャイムが鳴る。
誰も、
何も言わない。
でも。
このクラスで、
二人の変化に気づいた者が増えた。
それは、
嵐の前じゃない。
——選択の前触れだった。