「あー、やることねぇな」
高校を中退してからパチンコ屋と家を往復する日々。
毎日代わり映えのしない…。しかし、この日はいつもと違っていた。
俺がパチンコ屋に向かって歩いていると──。
ガシャーン!
ドーーンッ!
大きな音が鳴り響いた。
同時に、俺は頭に強い衝撃を受け、意識を失ってしまった。
*****
目を覚ますと、俺はベッドに横たわっていた。
状況を把握しようと、頭を働かせていると──。
ベッドを囲んでいたカーテンが静かに開いた。
そして、見知らぬ男が顔をのぞかせた。
「よかった、気づかれたんですね」
「はぁ…」
俺はどう答えていいのか分からなかった。
「強風にあおられたお店の看板が落ちてきて、川野さんの頭に直撃したんです」
男が俺の身に起きた状況を説明してくれた。どうりで頭が痛むはずだ。
男は白衣を着ていた。ということは医師か。
けど、俺は誰なんだ?
頭を強く打ったせいか、記憶があいまいだ。
俺は医師に不安を訴えた。
「検査の結果は、異常ないんですが…しばらく様子を見ましょう」
医師からそう告げられ、俺はそのまま入院した。
そして、数日後には俺の記憶はすっかり元に戻った。
頭にできたコブも治り、頭の痛みもなくなった。
病院で規則正しい生活を送ったおかげで、前よりも健康になった気がする。
しかし、記憶を取り戻したことはよいとは言えなかった。
いや、忘れたままの方がよかったのかもしれない。
俺は思い出したのだ。
高校時代、俺はいじめられっ子だった。
思い出したくもない俺の黒歴史。
*****
「おい、動くなよ」
俺を的にして、大槻が勢いよくダーツを投げた。
「ひぃぃ」
俺は思わずしゃがんだ。
「惜しい。外れたな」
大槻の子分である鈴木がそう言って笑った。
「だから、動くなって言っただろうが」
大槻が怒鳴った。
「ご、ごめん」
「チッ。おまえのせいで俺がこいつらにジュースをおごらなきゃなんねぇだろうが」
「てかさ、大槻が負けたのはこいつの責任だろ」
大槻に媚びるように、鈴木が俺に責任をなすりつけた。
「お前がおごれよ」
大槻の子分、山田も同意した。
「そ、そうだね」
俺は急いでカバンから財布を取り出し、購買部に向かって走った。
大槻君がコーヒーで、鈴木君が炭酸水、山田君がオレンジジュース。
悲しいことにいつもパシリをやっているせいで、好みは覚えている。
俺は高校に入学してすぐに同じクラスの大槻に目をつけられた。
そして、来る日も来る日もいじめられた。
*****
「おい、みんな、注目!」
「や、やめてくれよ」
鈴木と山田が俺を羽交い絞めにした。
俺のズボンとトランクスが無理やり脱がされた。
「何、あれ」
「クス、クスッ」
教室から女子の笑い声が聞こえた。
その中には俺が中学のときから好きだった麻衣もいた。
けど、俺はヘラヘラ笑っていた。
「大槻君たち、冗談はやめてくれよ」
大槻、鈴木、山田がこわかったから。
それに、クラスに俺の味方は誰一人としていなかったから。
「お前、情けねぇな」
大槻が俺をあざ笑った。
そして、俺は学校に通うのがイヤになった。
そのせいで高校も出席日数が足りずに中退してしまった。
*****
かつてのクラスメイトが大学や専門学校に通う中、俺はニートになった。
親から小遣いをもらい、毎日、パチンコ屋に通う日々を送っていたのだ。
俺は自分をいじめていた大槻、鈴木、山田に無性に腹が立った。
あいつらのせいで俺の人生は台なしだ。
あんな奴らが、普通に暮らしていていいのか。
思い出したら腹が立ってきた。
どうして高校時代はあいつらの言うままだったんだろう。
なぜヘラヘラ笑っていたんだ?ちっとも反撃できなかったんだ?
あいつらにやり返して、身も心も、人生全てをズタズタにしてやる。
頭を打ったおかけで、俺は別人になった。
身体の奥から燃え上がるものがある。
俺の闘争本能に火がついて、身体中に力がみなぎった。
俺は退院すると、復讐のための準備を整えた。
そして、まず鈴木に連絡をとることにした。
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