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認知から数日、相変わらずのあわただしい日々を過ごしていた。
携帯電話が短い音楽を鳴らし、画面にメールのお知らせが表示される。
メッセージの送り主は『朝倉翔也先生』だ。
ワクワクしながらタップして画面を開くと、メッセージの内容は朝倉先生の自宅へのお誘いだった。
「はわわっ、先生の家へ遊びに行くなんて……。」
想像しただけで、緊張してメッセージが上手く入力できずに、焦ってしまう。
『はい、伺います』と打ち込んで、送信したものの気持ちが浮き立ち落ち着かない。
早速、支度を済ませ、美優と共に車に乗り込んだ。朝倉先生へのお土産を買いにちょっと高級なスーパーへ立ち寄り、あれこれ物色する。とは言え、一人暮らしの男性のお宅へ行くのに、手土産に何を持って行ったら良いのか、迷いに迷ってしまった。結局、お店の人に相談して、おすすめのマネキネコ猫の絵のラベルがかわいいスパーリングワインに決めた。
これで、カンペキ!
教えてもらったマンションの部屋番号をエントランスホールで入力する。
「いらっしゃい。開けたよ」と朝倉先生のイケボがインターフォン越しに聞こえて、エントランスの扉が開いた。
ピカピカに磨き上げられた大理石の床をコツコツと歩き、エレベーターのスイッチを押すと、待ち構えていたようにスッとドアが開く。すでに、高級マンションの雰囲気に飲まれている。緊張で生唾がたまり、ゴクンと飲み込む。そんな私とは対照的に、美優は腕の中で、すやすやと気持ち良さそう寝息を立てている。
指定の階へ到着し、部屋の部屋の前に着くと大きく深呼吸をしてから、インターフォンを押す。
「いらっしゃい。夏希さん」
本日も、見目麗しい朝倉先生が優しい笑顔で出迎えてくれる。
「こんにちは、朝倉先生」
「呼び方が、戻っているよ」
うわっ、名前呼び!
「翔也……先生」
改めて意識して呼ぶと、こそばゆい感じがして、心がそわそわする。
「美優ちゃん、眠っているんだね。預かるよ」
どうぞと通されたリビングは、20畳ぐらいの広さ。アジアンテイストのセンスのよいソファーセットとグリーンがおしゃれに配置され落ち着いた空間になっていた。
その空間の端にベビーベッドが置かれていて、美優が寝かされた。
まさか、美優のためにベビーベッドを用意して置いてくれるなんて思いもよらず、朝倉先生の優しさに驚くばかり。
「翔也先生、美優にベッドを用意してくださったんですか?」
「使ってないベッドがあったから組み立てておいたんだ。それより、今日はプライベートで会っているんだよ」
もちろんそのつもりで来たから、朝倉先生が念押しの意味が解らず、頭の中は「?」でいっぱいになった。
「名前で呼んで欲しいって、言ったよね」
「あっ!」と思ったけれど、いざ、名前を呼ぶのが恥ずかしい。
「し、翔也さん」
意識して口にするとムズムズとした気恥ずかしさが勝り、俯いてしまった。
顔が火照っている感じがする。
「夏希さん」
朝倉先生のイケボが耳元で聞こえ、甘い息がかかり、抱きしめられていた。
まさか、到着早々この展開になるとは思っていなくて、顔が上げられずにドキドキしながら朝倉先生のウッディな香水の香りに包まれていると、耳にチュッとキスをされた。くすぐったいような、もどかしいようなその感覚に背筋をゾクゾクと甘い電気が走る。
「翔也さん」
名前を口にすると、朝倉先生の手が顎に掛かり、クイッと上を向かされた。
唇が重なる。啄むようなキスから食むようなキスに変わりだんだんと深くなる。
朝倉先生のもう片方の手が後頭部にまわり、逃れることもままならなずに心臓が早鐘を打つ。
お互いを味わうように、唇を食みながら溶かされていく。少しずつ深くなり、リップ音がクチュクチュと部屋に響いた。
唇が離れ、トロンとした瞳で朝倉先生を見つめてしまう。
「夏希さんが、あまりに可愛くて……もう少し紳士でいる予定だったのに、抑えきれなくて、ごめん」
と、耳に心地良い声が響く。
私を抱きしめる朝倉先生の腕に力が籠る。胸元に顔を埋め、ひそかに朝倉先生の体温や香りを堪能してしまった。
もしかしたらという、期待をして今日は来てしまったけど、このまま先に進むの?