「圭太くん、私を抱いて! 何でもしてくれるっていう約束よね?」
「詩織さん、俺――」
「五十嵐さんを助けたいんでしょ?」
「もちろんです」
「だったら抱いて!」
「はい――」
そして俺は詩織さんを優しくベッドに寝かせると、唇を重ねた。唇を離すと、詩織さんは俺をジッと見つめながら微笑んだ。その笑みが何を意味しているのか俺にはわからなかった。でも、マナを助けるには他に選択肢がなかった。というのは、のいい言い訳で、本当は俺がそうしたかったというのが本音だ。それから俺と詩織さんは――――
「ありがとう」
俺の隣で横たわる詩織さんは突然そう言ってきた。
「詩織さん、俺――」
詩織さんの方に顔を向けると、目を見開いて天井をジッと見つめている彼女の目から涙が流れ落ちた。
「どうして? 本当はこんなこと望んでいなかったんじゃないですか?」
「圭太くん、あなたのこと大好きよ。だから抱かれるのは本当に嫌じゃなかった。でも――」
「もしかして、今でも山崎先生のことを好きなんじゃないんですか?」
「わからない。ずっと雄平さんに裏切られて、それでも我慢してきた。女として見てもらえなかったし、デートも何処にも連れて行ってもらえなかった。でもあの人を好きだから、耐えて待つしかなかった」
詩織さんは俺の首に腕を回して抱きつくと、耳元で泣きながらツラい思いを語ってきた。
「山崎先生は詩織さんを幸せにはしてくれません。いくらあなたが待っていても、あなたのもとには帰って来ない。もっとあなたに相応しい男性がいくらでもいます。あたただけを見て、あなただけを愛してくれる人が必ずいます」
「ありがとう、本当に圭太くんは優しいのね。もっと早くあなたに出逢っていたら、普通の恋人になれたかもしれない。なりたかった」
「俺も今ではそう思っています。正直、最初はこんな気持ちになるなんて思ってもみませんでした」
「圭太くん、キスしてもらっていい?」
「はい」
俺は目を閉じて涙を流している詩織さんの唇に優しくキスをした。
「ありがとう」
詩織さんはそう言った後、頭から布団をかぶると、体を震わせながらすすり泣いていた。詩織さんの恋人になって2ヶ月が経とうとしていた。
でもあれ以来呼び出されることはなくなった。ただ、1通のメールが来た。
《五十嵐さんのことは約束通り許します。安心して》
ホッとはしたけど、喉に何かが詰まって取れないような、気持ち悪さだけが残っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!