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その日から俺は詩織さんの恋人になった。まだ山崎と正式に離婚していない訳だから、正しく言うと詩織さんの浮気相手になった。予備校のある日は会わなかったけど、それ以外の日は呼び出されてデートをした。他愛もない話をして、車の中で朝を迎えることもあった。こんな関係だけど、街中のそこらじゅうにイッパイいる恋人と何ら変わらない2人だった。一緒にいて普通に楽しかった。でも、俺は詩織さんの前で笑顔を見せることは極力避けたし、決して楽しそうにしないようにした。これは許される関係ではなかったし、本来の目的はマナを許してもらうためだった訳で、ここで俺自身が目的を忘れて笑顔で楽しんでいる訳にはいかなかった。でも、そんな俺の態度を見て詩織さんは時々寂しそうな顔をした。その顔を見る度に心が痛んだ。よくよく考えたら、詩織さんは山崎に女性として扱ってもらえず、冷たくされていたと言っていた。詩織さんの前では笑うことも楽しむこともなかったと言っていた。それって――俺が今詩織さんにしている態度と何も変わらないんじゃないか――。
それに気付かされた俺は、心の葛藤がありながらも次第に心の変化が生まれ、今までと同じようには接することが出来なくなって行った。そんな日々が2週間を過ぎようとしていた頃には、詩織さんの笑顔と優しさに心を許し、これが偽りの恋愛であることなど忘れてしまっていた。この俺の詩織さんに対する想いはきっと――。
夏も終わり朝晩は半袖では肌寒く、長袖を持ち歩くようになっていた。今日は10月に入って最初の土曜日。詩織さんとテーマパークに行くことになっていた。しかもテーマパークに隣接するリゾートホテルに予約までしてくれた。母さんには疑われると困るので、友達の家に泊まると言っておいた。そして目的地に到着すると、詩織さんは満面の笑みでテーマパークのキャラクター達と写真を撮って楽しんでいた。また、乗り物もたくさん乗ったし、パレードも見て楽しんだ。美味しいものも詩織さんに案内されてたくさん食べた。ひと通りのアトラクションを楽しみ、見たいものを見終えた頃、詩織さんはお土産を買いたいと言って俺の手を握って走り出した。そもそも詩織さんは、歳は俺と5つくらいしか変わらないし、見た目は通りすがりの誰もが振り向くような美人だし、優しくて気が利くし、美人なのに全然気取ってないし、文句のつけようがないような女性だった。そんな彼女が嬉しそうに笑顔で俺を見る表情に自然と引き込まれていった。
それから、お土産ショップに入った詩織さんは、自分のぬいぐるみや友達へのお土産のお菓子を両手イッパイになるくらい買っていた。すると詩織さんは俺にもお土産を買ってくれた。買い物を終えると最後にメインストリートで行われるパレードを見てから予約しておいたホテルに向かった。部屋に入ると詩織さんは俺に先にシャワーを浴びてくるように言ってきた。そして俺がシャワーを終えると、入れ替わりで詩織さんも浴室に入って行った。詩織さんが裸でシャワーを浴びている姿が、曇りガラス越しでも目に入ってきた。男女が2人でホテルに泊まる。それはどういうことか――。そんなことを考えていると、詩織さんが体にバスタオルを巻きつけて俺の元にやって来た。