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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第98話 〚静かすぎる廊下〛
― 澪視点 ―
「澪、ちょっといいかな」
やっぱり、だった。
先生の声は、
いつもと同じなのに、
教室の音が一瞬、遠くなった気がした。
「はい」
返事は、
思ったより普通に出た。
椅子を引く音。
立ち上がる感覚。
みんなの視線が、
一瞬だけ集まって、
すぐに逸れる。
私は、
何も言われていないのに、
何かを知られている気がしていた。
教室のドアを開ける。
――静か。
さっきまで聞こえていた
話し声や笑い声が、
嘘みたいに遠い。
廊下は、
やけに広く感じた。
先生の後ろを、
少しだけ離れて歩く。
足音が、
こんなに響くなんて
知らなかった。
(まだ、何も言われてない)
そう思うのに、
胸の奥は、
ずっと緊張したまま。
職員室の前で、
先生が一度だけ振り返った。
「緊張しなくていいよ」
その言葉が、
逆に、
緊張を強くする。
(緊張してるって、
分かってるんだ)
私は、
小さくうなずいた。
廊下の窓から、
校庭が見える。
いつも通りの景色。
いつも通りの放課後。
なのに、
私だけ、
別の時間にいるみたいだった。
教室にいた時は、
守られている感じがした。
でも、
廊下に出た瞬間、
それが一気に薄くなる。
(これが……
一人になるってことなんだ)
職員室のドアの前で、
先生が立ち止まる。
その背中を見て、
私は、
やっと覚悟を決めた。
書かなかったこと。
言わなかったこと。
全部じゃなくても、
少しは、
向き合わなきゃいけない。
ドアが開く。
その瞬間、
教室とは違う空気が、
流れ込んできた。
静かな廊下は、
もう後ろ。
私は、
一歩、前に進んだ。