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第2のキラ編

さくらTV 本社。

ディレクターの“出目側 借金死(でめがわ ひとし)”のもとに、分厚い封筒が届いた。

中には現金ではなく、どっさりと請求書とキラからのメッセージ、ビデオテープ。

開けてみれば──中身は請求書の束と、やたらチープなビデオテープ。

テープには、油性ペンで殴り書きされた文字がかろうじて読める。


《ビデオ①》──証拠

《ビデオ②〜④》──支払い催促用


『私はキラです。

証拠はビデオ①に入っております。

これを見て、私がキラだとわかりましたら、テープ②から④を、放映。

そして──放映が終わりましたら、2枚目に書かれた口座に、視聴率の全てを現金換算のうえお支払いください。

これを怠った場合、即ち“未払い”が発生した場合には、番組関係者の命をもって回収します。

借金も、視聴率も、踏み倒しは許されません。

取り立てがテレビを通して行われることで、私が“借金回収人キラ”であることが世間に証明されると共に、──未払い者への全世界的な督促メッセージが発信されることになります。

返済期限は猶予されません。

金を返すか、命を取られるか──選択肢はただ一つです』

出目側は震える手で封筒を握りしめ、額にじっとり汗を浮かべた。

「……こ、これが本物だったら……すごいことになるぞ……!借金返済の取り立てより怖いよ……! おいおい、返せなくてドキドキが止まらないよ……!」


✬✬✬


サイゼリヤの隅っこにあるテーブル。

Lはいつものように、山盛りのティラミスとドリンクバーのコーヒーを前に、膝を抱えて座っていた。

そこへワタリが慌てて駆け込んできた。

「竜崎! さくらTVが大変な事に……!」

「…………」

Lはフォークを止める。

「……ワタリ。この本部にはテレビがありません」

ワタリは言葉を詰まらせる。

「で、ですが──」

「仕方ありません、近くの家電量販店に行きましょう」

「竜崎! 遂にテレビ買うんですか!?」

松田がキラキラした目で前のめりに叫ぶ。

Lは無表情のまま答えた。

「いいえ。見に行くだけです」

捜査本部の面々は、がくっ!と一斉に肩を落とした。

宇生田「……なんだよ……」

相沢「てっきり本部にもテレビが導入されるのかと……」

ヨドバシカメラ。

最新テレビ売り場の大画面前に、刑事たちがゾロゾロと整列した。

相沢は腕を組み、宇生田はサイゼリヤで払わされた名残か、財布を抱えてため息をつき、松田は「すげぇ……65インチ!」と場違いなテンションで騒いでいる。

ヨドバシカメラ・テレビ売り場。

刑事たちがずらりと並ぶ前で、大画面に突如ノイズが走った。

──そして流れ出す、異様な声。


『……ワ、ワタシハ、キラデス……』


場内に響くのは、妙に甲高い機械音声。

いや──正確には、機械ではなくヘリウムガスを吸い込んだ人間の声だった。

「これは、ヘリウムガスですね。声帯を圧縮しているのでしょう。つまり──この“キラ”は、低予算です」

その瞬間、画面に“KIRA”の文字がドーンと出た。

だが……段ボールにマジックペンで手書き。

Lは冷ややかに告げた。

「はい。確定──“キラ”は貧乏です」


✬✬✬


テレビの中の“キラ”の声は、妙に軽くなったヘリウム声で続いた。

『……では、全国の皆さん。チャンネルを“滞納テレビ”に切り替えてください。』

刑事たちがざわめく。

『メインキャスター、日々増 金少(ひびます かねすこ)氏──彼は……6時ちょうどに“取り立てられます”』

滞納テレビが写ってるテレビを探す。

そこには机に突っ伏す日々増の姿。机の上には請求書の束が山のように積まれ、「延滞」「差押え」「強制執行」の赤文字が踊っている。

実況ナレーションまで入った。

『──おっと!ただいま取り立てが実行されました!現場からは以上です!』

相沢「……つまり、金を吸われただけか……」

Lは膝を抱え直し、冷ややかに呟いた。

「はい。間違いありません……やはり“キラ”は完全に貧乏です」


✬✬✬


「……この放送、止めさせないとまずいことになります」

松田が慌てて叫ぶ。

「さ、さくらテレビに電話を!」

すぐさま携帯を取り出し、ダイヤルするが……。

「……か、かからない!?なんで!?」

相沢「回線がパンクしたのか!?」

刑事たちは顔を見合わせ、絶句する。

Lが冷ややかに結論を口にした。

「いえ……さくらテレビ、電話料金を滞納して止められています」


「「「……………………」」」


松田「えっ!?じゃあ連絡とれないじゃないですか!!」

L「はい。支払いが確認されるまで……一切」


✬✬✬


「俺が直接局に行ってやる!」

宇生田は車を飛ばし、局の前に横付けした。

「くそっ!閉まってやがる!!」

ドアをドンドン叩きながら怒鳴る。

「警察だ! 開けろ!!」

だが中から返事はない。

「……ちっ! 仕方ねえ、撃ち破るしか──」

拳銃を構えた瞬間。


背後からスーツ姿の数人が現れる。胸ポケットには“債権回収”のバッジ。


「おっと困りますねぇ、宇生田さん」

「なっ……誰だ!?」

「我々は債権回収業者。竜崎様のご契約により、あなたは“連帯保証人”になっております」

「はぁあああっ!?」

「ですので、銃を抜く前にまず返済していただきます」

宇生田「な、なんで俺が……!」

宇生田は歯を食いしばり、銃を構えたまま叫んだ。

「俺は警察だぞ!? 国家権力なんだぞ!!」

だが債権回収業者たちは鼻で笑った。

「……宇生田さん。保証人に警察かどうかは関係ない。キラの前では──ただの“債務者”だ」

宇生田の顔から血の気が引いた。

「お、おい待て……!なんで俺が……」

借金取りは冷酷に笑う。

「保証人に“なった覚えがない”──皆そう言うんだ。だが、サインはここにある」

分厚い契約書を突きつけられる。そこには、確かに震えた字で──『宇生田』。

「……Lぅぅぅぅぅ!!!」

宇生田の絶叫が、夜の局前にこだました。


✬✬✬


「くそっ……宇生田!」

相沢が走り出そうとする。だが、その腕をLが冷静に掴んだ。

「だめです、相沢さん。あそこに行けば──あなたも同じ目に遭います」

「同じ目?……!……まさか」

Lは、当然のように無表情で告げた。

「はい。相沢さんも私の“連帯保証人”です」

「な……に……っ!?」

相沢の背筋に冷たい汗が流れた。

松田が青ざめて叫ぶ。

「じゃ、じゃあ僕は!? 僕は大丈夫なんですよね!?」

Lは一瞥もしないで、さらりと答えた。

「あなたは──“連帯保証人の保証人”です」

「ぎゃあああああああ!!!」

刑事たちの悲鳴がヨドバシカメラの大画面に重なり、キラの手書きダンボール文字“KIRA”が無情に光っていた。


✬✬✬


相沢が顔を歪めて叫んだ。

「つまり──偽装の警察手帳も役に立たなかった!! 俺たちの“借用書”は、もうキラにバレてるってことじゃないのか!?」

「……あるいは、そうかもしれません。──もしキラが本当に借用書を握っているなら、捜査本部の人間を全員“債務整理”してから動く方が楽なはずです」

松田が真っ青になって前のめりになる。

「じ、じゃあ……まだ僕らが(社会的に)生きてるのは」

Lは無表情のまま、小さく頷いた。

「はい──返済猶予中だからです。安心してください。裏では利子が増え続けています」


✬✬✬


相沢が叫ぶ。

「キラがあの周辺にいるなら──取り立てに行くべきじゃないのか!!」

Lは俯いたまま、冷えた声で返す。

「のこのこ出ていけば“即日一括返済”を迫られると言っているんです。わかってください……」

相沢は血走った目で叫んだ。

「わかんねーよ!! 宇生田はもう“取り立て”にやられたかもしれないんだぞ! あんただってキラ逮捕に“命懸け”なんだろ!? だったら前に出ろよ!!」

Lの左肩に掴みかかり、怒鳴りつける。

Lは表情を変えずに、淡々と返した。

「……命をかけることと、“借金をカンタンに肩代わりされること”は正反対のことです。私は利子を払ってでも延命します」

Lは肩を掴まれたまま、わずかに視線を落とした。

「……気持ちはわかります。しかし──堪えてください」

声がかすかに震えている。

「宇生田さんが“取り立て”に遭い……これでもし、相沢さんの“口座”まで凍結されてしまったら……」

白い指先が小刻みに震え、Lは淡々とした調子を装いながらも、目の下のクマを深くした。

「……本部の資産は、完全に破産です」


✬✬✬


パトカーの赤色灯がさくらTVの前に並びはじめた。

Lは無表情のまま、北村次長の携帯に電話をかける。

「北村次長……お願いがあります」

「Lか?」

「この報道を見て──“自己破産感”で動く警察関係者が必ず出てきます。ローンを抱えたまま無謀に突撃すれば、即日取り立て……惨事になります」

「…………」

「ですから、上から“返済計画”をしっかり統制していただかないと──利子地獄で本部が潰れます」

「いや、しかし、私達はこの事件には……」

その時だった。

さくらTV前に駆けつけた若い警官2人が、ドサッと同時に倒れた。

「な、何だ!?」

周囲がざわつく。見れば、2人は財布を握りしめたまま、青ざめた顔でピクリとも動かない。

「や、やられた……!」

「……給料日前の金欠で……立ってられねぇ……」

北村次長は受話器を落としそうになり、慌てて叫ぶ。

「L!! どう指揮を執るべきか、アドバイスをくれ!」

受話器の向こう、Lの声はいつも通り冷ややかだった。

「……まずは2人のサイフを確認してください。──中身が空っぽなら、ただの“ショック死”です。救急車ではなく、消費者金融に搬送してください」

「そ、そんな指揮あるか!!」

「それと──警察内部にも“借金を抱えた職員”がいますね」

「な、なに……!?」

「彼らが自己判断で動けば……“取り立て屋に居場所を知らせる”のと同じことです。つまり──自爆です」

「…………」

「北村次長。まずは署内のローン持ち、キャッシング組、クレカリボ払い組をリスト化してください。統制下に置かない限り……全員が人質です」

受話器の向こうで、北村次長は脂汗を流した。

「L……お前、本当に事件を解いてるのか……それとも金融庁なのか……」


✬✬✬


テープを押収し、翌日。

Lは③のテープを真顔で読み上げた。

「……③には“協力の細かい条件”が記されています」

刑事たちが固唾を呑む。

「簡単に言うと──“借金をより多く報道しろ”ということです」

松田が目を白黒させる。

「えっ!? 借金……って……? 殺人とかじゃなくて!?」

Lはコーヒーを混ぜながら淡々と続けた。

「特に少額でも“踏み倒した者”──家賃滞納、電気代未払い、リボ払い3ヶ月延滞……“弱い者に利子を押し付けた者”はできる限り取りあげろ、と」

Lはフォークを置き、低く答えた。

「“返済猶予を認めるかどうか”は、キラが決めるそうです」

沈黙する一同。

松田が額に汗を浮かべて叫んだ。

「これ……もう完全に“金融庁の仕事”をキラが奪ってるじゃないですか!」

Lは真顔でうなずいた。

「はい。これで決まりです。我々が探しているのは死を招く黒いノートではなく、“ブラックリストノート”です」


✞✞✞


自室にて。

ミサは月の名前を見て、にやにやとパソコンのページを見つめる。

「へぇ〜、“月”って書いて、“エーティーエム”って読むんだ。なんかすごいセンス!──中学・高校とテニスの全国大会で優勝、今年は東応大学の新入生代表……肩書きピカピカじゃん」

ベットで足をパタパタと弾ませ、左右に揺れた。

「まさかキラがこんな若くて、カッコよくて、金持ちそうだなんて……想像以上!でも、ちょっと真面目そうかな?……ま、ATMなら許すけど♡」


✞✞✞


夜──

弥海砂はブランド物のワンピースに着替え、わざとらしく足音を響かせながら夜神家の玄関へ向かった。

手には、小さな茶色の財布。

「……落とし物、届けに来ました」

チャイムを押すと、中から妹・粧裕が顔を出す。

「お兄ちゃーん! お友達が財布届けに来たよー!」

「……財布?」

月は眉をひそめ、すぐに顔色を変えた。

(ま、まさか──!)

慌てて玄関へ駆けつける。

ミサはニヤニヤ笑いながら財布を差し出した。

「はい “残高13円”の財布♡ これって、もしかして世界で一番かわいい落とし物じゃない?」

月の顔が一瞬で青ざめる。

(くそっ……よりによって財布を……!全部バレる……!)


✞✞✞


月はとっさに玄関のドアを閉め、声を潜めた。

「……その財布は、ありがとう。だが、それ以上のことは口外するな」

ミサはニヤニヤしたまま、背中から大きなバッグをゴソゴソ。

「あと、これ、本当に届けたかったのは──こっち」

すっと取り出されたのは──漆黒のノート。

「……このノート。……触ってみて?」

月の瞳孔が震える。指先をそっと伸ばし、ノートに触れた瞬間──

「…………ッ!」

玄関の空気が揺らぎ、月の目の前にはいかにも“成功者”オーラを纏った死神が現れた。

(……死神!? いや、違う……これは……格差社会の象徴……ッ!!)

月の脳内で、サイレンのように警鐘が鳴り響く。

レムは低く響く声で告げた。

「私はレム。大富豪の死神。……お前の残高など、秒で飲み干せる」

月は青ざめながらも、必死に笑顔を作った。

「……あ、あがっていけよ」

「えっ、部屋に入れてくれるの!? 嬉しい!」ミサは満面の笑みで靴を脱ぎ始めた。


廊下の影で粧裕が母親とヒソヒソ。

「……ええ? あれがお兄ちゃんの彼女?」

母親は眉をひそめて答える。

「ちょっと派手すぎないかしら……」

粧裕は声を潜めながらも、思わず吹き出した。

「だって……財布13円のお兄ちゃんに、大富豪みたいな彼女だよ?どう見ても釣り合ってないじゃん」

母親はハッと口を押さえる。

「しっ……聞こえたら怒られるわよ」

「それに……さっきからスカート短すぎて、カードローンの詳細より赤裸々だよ」

(や、やめろ粧裕……!余計なことを言うな……!僕のプライドが残高ごと吹き飛ぶ……!第一……“彼女”どころか……この女は僕の破産フラグだ! 格差爆弾だ!)


✞✞✞


月は弥海砂を部屋へと案内した。

「……座って」

椅子を引く仕草は一応スマートだが、その手元の財布には13円しか入っていない。

弥海砂は嬉しそうに腰を下ろし、膝元にドンと高級ブランドのバッグを置いた。中には札束の束がチラリと覗く。

(くそっ……格差が露骨すぎる!)

月は深く息を吸い、必死に平静を装った。

「……なぜ、わかった」

「あっ、やっぱり、“目の取引”はしてないんですね?」

「…………!」

月の目が一瞬だけ泳ぐ。

ミサは得意げに指を立てた。

「死神の目を持つと──“寿命と残高と借金”は見えないんです」

「なっ……!」月は固まる。

ミサは続けた。

「逆に、普通の人間の目だと“財布の残高”は嫌でも目に入る。だから、さっきから私の顔じゃなくて、カバンに入ってる札束ばかりを見てるから──“ああ、この人はまだ取引してない”って分かったの」

月は心の中で絶叫した。

(……く、くそっ!財布残高で正体を見抜かれるなんて……っ!なんて理不尽な格差ルールだ……!)

月は冷ややかに彼女を見据えた。

「それはわかったが……君がもし警察に捕まっていたら、キラの秘密がバレていた。(──財布の中身が“13円”だということがな)」

ミサは小首を傾げて、にっこり笑った。

「それは大丈夫。私は捕まってないし、これからはあなたの言うとおりに動けば捕まらない。そうでしょ? そして私がLの名前を見る。私はあなたの目になる。だから──」

「……だから?」と月。

ミサは胸を張って、瞳をキラキラさせながら言い放った。



「──彼女にしてください」



月は即答した。

「無理だ」

「えぇーっ!」ミサは頬をふくらませる。

月は冷ややかに続けた。

「第一……あのビデオメッセージだ。なぜ“段ボールにマジック”なんて安っぽくした。もっと金かけられただろう」

ミサはムッとしながらも、肩をすくめて答えた。

「……あれは私が書いたものじゃない!私だって少しは考えて行動してます」

「考えて?」月が眉をひそめる。

「少し前まで、私は関西にいたんです。そこでオカルト大好きな友達がいて──“番組にビデオ送ったらギャラもらえるかも”って盛り上がって……だから私は、余計な出費をしないように、自分の指紋が残らないように全部友達にやらせました。送料だって払わなかったんですから」

月は静かに問いかけた。

「……その友達は、今どうしている?」

「あなたが“殺せ”って言うなら、今すぐにでもギャラ未払い分ごと殺します。──ただし、その前に立て替えたコンビニのおにぎり代、ちゃんと回収してからです」

月のこめかみに冷や汗がにじむ。

(……ケチだ……徹底的にケチすぎる……!利用価値どころか、財布の計算までされそうだ)

ミサはぐっとノートを胸に抱きしめ、わざとらしくため息をついた。

「……どうしても信じられないなら、このノート、あなたが預かってください」

月は一瞬、息をのむ。

(……!)

しかし次の瞬間、ミサはニヤッと笑い、財布をひらひらさせた。

「ただし──管理費、保管料、月額500円。もちろん前払いです」

月は歯ぎしりして、低く吐き捨てた。

「……くそっ!」

するとミサは、勝ち誇ったように肩をすくめた。

「安心してください。預かるだけなら“目の能力”はちゃんと持続します。これなら私はあなたを殺せない……」

にやりと笑って、指をひらひら。

「それに、私が“扶養”から外れたら──そのときは税金でごっそり取られる前に、あなたが殺してください」

月の心臓がズキリと鳴った。

(……扶養って言いやがった……!デスノートと税金を同列で語る女……!ここまで金にうるさいなんて、最悪だ……!)

額に手を当て、冷静を装いながら口を開いた。

「しかし……もうこのノートが、数ページ切り取って隠し持たれているかもしれないじゃないか」

その瞬間、ミサは椅子をがたんと鳴らして立ち上がった。

「何でそこまで疑うの!? 私は“利用してもらえるだけでいいの!” 月額払ってもらえれば、それで満足なのっ!」

月の脳裏に赤い警告灯が点滅した。

(……やっぱり金だ……!全部の理屈が“課金制”に帰結してる……!)


✞✞✞


ミサは急に真剣な顔になり、ぽつりと呟いた。

「……私の両親はちょうど一年前、“オレオレ詐欺”に引っかかったの」

月の眉がピクリと動く。

「『オレだよ、オレ!振り込め!』って電話一本で──通帳ごと持ってかれたの。しかも二回も!」

「二回!?」月のツッコミが漏れる。

「一回目で生活費。二回目で老後のへそくり。最後には“詐欺被害者の会”にまで怪しい会費払わされて……気づいたら貯金ゼロよ!」

彼女の声は震えていたが、その目は妙にギラついていた。

「許せなかった。詐欺師を殺したいとも思った。でもそれはいけないこと……警察に相談しても“現在調査中”“返済猶予”なんて言葉ばかりで、逆に気を付けてくださいってパンフレット渡されただけ……」

机をバンッと叩いて続ける。

「そんな時──詐欺グループを一網打尽にしてくれたのが、キラ! 私にとってキラは“消費者センター最上位互換”! いや、“国民生活センターの神”! 利息ゼロ、即日解決、24時間年中無休の究極サービスなの!」

月のこめかみがピクッと跳ねる。

(……司法でも神でもなく、僕は消費者センターか……最悪だ、この女……!)


✞✞✞


月は深く息を吐き、観念したように弥海砂に腕を回した。

「……わかった。彼氏にはなれないが──“リース契約のフリ”ならしてやれる」

ミサの顔が一気に輝く。

「ほんと!? ありがとう!……いつか、正規契約に昇格できるように頑張るから!」

月は心の中で青ざめる。

(……やっぱり来た、“月額プラン”の地獄……!)

本来ならば──利用するためにゲス顔で抱きしめるはずの女。

今や月は、逆に抱きしめられるたびに「利用料」「保証金」「違約金」という言葉が脳裏に点滅する。

(……なんだこれは……! デスノートどころか、僕の人生までも“サブスク”に組み込まれていく……!)

ミサはうっとりと顔を寄せながら、囁いた。

「月……今日から“無料お試し期間”だからね♡」

月の背筋に冷たい汗が流れ落ちた。

(……解約忘れたら請求地獄だ……!)



 ❁❁❁


 大学にて。

 突如、派手な声が響いた。

 「月ーーっ!! いたーーっ!!」

 弥海砂が両手をぶんぶん振りながら全力疾走。

 「この近くのスタジオで撮影あるから! 交通費ケチって徒歩で来ちゃった♡」

 月は血の気が引く。

 (ミサっ……!バカ……)

 Lは無表情のまま弥海砂凝視。

 ミサはにっこりと笑い、Lを上から下まで品定め。

 「月のお友達? ……へぇ〜、なんか“リサイクルショップの福袋から出てきた人”みたいで素敵ね♡」

 月の胃がキリキリ痛む。

 (やめろ……例えが生々しい……!)

 ミサは胸を張って、わざとらしく声を張り上げた。

 「私、月の“レンタル彼女(延滞金あり)”の弥海砂!よろしくね♡」

 月のこめかみに冷や汗が流れる。

 (やめろ、レンタルとか言うな!僕は延滞金を払う余裕なんてないんだぞ……!!)

 Lはいつも通り無表情で名乗った。

 「──流河旱樹(りゅうがひでき)です」

 ミサは一瞬固まり、耳を疑った顔で首をかしげる。

 「……えっ?ホストの源氏名みたいな名前?」

 月は慌てて割り込んだ。

 「ああ、そうそう! こいつ、有名なアイドルと同姓同名なんだ。面白いだろ?」

 (やめろミサ……頼むからもう追撃するな……!)

 Lはじっと弥海砂を見つめた。

 (しかし──勝った! L、今回は出てきたことが裏目に……っ!?)

 次の瞬間、Lはわずかに口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。

 月(な、なんだ……!? まさか……第2のキラだと勘づいたのか!?)

 Lの声が低く響く。

 「……夜神くん」

 月は思わず喉を鳴らした。

 ……ごくり。

 Lはじっと月とミサを交互に見つめ、重々しく言葉を落とした。

 「羨ましいです──“レンタル彼女代を払える財力”が」

 月(……やっぱり金か……)


 ❁❁❁


 「……実は私、『ローンティーン』3月号からの──ミサさんのファンです」

 「えっ!?ほんと!? うれしーー!!」ミサは声を弾ませた。


 「……で、いくら貢いだの?」


 Lが一瞬フリーズする。

 「……え?」

 「ファンを名乗るなら数字が必要でしょ!握手券?グッズ?イベントチケット? はい、金額で答えて」

 「…………」

 月の胃がギュッと縮む。

 (や、やめろ……!名探偵を“売上集計表”で詰めるな……!)

 Lは頭をかきながら言った。

 「……実は、まだ……貢げていません」

 ミサの目がカッと見開かれた。

 「えーーーっ!?ありえなーーいっ!!!」

 その声は大学の外に響き渡り、周囲の学生たちがぎょっと振り返る。

 「ファンを名乗って“未払い”とか、どんな顔して言えるの!? それ、推しに対する裏切りよ!? いい? 推しは課金して初めて推し! 貢いでないなら、ただの傍観者!いや──“無銭ストーカー”!」

 Lはさすがに顔をしかめた。

 「……無銭ストーカーとは……心外ですね」

 「心外なのはこっちよ! いい? 推しは支払いで出来てるの! 未払いは愛の放棄!貢いでないファンなんて、砂糖の入ってないケーキみたいなものよ!」

 月は額を押さえ、内心で呻いた。

 (ケーキを例えにするな……!Lが“無銭探偵”にされる……!)

 ミサは畳みかける。

 「いますぐローンティーン年間購読か、グッズ爆買いか、どっちか選んで! 一括か分割か聞いてんのよ!」

 Lは一瞬考え込み、静かに口を開いた。

 「……分割は利子が怖いので……できれば“延滞金免除付きのファン制度”を希望します」


 「甘ったれるなーーっ!!!」


 ❁❁❁


 周囲のモブがざわめき出す。

 「……え、あれミサミサじゃね?」

 「ほんとだ!生のミサミサだ!」

 「かわいいー!」

 「いつも見てますー!」

 ミサは手を振りながら、にこにこ笑った。

 「わぁ〜! 凄い、この大学……見事に“無課金勢”ばっか! 推し活は課金してからが本番だぞ♡」

 モブたちがザワッとする中、ミサが突然振り返った。

 「きゃっ!誰かおしり触った!?」

 Lの目がピクリと動き、口元から「あっ」と小さな声が漏れる。

 「不謹慎ですねぇ……!どさくさに紛れて許されません。──犯人は私が見つけます」

 ミサは目を丸くしたが、すぐに笑って肩をすくめた。

 「あははっ!流河さん、痴漢常習犯ー♡慰謝料払えー」

 その時、ずかずかと駆け寄ってきたのはミサのマネージャーだった。

 「ミサ!何やってんの!また遅刻する気!?スポンサーからの契約金、何百万背負ってると思ってるのよ!」

 ガシッと手を引っ張られるミサ。

 「えぇー?ちょっと待ってよ!だって私、“レンタル彼女代”の集金中なんだもん!」

 (集金とか言うな!!)月は胃を抑えて崩れ落ちそうになる。


 ❁❁❁


 「またね〜月〜! レンタル代ちゃんと払ってね〜♡」

 ミサはハイテンションで去っていった。


 月は奥歯を噛みしめながら、ポケットから携帯を取り出す。

 (……あの女に電話をかけて、Lの本名を聞き出す……! 今度こそ──)

 プルルルル……。

 背後から別の着信音が響いた。

 「……?」

 振り返ると、そこにはミサの携帯を掲げたL。

 ──しかもその携帯は、全面にラインストーンとスワロフスキーが散りばめられ、「MI-SA ♡」と大きくデコられたド派手仕様。

 画面の待ち受けは、謎の札束タワーの前でピースしているミサ本人だった。

 Lは無表情のまま、そのギラギラ携帯を耳に当てて言った。

 「もしもし」

 月の手から自分の携帯が滑り落ちそうになる。

 「……何が“もしもし”だ」

 Lの手にあるのは、携帯ではなく──アンテナが伸びきった子供用トランシーバー。

 カチッと押すと、やけにクリアな声が響いた。

 「はい、はい、はい。……やりましたね」

 Lは淡々と頷き、月を振り返る。

 「月くんにとっては──嬉しかったり悲しかったりでしょうが」

 月の胃がきゅっと縮む。




 「──弥海砂を“NHN受信料未払い容疑”で確保しました」




 (NHN……っ!? キラ容疑よりタチが悪い……っ!! 払ってないやつ全員敵に回す気か……!!)

 月は拳を握りしめ、怒りで震えた。

 「ふざけるな……!!……僕が、ぶっ壊してやる……!!NHNをなァッ!!」

 その瞬間、Lがじっと月を見据え、静かに口を開いた。

 「……夜神くん」

 Lは微動だにせず、冷酷に告げた。



 「今日からあなたは──立花くんです」


DEBT NOTE -借金-1000万の探偵 VS 所持金13円の神-

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