テラーノベル
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「ちょっと!」
思わず、綾乃は声を上げていた。自室のベッドを蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。
「何、動かなくなってるわけ!?まさかもう死んだんじゃないでしょうね!?」
目の前に、楓を閉じ込めた異空間の映像が映し出されている。白い部屋は、飛び散った血でまだらに染まっていた。
灰色の人形たちが楓の体を抑え込み、破れたパジャマを辛うじてひっかけているだけの少女の腰を掴んで揺さぶっている。人形が腰を打ち付けるたび、変形したブツが少女の内臓を突き破り、臍の下からぶち、ぶち、と飛び出して血肉を飛び散らせていた。
子宮も膣も腹筋も滅茶苦茶になっているはず。ひょっとしたら腸や膀胱も傷つけているかもしれない。だが、ぐったりしたままの楓は動かない。息もしていない。――やらかした、と綾乃は舌打ちをした。あの女の態度にあまりにも腹が立って――人形に余計な力を付加しすぎた、と。
確かに、女をウリにして先生達を誑し込んだであろうあいつが、子供を産めない体になるのが見たいと思ったのは事実。少女として最大の恐怖の一つである集団によりレイプを実践して、ひらすら恐怖させてやろうと思ったことまでは間違いない。だが、もう少し手加減するべきだった。子宮口を貫く程度で留めておけば、ここまでの傷を負わせることはなく――出血性ショックであっさり死なせることもなかったというのに。
「まだよ……まだまだまだまだまだまだまだ、苦しめて辱めて殺してやるつもりだったのに!こんなにあっさり、楽に死んでんじゃないわよ、ふざけんじゃないわよ!!」
まだ、やってやりたいことはいくらでもあった。
物理的暴行も性的暴行も、あくまで前菜でしかない。本当はこのあともっともっとやりたいことがあった。それこそ、もっともっと顔も潰してぐちゃぐちゃにしてやりたかったし、なんなら全身の穴という穴に針を通すということもやってみたかったというのに。
そう、人間の穴というのは、目や鼻、耳、尿道、肛門、膣のような場所だけではない。全身に、毛穴という穴が空いている。それに一本ずつ、細い針を突き刺して抉ってやったらどれほど楽しいことになるだろうと思っていたのである。
いきなり大きな傷を与えては、出血死してしまう可能性がある。しかし、毛穴程度の細さの針ならばどうか。さほど血は出ないし、出たところで刺した針でつまってしまってそもそも出血自体をしないかもしれない。それでいて、きっととってつもなく痛い思いをしてくれるはずだ。
人間の毛穴の数というのは、顔だけで二十万個もあるという。全身なら一体いくつになるのか、想像もつかない話だ。
――そしてハリネズミにしたら、そのまま顔を鍬で耕してやるつもりだった!
脳に損傷を与えないように気を付けながら、顔面を耕してグチャグチャにしてやる。息だけはできるように調整しながら、目を、鼻を、頬を、耳を丁寧に潰して引き裂いてやるのだ。
あるいはその前に、眼玉だけはほじくり出してやるのもいいだろうか。スプーンを突き刺して、プリンでも食べるように眼球をほじくって。それから、視神経がどんどん伸びてくる様を、もう片方の眼に見せつけてやるのも楽しいと考えていた。そして、そのまま神経を一本ずつ切断していき、彼女の眼玉が取り返しのつかない有様になるのを教えてやるのである。
いや、いや、そのまえに、眼球をもみこんで、吐き気がするほどの嫌悪感と苦痛を与えてやった方がいい。神経を切るのは楽しいが、全部切ってしまったら痛覚もなくなってしまう。それは最後のメインディッシュだ。
――ってところまで考えていたのに!何、あっさり死んでんのよ!ありえない、ありえないありえないありえないありえないありえない!!
足を踏み鳴らし、怒りを露わにする。
どうしてこんなことになるのだろう。まだ全然、自分の苦しみには足らない。怒りは収まっていない。もっともっとぐちゃぐちゃに踏みつけて踏みつぶして、取り返しのつかないところまで痛めつけたところであいつに“ごめんなさい私が全て間違っていました。枕営業をやりました、貴女をいじめました、申し訳なかったです許してください”と認めさせ、土下座させてやるつもりでいたのに。
「足らないわよ……こんなんじゃ足らない、足らない足らない足らない足らない足らない!」
ぶちゅうう、と人形の陰茎が派手に楓の腹から飛び出した。同時に、肉みそのようになった子宮と卵巣、腸の一部らしきものが彼女の腹から溢れ出してくる。さらに、他の人形たちがその腹の傷に手をかけた。ぶちぶちぶちぶちぶち、と腹筋を腕力で強引に引き裂いていく。肉を引きちぎるというのは存外力が必要なものだが、この人形たちは綾乃の魔力でとんでもない怪力に仕上げてあるから可能なのだ。
楓の腹が、ザクロのようにぱっかりと割れていく。
そして腹圧がなくなったそこから一気に、詰まっていた臓器が吐き出された。むにむにむに、とまだ比較的綺麗な腸菅に、それから肝臓や膵臓らしきもの。奥には肋骨や背骨らしきものも見え隠れしている。
「もっと潰しなさい!もっともっともっともっともっともっと……もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!ぐちゃぐちゃに、めためたに、形も何もなくなるまでええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
一体の人形の手が、鉄製の鍬の形に変化した。それを楓の胸に振り下ろす。ぶちゅうう、とゼリーが踏みつけられるような音とともに、一瞬にして楓の大きな左の乳房が形を失った。まるでプリンのような肉片がぼとっ、と床に転がる。もう片方の乳房も、人形の手の一振りでひき肉になった。肉を引きはがす時の力が強かったせいか、白い肋骨がむき出しになっている。
「ほらほらほら起きなさいよ、起きなさいよ蓮見楓ええええええええええ!あんたの自慢のおっぱいなくなっちゃったわよ!ほらほらほらほら!!」
叫びながら、次の指示を出した。鍬が彼女の顔面に降り降りされたのである。楓の眼が、鼻が、一瞬にして潰れた肉片と化した。上唇がなくなり、歯茎がむき出しになる。それだけではない。怪物が髪の毛を強引に引っ張ると、ぶちぶちぶちぶちぶち、という音とともに頭皮ごと剥がれ落ちていく。
血まみれの頭蓋骨をむき出しにし、上唇から額までの顔の要素を全て失い、眼球があった場所にはぽっかりとした肉穴を晒し。もはや、学校でちやほやされていた“お嬢様(笑)”の面影は見る影もない。
「痛がりなさいよ!絶望しなさいよ!ほらほらほらほらほら!ほらああああああああああああああああああああ!!」
だが。
当然、もう楓が動くことはない。悲鳴を上げることも、抵抗することも、そして綾乃が望む謝罪を発することも。
気づけば彼女の体は、両手両足を覗いて綺麗に引き裂かれ、耕され、ぐちゃぐちゃにひきつぶされた肉の塊となっていたのだった。ここまでやって、ああ失敗した、と綾乃は思ってしまった。
この死体は現世に戻して、どこかに捨てなければいけない。楓の死体は冬香や由衣よりもぐちゃぐちゃになったものにしようとは思っていたが――コレが楓だと分からないレベルまで損壊してしまったのは正直やりすぎだったのではなかろうか。
中途半端に面影が残っていた方が、人は絶望するもの。
周囲も怯え、元の彼女を知る者ほどそのおぞましさに唾棄したくなるもの。
だが、髪の毛がなくなり、顔面も耕されてしまったとあっては、“これは蓮見楓ではない”という現実逃避が可能となってしまうのではないか。いや、もちろんDNA鑑定があるので、そんなことをしてもこの死体が楓あることは簡単に証明できてしまうのだろうが。
「ああああもう、全然収まらない……むかつく、本当にむかつく!!」
死体を壊すのは楽しいが、本人が楽しく痛がってくれないのでは面白さも半減だ。
最後に人形たちが、揃って肉の塊となった楓を踏みつけた。足の裏でぐりぐりと踏みにじり、血の海をさらに広げていく。
とりあえず、この死体は彼女の部屋にでも戻しておくことにしようと決める。自分は自宅の部屋から出ていないし、彼女も部屋から出ていない。そして、綾乃の家と楓の家は何キロ以上も離れているはず。アリバイとしては何も問題あるまい。
――ああもうっ……収まらない!でも、仕方ないわ。やりすぎちゃったのはあたしだし、そこは耐えなきゃ。……いや。
『愛されたいだけ、認められたい、だけ。……自分で誰かを愛したり、認めることができない人を……一体、誰が、愛すると?それがわからない限り、貴女は一生……誰からも、愛されない。いい加減、認めたら、どうですか。ここで、私を殺しても、貴女が本当に救われることなんてない。それどころか……』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ドンドンドンドン!と足を激しく地団駄を踏む。やっぱり、自分は間違っていない。あの女が、あんなことを言うのがいけないのだ。最期の最期まで、自分をコケにして。まるで何もかもわかったような上から目線で説教してきて。
そうだ、そのせいでうっかり力が入りすぎてしまっただけ。悪いのは、余計なことを言ってきたあいつだ。そう、自分はいつだって間違ってなんかない。失敗なんかしていない。やらかしてなんかいない。全部全部全部全部、あの女がいけないのだ。楓が全ての元凶なのだ。
そもそも、その前の電話で自分は苛つかされていた。どうして電話なんかかけてきたのか。何故自分の電話番号を知っていたのか。
いや、わかっている。綾乃の電話番号を知っていて、お節介をしてきそうなやつなどたった一人しかいない。
「歌ぁぁぁ!あんたが、余計なことするから!ふざけんじゃないわよ!」
あいつだけは、自分の味方をしてくれていると思っていたのに。一応、友達だと思っておいてやったというのに。
実は最初から自分のことを陰で見下していたとでもいうのか。裏でこっそり楓と繋がっていた?そして、いじめられて惨めに震える綾乃を見て、影でこっそり嘲笑っていたということなのだろうか?
そう考えれば、筋が通るかもしれない。
楓に「お前は知らぬ存ぜぬのふりをしろ」と入れ知恵をしたのも誰かさんと考えればわかりやすい。まさかそんなことで、自分が楓だけは許してやるとでも思っていたのか?
そして歌が黒幕であるという事実に、自分が気付かないほど馬鹿だとでも?
――確かめなきゃ。……いえ、きっと、きっとそうに違いないわ。だってあたしが間違ったことを考えるはずがないんだもの。
思考はぐにゃぐにゃと曲がって、墜ちて、沈んで、闇の奥底でどろどろに濁って溶けていく。
楓で晴らしきれなかった恨み。まだ、ぶつけられる対象がいるのかもしれない。そう思うと、自然と口元に笑みがこぼれるというものだ。
ましてや、最初から敵だとわかっていた楓よりある意味なおタチが悪い。友達のふりをして、味方のふりをして、一番はじめから綾乃を裏切っていたと考えるのであれば。
そう、楓よりもっともっともっと残酷で、苦しくて、辛い罰を受けるのも自然なことではないか。むしろ、それこそ本当の因果応報ではないか。
「ふふふふふ、あははははははははははは!はははははははははは、こいつは、傑作だわあ!」
既に、興味は楓から離れている。綾乃が指を鳴らすと、女の死体はあっさり空間から消え失せた。大量の血痕はそのままに、灰色の人形たちも一緒に消失する。
少し考えたが、やはり死体はあの女の部屋に投げ込んでいくということでいいだろう。朝、娘の部屋を覗いた母親がぐちゃぐちゃの肉の塊を見てどう思うか、想像しただけで面白そうだ。美しく上品だと思っていた娘の中身がどれほど醜くて汚いかを思い知って絶望すればいい。
――さあ、覚悟しなさいよ、歌。
まだ、自分の復讐劇は終わらない。終わらせるつもりはない。
綾乃はぺろり、と唇をなめあげたのだった。
#怪異
耐え内
233
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阿炎快空
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#ダークファンタジー
阿炎快空
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コメント
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「はじめアキラ」さん、第20話読みました……。 めちゃくちゃ重かったです。綾乃の怒りが完全に暴走して、楓がもう動かないのに執拗に壊し続けるシーン、読んでて息が詰まるようでした。でも、あの楓の最後の言葉が刺さって——『愛されたいだけなのに、自分では愛せない』ってとこ、綾乃の孤独の深さを感じました。復讐の相手を失っても満たされなくて、次に標的を向けるラストの狂気、続きが気になります。作品の「闇」をちゃんと描ける方だなあと思います。