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「律さんならそう言って下さると思いました。それから、もうひとつ」新藤さんは例の鋭い目線で私を横目で見て、人差し指を立てた。「体調が良くなられたら、一緒に飲みに行きませんか? 実はこんなに音楽の話を共有出来る方とお会いするのは初めてなので、もっと沢山お話がしたいのです。いかがでしょうか?」
「いいですよ。ぜひ行きたいです!」
飲みの相手が新藤さんなら、光貴もオーケーしてくれるだろう。
「約束ですよ」
「はい」
「楽しみが増えました。とても嬉しいです」
そう言いながら新藤さんは、手元のハンドルのボタンを操作した。私の愛車ならカーナビのタッチパネルで操作するしかできないのに、高級車はハンドル操作で同じことができるなんて、思わず感動してしまう。
レア音源のため、リストを読み込むのに少し時間がかかるから待ってください、と丁寧に言われた。
「待っている間に、RBのレア話をしましょうか」
「えっ、聞きたいです!」
ぱっと顔が輝いた。レア話なんて、なんだろう?
「RBは昔、ヴォーカルが違うことを知っていましたか?」
「えーっ、知らなかったです!」
新藤さんは本当にコアな関係者なんだ!!
すごい。ファン歴長いけれど、インディーズからのファンではないから、そんなレアネタ全然知らなかった!
「インディーズ初期の話です。しかも当時、若干名前が違っていましたから、知らない人も多いレア情報です。ライブハウスで白斗を見つけた剣が、彼を口説き落とし、改名して今のRBを結成したんですよ。ベースの瑛多(えいた)とドラムの深(しん)は当初から剣と組んでいましたから、ヴォーカルだけ変わった形です」
「そんなドラマがあったのですね! すごい」
「彼等は大阪中心に活動していましたから、東京や地方にで行われるライブツアーへは私も同行させられました。遠方になると手伝うスタッフがいませんからね。若くて何も持たない自由な時期だったからこそ、できたことです。今となってはいい想い出ですね。もう二度とあんな楽しい経験はできないでしょうから」
レア情報、すごすぎる!!
そのツアー、私も同席したかった!!
「まあ、地道な活動が功を奏しまして、彼らの活動を支持してくれるファンがたくさん増えました。お陰でメジャーデビューの有難い話が舞い込み、彼らは本格的に活動拠点を関東に移しました」
「新藤さんも関東には一緒に行かれたのですか?」
「いいえ。彼らと共に活動というか、手伝いをしたのはそこまでです。私は勤めていたライブハウスでそれからも働いていましたが、不況のあおりを受け、経営維持が難しくなり、勤めていたライブハウスが閉店となりました。つてを利用して大栄建設を紹介してもらい、今の営業の仕事に運よく就くことができたというわけです。大栄に就職してからは、音楽が無縁の生活をしていました」
「そうだったのですね。だから色々と詳しかったのですね」
ライブハウスのスタッフ経験があるのであれば、音にうるさくこだわるのも理解ができる。そして、音楽が本当に好きなのだということも。
「ところで律さんは、RBの誰が好きなのですか?」
「白斗です!」食い気味で答えた。
「そうですか。彼のどんなところがいいのですか?」
私にそれを聞いたら、一日中語れる自信がある。
しかし新藤さん相手にそこまでできないので、脳内フルスピードで白斗のいいところを挙げた。
「ええと……語ると長くなるのですが、ミステリアスで孤高の魔王という雰囲気がいいと思います。女性を破滅させてしまいそうな、エロくて悪そうなところもいいです。一番は、現実離れしているところですね。実際にあんな男性はいませんし、二次元のアニメキャラクターみたいで、とても好きです」
「光貴さんと、どちらが好きですか?」
えっ、何その質問!