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君の知らない優しさに、触れた日
けち
「月ちゃん、ガムテってどこだっけ~?」
けちゃ先輩の声が、体育館に響く。
元気で、いつも明るくて、
どこにいても場を和ませるような存在。
『あ、こっちに……、』
私が指さすと、けちゃ先輩は、
えがおで、手を振ってきた。
けち
「ありがとう〜!さすが影のエース!」
『か、影の……、』
そんな風に言われたのは、初めてだった。
隣では、ちぐさ先輩が
ダンボールの上に腰掛けながら、笑っている
ちぐ
「けちゃ、それ褒めてるつもり?」(微笑
けち
「もちろん!裏で支えてる人が
1番偉いってことだよ〜」
『…君なんか、みんな仲良いですね、』
私がつぶやくと、ぷりっつ先輩が工具箱を
手に、ふとこっちを見た。
ぷり
「そりゃな。
ライブ組むのに人間関係ギスってたら
いいステージにならないし。 」
『……』
そんな事、思ったこと無かった。
”誰かと、ちゃんと向き合う”
”仲間を信じる”
私には、余りにも遠い考えだった、ら
あき
「……あれ?」
あっきぃ先輩が眉をひそめ、
ステージ横のパネルに目を向ける。
あき
「あー……やば、ここの骨組み、歪んでる」
私も近づいてみる。
昨日塗ったはずのパネル。
確かに、少し傾いていた。
あき
「俺とちぐさで直すわ」
あと
「おれもやる」
あっとくんの声だった。
気づけば、すぐに、その場に来ていた。
あと
「月ちゃんは、無理しないで。
昨日の塗装、手が疲れたでしょ?」
『……なんで、
そんなに気にかけてくれるんですか、』
思わず出た言葉だった。
あっと先輩は少し驚いたように
目を見開いたあと、ゆっくりと笑った。
あと
「んー……なんでだろ。
君が放っておけないからかな。」
ふいに胸がきゅっと音を立てた気がした。
そんなの、ずるい。
私が知らない言葉を
当たり前みたいに言うなんて。
『…私、優しさとか、
よく分からないんです。』
あと
「分からなくていいよ。俺が教えるから 」
その目は、ふざけてもいなければ、
からかってもいなかった。
ただ、真っ直ぐだった。
あと
「今日も、一緒に作業しよ?」
差し出された手には、工具ではなく、
温もりが乗っていた。
私は少しだけ迷ってから、
そっとその手をとった。