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キルの眼光に、ヒノトは負けじと剣を振り翳した。
「あぁ! まだ分かんないことも多いけど、俺は色んな属性を扱える! 前衛は任せてくれ!」
しかし、その言葉はあっさりスルーされ、ルルは目を見開いて声を荒げた。
「ちょっと! 前衛は任せてなんて、その装備でよく言えるわね!?」
「えっ……? 装備…………?」
「アンタの武器、何も強化がないじゃない!」
「確かに……。灰人の力、数多くの属性を扱えるのは着実なアドバンテージだが……君の武器は弱いな」
「さ、さっきから何言ってるんだ……? 武器を強化? 武器は武器だろ……?」
そう言うと、二人は各々の武器をヒノトに見せた。
「ほら、私の武器に手を翳して、魔力を感じてみて」
「武器の魔力を感じる……?」
ふわっと、今までに感じたことのない魔力を感じる。
「このエネルギーは……なんなんだ……?」
「これは『体力を上げる魔力』よ。武器や装飾品にも、こういった魔力を注ぎ込める。そうしなければ、どんなに属性を扱えたって、強さは停滞してしまうわよ?」
「フレア家は特に、血筋柄、体力を強化するほど、攻撃力に変換させる特殊能力がある。キルロンドが他国より優っている点があるとすれば、その点だろうな」
「ドラゴレオ家にも、そう言うのがあんのか……?」
「いや、僕の家系には特殊能力はない。王族の血は、攻撃力に特化したものが多い。だけど僕の特注した武器は攻撃力に依存したものではない。リオン様の銃は攻撃力を上げる魔力が込められていたけど、僕のは『属性熟知』というものを上げている」
「属性熟知…………?」
「そんなことも知らないのか……。まあ、元々は魔法を使えなかったらしいし、仕方ないか。『属性熟知』が多ければ多いほど、 “属性反応” を起こした時の威力が上がるんだ。僕は、雷魔法を扱う兄さんとの “感電” を強化する為に、僕の武器には “属性熟知” を上げる効果のものにしたんだ」
「なるほど……。武器にもそういう工夫を施して戦闘を有利に進めることができるのか…………」
「武器だけじゃないわよ」
そう言いながら胸に手を当てると、ルルの掌は光り、その手には五つの形状の小さな物が現れた。
「小さな物……? 羽……花……なんだ……?」
「形は五つ。羽、花、時計、杯、冠。内、時計、杯、冠にはそれぞれ、様々な効果を与えられるのよ」
そう言うと、キルも無言で五つの装飾品を体内から取り出した。
「この通り、僕にもある。と言うより、君以外のほとんどの人は持ってるだろう。君は元々、剣士、と言うだけで灰人の力に目覚めたのも倭国の中だったから、与えられる暇がなかったのだろう。仕方ない。足手纏いにもなって欲しくないし、兄さんと組めない僕には必要のない物だから、一つだけ君に渡そう」
そう言うと、キルは冠の形の装飾品をヒノトへと手渡した。
「それを胸に当て、魔力を注ぎ込んでみろ」
言われるがまま、小さな冠を胸に当て、ヒノトは魔力を集中して集めた。
すると、冠はそっと体内へと入って行った。
「これは……?」
「 “会心ダメージ” を上げる装飾品だ。剣士なら、会心で出せる力があるかないかで大きな差が生まれる」
二人は、そっと体内へと自分たちの装飾品を戻した。
「それで、僕たちの戦い方だが、純粋に火力を上げる為なら、ヒノトくんには炎を扱ってもらい、僕たちを起点として “蒸発” を狙うのはどうだろうか?」
「そうね。私も公式戦では前衛メイジを務めたけど、基本はやっぱり中衛での補佐。私より強力なサブアタッカーとしてのガンナーがいるなら、私もそれに賛成よ」
「それじゃあヒノトくん、炎属性を見せてくれ」
しかし、ヒノトは、
「あれ…………アッハハ…………」
炎が出せなかった。
「まさか……まだ扱えていないのか……!?」
「あぁ……。倭国の時は、無我夢中であまりちゃんと考えて使えないんだよな……。仕組みは分かってるんだけど」
「仕組み……?」
「あぁ。受けた属性を扱える……と思う。だから、二人が俺に魔法を放ってくれたら、俺は水属性を扱えるようになる……けど、水属性が三人になっても……だよな……?」
ヒノトの胸がズキリと突き刺さったのは、これが理由だった。
二人の中衛の水属性、そして自分は、仲間から与えられる属性しか扱うことができない事実。
倭国では、様々な味方がいて、編成でも、優秀なサポーターに恵まれた。
ヒノトの自信はいつしか、なんとなくの虚像ではなく、仲間がいることの着実なものに変わっていた。
しかし、そんな仲間たちと分断された今のヒノトは、再び、以前のような魔力暴発しか出来ない。
悔しいと言う気持ちを押し殺して、それでも前を向いて戦いたいと、強く願いながら、ただヘラヘラと、笑うことしかできない無知な己に、胸を痛めた。
しかし、そんな時に、
「標的…………はっけ〜〜〜ん!!」
「魔族…………!!」
「ヒノトくんはいい! エルフ帝国で得た魔法なら僕の魔力を底上げできる!! ヒノトくんは自前の魔力暴発で魔族の注意でも逸らしていてくれ!!」
「クソッ…………!」
“水放銃魔法・水針”
キルの拳銃の先端から、三つの鋭弾が発射される。
(すげぇ……これがリオンの話してた、エルフ帝国で得た力か…………!)
「ルルさん!! 支援を!!」
“水支援魔法・アクアフレイア”
ルルの詠唱後、三人の足下に水の足場が形成される。
「私のアクアフレイアは、私の体力を基準に味方の攻撃力と速度を上げる! ヒノトくんの魔力暴発の威力と速度も上がるはずよ!!」
ルルもまた、エルフ帝国遠征での訓練で、公式戦とは遥かに強くなった魔法を見せた。
(俺は…………。俺だけが……何も変わってない……。仲間の支援がないと……戦えない…………!)
「うあああああ!!」
“陽飛剣・魔力豪弾”
ゴゥッ!!
キルの水魔法と共に、魔族へと飛び込むヒノト。
しかし、
「な〜んだ。セノ様がわざわざ呼び寄せた学生たちって言うから、少しは期待してたのに。残念」
魔族は無傷でキルの水針を打ち消し、ヒノトを、
「コイツも……ふふっ、マジウケる。今時、突っ込むって。アハハハハ!!」
バチバチと、雷の帯びた槍で突き刺していた。
「「 ヒノトくん!! 」」
「くはっ……!」
致命傷は避けたが、ヒノトは大量の血を吹き出した。
「あの魔族……雷属性かよ……。相性最悪だ…………」
「ねえ!! ヒノトくんどうしよう!! ねえ!!」
「慌てるな!! 多少の回復魔法なら心得がある!!」
“水回復魔法・水中”
キルの拳銃から細長い水の糸が放出され、ヒノトに当たると、ヒノトは少しだけ痛みを和らぐことができた。
(クソ……足手纏いもいいところだ……クソッ……!!)
圧倒的、不利な状況に、キルは汗を滲ませる。
「ルルさん、前に出てくれ……。僕は回復魔法に心得があるとは言え、ヒーラーじゃない……。僕は集中していなければ回復魔法は途切れる。そうなったら、ヒノトくんの命が危ない…………」
「でも、相手は雷属性の相性最悪で、私一人が戦ったところで…………!」
「少しは自分でも考えてくれ!! 君は、公式戦のあの作戦も、ゴヴさんの指揮だっただろ!! 君は強気でいて、いつもどこかで誰かの背を追っている!! 今回、僕たちに策を尋ねたのもそうだろ!!」
最悪の空気が、三人を張り巡らせる。
ルルも、傷心したかのように、俯いた。
『まったく、弱いね、君は』
意識が朦朧とする中で、ヒノトの頭の中に、聞いたこともない女性の声が響く。
『身を粉にして戦いなよ、”勇者” なんでしょ?』
その声を幕切りに、ヒノトの意識は完全に消えた。