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失礼しました……… こういうのってマジで最高
ありがとうございます!(* ´ ▽ ` *)
イルミネーションの煌めく、クリスマスイブの夜。
秋元「はーぁ…高城さんおっせぇなぁー…ま、いつものことだけど」
俺は時間になっても全く集合場所に来ない恋人を、いつものことながら訝しく思っていた。
秋元「…ほーんと、疲れるっす」
あの人のことだ。どうせ昼寝でもしてるうちに時間が来た、てな感じなんだろう。
秋元「電話かけよ。このまんま突っ立ってても疲れるだけだし」
そうぼやきながら俺はポケットに手を突っ込み、スマホを取り出すと、発信ボタンを押した。プルルルル…と機械仕掛けの音が聞こえる。
…ガチャッ。
秋元「もしもーし、高城さーん?起きてますー?もう約束の時間から15分くらい経ってるんすよー?」
もう慣れたもんだから、こういうときの口調も気だるげになるってもんだ。
しかし、返事が遅い。いつもなら「うぉあっ?!もうこんな時間!?」とか、「悪ぃ!今行くわ!」とか、半ば叫び声に近い驚愕や謝罪が聞こえてくるのに。
秋元「…」
俺はそのまま数分間、スマホを耳に当てていた。すると、ようやく慌ただしい足音と共に焦っているような声が聞こえてきた。
俺はひとまずそれに安堵した……のだが、次の瞬間、その中で高城さんが放った言葉には背筋が凍りついた。
高城「悪ぃ…でも…かずみ…行かねぇと」
秋元「?!」
俺はあまりの衝撃に頭がカッと熱くなった。手からはスマホが音を立てて落っこちる。
秋元「…は…?!…」
高城さんが…高城さんが、そんな…
『かずみ』…?誰だ。誰なんだよ、そいつは!
秋元「あ、あああ…!!」
絶望して、目の前が真っ暗になった気がした。
秋元「…」
とぼとぼと歩いている内に、少し落ち着いてきた。ふと、横を見ると、そこには―。
秋元「!…」
大きなクリスマスツリーだった。オーナメントなどの飾り付けに加え、綺麗にイルミネーションがからめられて、不思議と気分を高揚させる。
秋元「…綺麗だなぁ」
そう言えば、去年の今日にも、ここで高城さんと同じツリーを見たっけ。
秋元「…!…!」
そんなことを思い出す内に、俺の目から涙が溢れてきた。
確かに、前までは俺の隣にいてくれた。でも、その人はもういない。どこの誰とも分からない女に、俺の気持ちごと奪われてしまって。
秋元「…高城、さん…っ!」
涙で言葉が詰まる。もう一度好いてほしいなんて思わない、けど…
秋元「お、俺…あんたに、もう…一回でいいから…!…会いてぇ…よっ…!」
サンタってのがほんとにいるってんなら、お願いだ。クリスマスプレゼント…もう一回、あの人に会わせてくれ。
お願い、お願いだから…
高城「悪ぃ、秋元!…てか、待ち合わせ場所にいねぇと思ったら、こんなとこにいたのか」
聞き覚えのある声。
高城「…秋元…?」
一緒にいると、何故だか妙に安心できて。
高城「お前…何で泣いてんだ?」
そう問われた直後、俺は駆け出していた。もう二度と高城さんがどこにも行かないように、強く抱きつく。
秋元「…絶対、離れねぇ…!俺はずっと、ずっと寂しかったんですから…!!」
高城「!…」
俺が急に抱きついてきても、高城さんは無理に引き剥がそうとしなかった。それどころか、俺の頭を優しく撫でてくれた。
高城「ほんと、悪かった。秋元…お前を泣かすなんて、俺…マジで最低だよな」
俺の肩を持って、正面から向き合う。
高城「それと…お前に渡してぇもんがあるんだ」
そう言って、高城さんは小さな箱から何かを取り出して、俺の手の平に落とした。
高城「…クリスマスプレゼント」
それは、粒のようなスタッドピアス。イルミネーションの光で、キラキラと輝いて見える。
高城「これ、直前で一個無くなってるのに気付いて、バタバタ探してたら遅れちまって」
申し訳なさそうに頭を掻く。
高城「ほら、俺は物の管理がしっかりできる方じゃねぇだろ。だから行く前にしっかり『ピアス二つとも数が揃って』いるか、確かめてたんだ」
秋元「えっ…」
俺は心底驚いた。そして、自責の念に駆られた。
秋元(マジかよ…だったらあれは)
―『和美、行かねぇと』ではなく、『数、見に行かねぇと』―。
高城さんは、約束の時間に間に合うようにちゃんと準備してた。俺のために苦労して、遅刻しちまったんだ。なのに俺は、勘違いしちまって―!
秋元「…ごめんなさい、高城さん…これ…一生、大事にします」
俺はピアスを受け取ると、早速耳に付けた。そして、高城さんを見て、無理矢理笑って見せた。
高城「…無理して笑ってんじゃねぇよ。バレバレだぜ」
高城さんは困ったように笑うと、俺の涙を親指で拭った。
俺の、俺だけの、不器用な王子様。
このまま時が止まってほしいと、俺は本気で願うのだった。