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体育館の隅で、
1人ペンキの缶をまぜていた。
ーーどうして私がここにいるんだっけ。
文化祭準備。クラスでは目立たない私が、
「実行委員の人手が足りないから」と担任
に頼まれ、ほとんど勢いでここに入った
だけど実際に来てみれば、そこは完全に
”異世界”だった
ぷり
「あっとー!そのセットもうちょい左!」
まぜ
「けちゃおー、照明の確認して!」
あき
「ちぐちゃん、そこのケーブル踏んでる!」
ステージ上では、先輩たちが活き活きと
声を掛け合っている。
私はといえば、誰とも話さず、
体育館の隅で塗料をこねているだけだった。
そのとき。
あと
「君、名前、なんて言うの?」
振り向くと光の逆側から誰かが歩いてきた
柔らかい髪に、すっと通った瞳
あっとくん。
AMPTAKxCOLORSのメンバーで、
みんなの人気者の1人
名前は知ってる。
話したことなんてもちろん無い
『夜雲……月、です』
あと
「そっか、月ちゃん」
名前を呼ばれた瞬間、
胸の奥が少しだけ、ざわっとした。
あと
「この色、めっちゃ綺麗に混ざってるじゃん
すごいな」
『……手伝い、してただけです、』
あと
「でも、そういうのって俺らみたいな
目立つ側にはできない事だから
ありがとう。」
ありがとう。
その一言が
ずっと遠くで聞こえるように思えた。
誰かに”ありがとう”なんて
いつぶりに言われたんだろう。
私はそれにうまく返すことができなくて、
ただペンキ缶を見つめた。
あと
「じゃあ、この後さ一緒にセットの仕上げ、
やってくれる?」
それは、まるで。
この世界に、私の居場所があるって、
誰かに認められたような気がした