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「学生時代、ずっと似たような家柄、立場の友人と付き合ってきた。尊も篠宮ホールディングスの御曹司ではあるけど、事情ありでしょ? だからか、彼は同い年の友人たちより、ずっと大人びていて『自分にはお金も社会的地位もある。その気になれば女性なんてよりどりみどり』って考え方はしていない。尊はいつも『如何に家に頼らず生きていくか』を考えていた。だから彼自身、物凄くスペックが高いよ。『失敗しても安定した生活があるから大丈夫』って考え方をしていないから、すべての物事に対して真剣に向き合い、貪欲に学ぶ。……尊と出会ってから、俺も背筋が伸びた思いをしたな」
「そんなに大きな影響があったんですね」
私は相槌を打ちながらも、そうならざるを得なかった篠宮さんの境遇を想った。
「俺も含めだけど、『失敗しても大事に至らない』って思ってる奴は、どこか脇が甘いんだ。自分はとても大らかで人間ができているフリをしながらも、本当は人生を舐めてる。初めて尊と話した時、ぶっちゃけ彼を『キレッキレのナイフみたいだな』『ちょっと厨二病?』みたいに感じていたけど、尊が味わった地獄を知ったあと、そう思った自分を心から恥じた。……あれだけの絶望を味わって、血を吐く思いで前に進んでる奴を、俺は他に知らない」
チラッと涼さんの横顔を見ると、砂浜に置かれたランプに照らされた彼は、とても真剣な表情をしていた。
「生まれて初めて、同い年の友人を尊敬した。『こいつみたいに誇り高く生きたい』って思った。……尊は俺のほうこそ人間ができていて、羨ましいみたいに言うけど、全然だ。しょせん俺は恵まれたお坊ちゃんなんだよ。……だからこそ、親友の尊に恥じない自分でいようと、己を律して生きてきた」
涼さんは伸ばしていた脚で胡座をかき、自嘲するように溜め息をつく。
「恵ちゃんも他の人もみんな、俺を買いかぶってる。本当の俺は、少し気を緩めたら、すぐ駄目な奴になる。これでも〝いい奴〟であろうと必死なんだ。人が堕ちるのはとてもたやすいから、必死に日々努力し、頑張り続けている」
彼の独白とも思える言葉を聞きながら、私はこれが涼さんの本音、弱みなんだと感じていた。
どこから見ても完璧で、天は二物を与えたような存在と思っていたけれど、やっぱり努力ありきだ。
けれど涼さんは、頑張らないと〝いい人〟でいられない自分を、少し嫌悪しているようだ。
だから少しガス抜きしてあげる事にした。
「……いいんじゃないですか?」
「え?」
私が口を挟んだからか、彼はハッと我に返り、こちらを見つめてくる。
「まったくの善人なんていませんよ。そりゃあ、子供の頃は無垢だったかもしれないけど、自我が発達するにつれて色んな欲を知っていくのは当たり前でしょう? 涼さんだって私を買いかぶってくれてますけど、私、こう見えて結構他人に冷たいですし」
「ふふっ、『こう見えて』じゃなくて、なかなかクールだよ」
「涼さんはどんだけ塩対応しても、堪えない貴重な人と思ってます」
私はクスッと笑い、彼の手を握った。
「涼さんって、三日月グループの御曹司だから、余計に『完璧でなきゃいけない』って自分に課していると思います。……でも、表向きみんなに優しくして、波風立たない人付き合いができているなら、それでいいんじゃないですか? たとえば心の中で『あいつ嫌いだ』って思っていても、誰も責めません。私と夫婦になったあと、私にだけ本音を見せてくれても、全然問題ありません。涼さんの愚痴ってレアっぽいから、幾らでも聞きますよ」
そこまで言い、私はポンポンと彼の手を叩く。
「完璧主義社って病みやすいのは分かってますよね? 涼さんは上手くガス抜きをして、考えすぎたら駄目とか、自分をある程度コントロールできてるから、本気で病む事はないと思ってます。……でも、さっきの話を聞いてたら、『篠宮さんに比べて自分は駄目だ』みたいな感じがあったから、そこまで思う必要はないですよ、って言いたかったんです」
少し照れてきた私は、立ちあがると涼さんの胡座の上に「えいっ」と座る。
「涼さんと出会ったばかりの私が『らしくない』なんて言ったら、『俺の何を知ってるんだ』って言われるかもしれないですけど、夜の海なんて見てるから、ネガティブな面を見つめて自分語りしたくなるんです。こういう時間もたまには必要ですけど、ガス抜きしたあとは、またガンガンと、うざったいまでの大型犬太陽属性でいてください。こういう涼さんが嫌だとかじゃなくて、考えすぎるとハゲて病むので。要するに、あなたが悩んでいる事を、篠宮さんはまったく気にしていないし、私も何とも思ってない。涼さんが自分に『心身共に完璧であれ』ってギュウギュウに縛り付けてるだけなんです。マゾか」
「ふ……っ、ははっ!」
涼さんは体を震わせて笑い、私をギューッと抱き締めてきた。
「やっぱり恵ちゃんの事、大好きだなぁ……。君は良くも悪くもブレない。迷いや不安はあっても、自分の中に一本の芯が通ってる。そのまっすぐな軸を信じられるから、俺は君に弱音を吐く事ができるんだと思う。……こんな事、今まで誰にも言わなかった気がするな……」
涼さんは改めて気づいたように言い、うんうんと頷いていた。
「俺と恵ちゃんの相性、すっごくいいと思うよ。大好き!」
「……そーですね」
私はそっけなく言いつつ、彼の腕をギュッと抱き締める。
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