テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
廊下の角を曲がったところで、しのぶはふと立ち止まり、義勇の横顔を見上げた。そして、まるで子どものように、しかし確信犯的な小悪魔の笑みを浮かべて、義勇の腕をつんつんとつつき始める。
「ねぇねぇ」
「……」
「義勇さ〜ん」
「……」
「もしも〜し??聞こえてますか?」
「……」
「ねぇねぇ」
「……」
「もぉ〜無視ですか?酷いですねぇ」
義勇は眉をわずかに動かしたが、口は開かない。
しのぶはさらに追撃するように、少し声を低くして囁く。
「そんなだから……」
その瞬間、義勇がゆっくりと口を開きかける。
「俺は嫌われて――」
しかし、その続きを言う前に、しのぶの人差し指が義勇の唇にそっと触れた。
驚く義勇をよそに、しのぶは背伸びをして彼の顔すれすれまで近づく。
そして、意地悪そうでいて可愛い、小悪魔のような笑みを浮かべ、上目遣いで甘く囁く。
「そんなだから、私に好かれるんですよ♡」
ふわりと香る花の香り。
その距離、その声音、その表情――義勇の胸の奥に、不意打ちのように衝撃が走る。
一瞬、彼の体は硬直したが、次の瞬間には迷いなくしのぶを優しく抱き寄せていた。
しのぶは彼の腕の中で驚いたように瞬きをし、しかしすぐに柔らかな微笑みを浮かべて見上げる。
その視線を受け、義勇はそっと顔を近づけ、ゆっくりと、しかし確かな甘いキスを落とした。
触れるたびに深まるぬくもり。
そして、彼女は目を閉じ、義勇の胸に身を委ねた――。
『そんなだから···· [終]』
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!