テラーノベル
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桃太郎が運転するバイクに乗り、鳴海は一ノ瀬や遊摺部が捕まっていたホテルへと到着する。
隊員に案内されて降り立ったフロアに、久しぶりに見る旋律の姿があった。
だがその状態は、華厳の滝で見た笑顔が思い出せなくなるぐらい酷いものだった。
「旋律ちゃん…!」
「頭から血流してそこに倒れてたんだ。呼びかけても反応なくて…それで…」
「確かに脈も呼吸も弱い…頭以外も相当やられてる。…あのさ、ちょっと頼まれてくんない?」
「何でも言ってくれ!」
「治療に集中したいからこのフロアに誰も来ないよう見張っててくれる?」
「分かった!ここにいる奴全員で守る」
「ありがとう!」
微笑みながらお礼を伝えた鳴海は隊員を見送ると、表情を変えて患者と向き合った。
まずは何より、致命傷となったであろう頭の傷に取り掛かる鳴海。
思っていた通り傷は深く、経験豊富な彼をもってしてもかなりの時間を要した。
体の方も打撲や切創はもちろん、骨折の箇所も1つや2つではない。
その全てを着実に治療していくこと1時間…ようやく旋律の意識が戻った。
「うっ…」
「あ、起きた」
「……お前、鳴海…か?」
「みんなのアイドル鳴海ちゃんですよ〜。頭かち割られてたけど大丈夫そうだね。ちゃんと分かる?」
「大丈夫…自分の名前も、お前のことも…ちゃんと分かる…」
「そっか!」
そう言って向けられた優しい微笑みに、旋律もまた口角を上げる。
“治療あと少しなので、もうひと眠りしててください”
鳴海の穏やかな声に導かれるように、彼は再び目を閉じた。
次に目が覚めた時、旋律は自分の体が確実に回復しているのを感じた。
もちろんまだ本調子ではない。でも痛みや体の重さはほぼなくなっていた。
体を起こし壁に寄りかかったところで、鳴海の姿がないことに気づく。
「(…鳴海がいねぇ。もうどっか行っちまったか…礼ぐらい言わせろよな)」
「あ、旋律ちゃん」
「いた」
「へ?」
「…何だよ、いんのかよ」
「いたらダメなのかよ」
「いや、そうじゃなくて…ちょっと捜しちまった」
「! あ、そゆことね。ちょっとコンビニ行ってた。水とか飲みたいでしょ」
“はい、みず”と言って微笑みかけながら、鳴海はペットボトルを手渡す。
少し口をゆすいでから、ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲む旋律。
完璧な治療と行き届いた配慮に、彼は感謝の意を伝える。
「ありがとう。助かった」
「金は気にしなくていいよ。そこら辺に落ちてた財布から抜いたから」
「水のことじゃねぇよ。いや、まぁこれもありがたいけど…体の方だ。治してくれてありがとな」
「あ、そっちか…どういたしまして!」
「(前もこんなやり取りしたな…)また借りができちまったな」
「それは違うかな。先に助けてくれたのはそっちだよ。その借りを返しにきたんだよ」
「え?」
「四季ちゃんと従児ちゃんのこと護ってくれてありがとね」
膝をついたまま丁寧に頭を下げた鳴海は旋律の横に移動し、同じように壁を背にして座った。
普通に考えれば、幹部クラスの桃太郎と2人きりという状況は彼にとって危険でしかない。
しかし華厳の滝の時に続き、またしても義理堅い一面を見せた彼のことを、鳴海は心から信頼していた。
「こればっかりは頭を下げる以外方法が分かんないからさ。下げさせてね」
「別に大したことしてねぇよ。このザマだしな」
「そんなこと言わないでよ。旋律ちゃんがいなかったら、2人はここを脱出できてないしもしかしたら死んでたかもしれない… 旋律ちゃんが鬼とか桃とか関係なく、手を差し伸べてくれたお陰だよ」
「…それ最初にやったの鳴海だからな?」
「おれ?」
「華厳の滝の研究所で妊婦助けてくれただろ?自分だってケガしてたのに、桃太郎の治療を優先した。 俺そん時初めて、援護部隊の奴を強ぇなって思ってさ。目の前の奴を治すっていう…信念?みたいなの感じて、めちゃくちゃカッコ良かった」
「ありがとね。あと俺援護部隊じゃないから。そこんとこ宜しく」
そう言いながら笑う鳴海は、褒められた喜びを隠し切れない。
自分が発した言葉を噛みしめるように頬を緩ませている彼を、旋律は微笑ましく見つめていた。
もっと話していたい。もっと鳴海のことを知りたい。
その想いに身を任せた結果、旋律は自然と彼の肩に頭をコテンと乗せていた。
不意の接近に首を傾げる鳴海。
一気に体に力が入るのを感じながら、静かに彼の名前を呼んだ。
「旋律ちゃん?」
「…桃と鬼が仲良くすんのって難しいよな」
「!」
「でも桃とか鬼とか、貸しとか借りとか…そういうの関係なく、鳴海と仲良くなりてぇ。
普通のダチみてぇに遊び行ったり、くだらねぇことで笑い合ったり…お前とだったら、そういうのすげぇ楽しいだろうなって思った」
「…難しいことなんて何もないと思うけどね。確かに桃と鬼っていう違いはあるけど、根本は同じ人間だし?言葉が通じるんだから分かってもらえると信じて俺らは戦ってんのよ 」
「そうなのか…?」
「じゃなきゃホモサピエンスに生まれて意味ねーじゃん〜。世界一脳みそが大きい種族に生まれた意味無え〜〜!!特殊な先祖同士さ仲良くしてはいけると思ってるけど」
「確かに。似た境遇ではあるのか」
「そうそう。だからさこれからも仲良くしてね?」
「えっ?」
「?俺らもう友達じゃん」
満開の笑顔と共に発せられたその言葉に、旋律は思わず目を見開く。
あまりの邪気のなさに、桃と鬼であるという前提を忘れそうになったぐらいだ。
彼の真っ直ぐな想いに、旋律もまた笑顔で”うん”と言葉を返す。
返事を聞き、嬉しそうにしている鳴海を見つめながら、旋律は静かに話し出す。
「…友達ってことはさ、その先に進むこともあるよな」
「その先?」
「鳴海を好きになる可能性があるかもしれないってこと」
「えっ!?」
「それとも…男同士はキモイって思うタイプか?」
「あ、いや、そこら辺は全然。俺人妻だし。旦那は男だし。」
「は?……まぁ近くにライバルもいるし、正々堂々やらせてもらうからよろしくな」
「ンー、よく分からんけど頑張ってね」
脳裏に同期兼ライバルである彼の姿が浮かび、鳴海へ向ける視線に熱が入るのを自覚するのだった。
時は少し戻り、鳴海が旋律の治療に専念していた頃…
皇后崎たちは桃によって運ばれてきた遊摺部を連れて、とある公園にやって来ていた。
野球ができるほどに広いそこは、もしもの時に備えて選択した場所だった。
目を覚ました遊摺部に対し、同期を代表して皇后崎が口を開く。
“お前の妹はもう死んでる”
さらに妹の文乃が成長していないことを指摘され、事実を受け入れられない遊摺部は遂に暴走してしまう。
大人に上手くなだめられるよりも、抱えている感情を吐き出させた方がいい。
それを受け止めるのが自分たちの役目であると、皇后崎は強い眼差しで告げた。
「それに…鳴海と約束したんだ。絶対に遊摺部を連れ戻すって」
「ははっ!じゃあ怒られねぇように、しっかり連れて帰んねぇとな!」
「鳴海先生もきっと、今頃頑張ってますよね…!」
「あぁ。あいつはいつだって、誰かのために全力で動いてる。負けてらんねぇぞ」
別の場所で頑張っている彼を想い、全員がギアを入れる。
だがそれぞれが血蝕解放をし挑んでいくものの、暴走した鬼の力は凄まじかった。
心も体もボロボロになっていく皇后崎たちは、ふと遊摺部の目に光るものを見る。
仲間たちの想いに導かれるように、少しずつ自我が戻りつつあるのだ。
それでもなお圧倒的な力の前に、同期たちは1人また1人と倒れていった。
自分を許せない気持ちと、仲間からかけられる温かい言葉にすがりたい気持ちの狭間で苦しむ遊摺部。
そんな彼の前に最後に残ったのは、自身もツラい過去を背負っている皇后崎であった。
「俺を見ろ…遊摺部…!」
「皇…ガ…さ…ギ…ぐン…」
「俺は随分角が取れただろう…?」
「ゲギ…ガ…」
「俺も全部失って…復讐以外何もないって思ってた… だけど今の俺を見ろよ…気づいたら復讐以外のもんができちまってた…仲間だなんだって…知らねぇうちに… それにな…初めて好きな奴もできた…そいつがいればどんな時でも前に進めるし…何があっても絶対護りたいって…そう心から思える… 嘘みたいだぜ…空っぽだった俺の心が…俺でも知らないうちにいろんなもんで一杯になってたんだ… なぁ…遊摺部、今のお前は昔の俺だ…全部失った時の俺そのものだ…だからこそ言える… お前の未来はまだ明るいぜ!大丈夫だ!」
体全体が悲鳴をあげている。だが皇后崎の表情はとても穏やかだった。
“仲間がいる”…そう伝えながら手を差し伸べる彼の姿に、遊摺部の心が揺れる。
「なぁ…体もキチィし、さっさと一緒に帰ろうぜ。そんで皆一緒に、鳴海に治療してもらおう」
温かい光の方へ、遊摺部は手を伸ばす。
その手を掴んだ皇后崎は、優しい笑みを浮かべて語りかけた。
「なぁ遊摺部…クソ恥ずいから二度は言わねぇけどよ…仲間ってのも案外悪くねぇよな。おかえり馬鹿野郎」
コメント
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うわっ…第95話、すごくいい回だった…! 旋律が重傷で倒れてるところから始まって、鳴海の献身的な治療、そして二人の間に芽生えた友情というか信頼関係が本当に温かくて。特に「俺らもう友達じゃん」って鳴海が笑顔で言うシーン、心臓ぎゅってなったよ。旋律の「その先に進むこともある」発言も含めて、二人の距離が縮まる感じが堪らない…! そして遊摺部の暴走と皇后崎の説得シーンも胸に来た。皇后崎が自分の過去を重ねて「お前の未来はまだ明るいぜ」って言うところ、めっちゃ泣ける。白米さんの書くキャラ同士の絆、本当に好きです…! 次話も楽しみにしてるね🖤
#ryop
ゆゆ@プロフお読み下さい。

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