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日下部はスマホの通知を無視した。
「おまえ、今日も?」と玲央菜が言ったのは、たぶん皮肉だった。
それでも、彼女は特に止めはしない。止められないことを知っている。
──教師からの着信履歴。
──グループLINEでの確認。
──「次、いないと“あいつ”どうなるかわかんねぇぞ」という脅しともつかないメッセージ。
全部、どうでもよかった。
(……知ってる。俺が行けば、あいつの負担は減る。
けど、“それで何が変わる”ってんだ)
俺は、守りたいわけじゃない。
あいつに手を出す権利を、“他の誰かから取り上げたい”だけだ。
それを「守る」と呼ぶのは、欺瞞だと思う。
玲央菜は、そういう欺瞞を軽蔑する。
あの1週間──
遥を家に置いていた日々。
「何もしなかった」ことが、あいつを壊しかけていた。
何もせず、ただ同じ空間にいるだけで、
あいつの目の奥が徐々に濁っていくのを見ていた。
(やっぱり、あいつは壊れてる。
──でも、“俺が壊したい”とは、まだ思えなかった)
玲央菜なら、ためらわない。
笑いながら、心臓を抉る言葉を吐ける。
(オレは……結局、おまえの真似もできねぇ)
学校に行けば、見せつけられる。
あの“壊れかけた玩具”が、誰かに踏みにじられているのを。
自分が手を下していないくせに、
誰よりも“所有欲”に近いものを感じているという、この矛盾。
だから、行かない。
“見なければ、壊れない”というのは、幻想だとわかっていても。
それでも──いま、自分の中で何かが崩れる音を、
聞きたくなかった。
※日下部が学校を休んでいる背景(要点)
・玲央菜への感情(強烈な執着)と、「あの子が壊すなら仕方ない」という自己正当化。
・遥への所有欲のような、曖昧な感情(守るではなく“他の誰にも壊させたくない”という感覚)。
・1週間、“何もしなかった”ことが遥を壊しかけていたという記憶と微かな罪悪感。
・自分が踏み込めば感情が決壊する予感(壊したくなる/守りたくなる、そのどちらでも後悔する)。
・結果として、「距離を取ることしかできない」臆病さと、
「自分の中の加虐性を自覚したくない」葛藤。