テラーノベル
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私がまだ幼稚園児だった頃のこと。
絵を描くのが好きだった。誰よりも早く覚えて、誰よりも上手に描けると褒められた。
でも──褒められるたびに、胸の奥が少しだけ冷たくなる。
「わぁー、栞里ちゃん。これはキリンさんかしら?」
「うん。首、長いでしょ? 色も可愛いでしょ?」
「ええ、とっても。でも……キリンさんは黄色よ? これはピンクね」
先生は笑って、すぐに別の子のところへ行ってしまった。
私は、ピンクのキリンが可愛いと思っただけ。
“正しい色”じゃないと認めてもらえないなら、
私の“好き”はどこに置けばいいのだろう。
そんなことを考えていた時だった。
「おい、これ何だよ。バケモノでも描いたのか?」
クラスのガキ大将が、私の絵をひったくった。
「返して」
「こんな下手な絵、ゴミじゃん」
私は小さくて、彼の腕には届かなかった。
その時。
「何してるの〜?」
のんきな声が聞こえた。
翔太だった。
幼馴染だけど、当時はそこまで仲良くなかった。ただ親同士が仲良しで、たまに遊ぶ程度。
「バカは来んなよ! バカ菌が移るだろ!」
「バカ菌? 何それ!? 教えて!」
翔太は、ただ“気になったから”近づいただけ。
ガキ大将は驚いて後ろに転んだ。
その隙に翔太は、私の絵を拾い上げた。
「この絵! 首が長くて、すっごくかっこいい!
しかもピンク! これは栞里ちゃんにしか描けないキリンさんだね!」
「……それ、私の」
「えー!? 栞里ちゃんって天才なの!? どうしてそんなにすごいの!?」
翔太は本気で言っていた。
私を慰めようとしたわけでも、庇おうとしたわけでもない。
ただ──
“自分が思ったことをそのまま言っただけ”。
でも、その無邪気な言葉が、私の胸の奥に初めて“温かいもの”を灯した。
私を否定しない人。
私を“正しい色”に矯正しない人。
私の“好き”をそのまま認めてくれる人。
──そんな人は、翔太だけだった。
それから私は、翔太をよく見るようになった。
翔太は少し変わっている。周りからは「バカ」だとか「天然」だとか言われていたけれど、私はそれを“翔太の個性”だと思っていた。
人にはそれぞれ違いがある。違うからこそ、認め合わないと生きていけない。
私はそう思っていた。
「痛たーい!」
ある日、翔太がガキ大将に叩かれているのを見た。
でも翔太は、自分がいじめられていることに気づいていない。
むしろ──遊んでもらっていると勘違いして、笑っていた。
胸がざわついた。あの時の借りを返したいと思った。気づいたら、体が勝手に動いていた。
「やめなよ。そんなことしてもカッコ悪よ。……モテないよ?」
「な、なんだよ……わかったよ……」
本当は怖かった。
でも、翔太を傷つけるものは許せなかった。
「栞里ちゃん! せっかく遊んでたのに……」
やっぱり、この子は──。
「さっきのは遊びじゃないよ。いじめられてたの。……だから、私と遊ぼ?」
「本当!? やった! 友達ってこと?」
「うん。お友達。絵、教えてあげる」
「やったーー! 栞里ちゃんは天才だから嬉しい! 友達第一号だ! 絵以外にも教えてよ!」
友達第一号。それが翔太の個性。私はそれを否定しない。
「じゃあまずは、キリンさんの描き方を教えましょう」
「栞里ちゃん好き!」
……うん。
私も。
その日から、私は翔太が大好きになった。
そして同時に──
翔太が生きていく中で躓かないように、
私が守らなきゃいけない。そう強く思うようになった。
小学生になっても、中学生になっても──翔太の個性は誰にも認められなかった。
むしろ、いじめは酷くなっていった。
翔太は気づかない。叩かれても、蹴られても、笑っていた。「遊んでるんだ」と本気で思っていた。
このままじゃ、翔太が壊れてしまう。
だから私は決めた。
翔太を壊す子たちを、先に壊す。大事な人が壊れるくらいなら、私にとって“いらない子”が壊れればいい。
翔太のいないところで、私は動いた。
女友達を使った。先輩を使った。噂を流し、孤立させ、学校に居られないようにした。
誰も気づかない。
翔太も気づかない。
翔太には絶対に言えない。
だって、悲しむから。
だから私は、いつもこう言った。
「翔太は気にしなくていいの!」
この言葉は、翔太を守るための呪文。
そして同時に、私自身を守るための呪文。
──高校一年の春。
私はマサシに告白された。
「やぁ! 俺マサシ。よく“何でもできるハイスペ男子”って言われて困ってるんだよね」
「そう。」
「でさ? このハイスペの俺に似合うのは君しかいないと思うんだ。俺と付き合えば、君ももっと上にいけるよ」
「ごめん。私、好きな人いるから付き合えません」
「はぁ? え、俺が振られた? おかしいって。
まさかあのバカの翔太だっけ? あいつといつも一緒にいるけど、好きとか?」
「……そうだったら何?」
「はは! あり得ないわ。あんなゴミと? なに? 弱み握られてんの? じゃないと社会のゴミなんかとつるまないでしょ?」
ああ。そうね。
この人も──いらない子だ。
NGS_ヘビーなしっぽ
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#恋愛
コメント
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うわあ……第6話、心にずしんと来たよ。 ピンクのキリンを描いた栞里ちゃんの「好き」を、翔太くんだけがそのまま受け止めてくれたエピソード、すごく美しかった。同時に、彼女のなかで「守る」と「壊す」がイコールになっていく過程が、切なくて怖かった。 マサシの「ゴミ」発言で栞里のスイッチが入るラスト、鳥肌立った。次が気になる……!