普段なら満員のはずの電車も、ガランとしていた。
それもそうだ。今の時刻ももう24時を回ろうとしているから。
類はもう寝ただろうか…
プシュー
『𓏸𓏸駅〜𓏸𓏸駅〜』
アナウンスを聞いて、俺は電車から降りた。
自宅はここから歩いて10分ほどの場所にある。
今日も疲れた。足が鉛のように重い。
「ただいま。」
トタトタトタッ
と、少し慌ただしい足音が近づいてきた。
「おかえり!遅かったね。ご飯出来てるよ。」
付き合う前はからきしだった料理も必死に練習し、こうして毎日美味しい食事を用意してくれる。
大した手入れもしていないのに艶やかで美しい紫色の髪、芯の強い優しい金色の目。
それらは変わってないように見えて、歳を重ねる毎により色気が増している。
「まだ起きてたのか。」
「司くんにおかえりって言いたくて…あ、お風呂も出来てるよ。」
「ありがとう。少し仕事が長引いてしまってな。先に風呂に入りたい。」
「分かったよ。沸いてるから入って来て。」
「…随分と凝った料理だな。」
テーブルにずらりと並んだ料理を見て言った。
いつにも増して気合いが入ってる様に感じた。
まて、もしや、何かの記念日だったか?
いや、思い当たるような記念日は無いが…
「あぁ、えっと…君はいつも仕事頑張ってくれてるから、労いたくてね。」
そう言って照れくさそうに頬を赤く染めた。
どうしよう、俺の類がこんなにも愛しい。
「類、ありがとう。お前のお陰で疲れも吹き飛んでしまった。」
手招きで類を呼び、頭を撫でる。
「ふふ…もうそんな歳じゃあないよ。」
「別に良いだろう。撫でたくなったんだから。」
「うん…そうだね。君に撫でられるのは好きだよ。」
類が少し俺から離れた。
「ほら、お腹すいてるでしょ?僕もまだ食べてないから、一緒に食べよう。」
「何?!まだ食べてなかったのか?!」
てっきりもう食べているものだと思った。よく見ると、机に並べられている食事は2人分だった。
「お前こそ腹減ってるだろう。先に食べてても良かったんだが…」
すると類は少し寂しそうに
「1人で食べるより、君と食べた方が美味しいからね。」
ほら、冷めちゃうから食べよう。
そう言って無邪気に笑う類がどうしようもなく愛おしい。
類のために、俺は何をしてあげられるだろうか。
類は本当に、俺といて幸せなのだろうか?
時々ふと、そう考えてしまう事がある。
俺が類を縛ってしまっているんじゃないか…そう思うと、罪悪感に苛まれる。
「ありがとう、類。すごく美味しいぞ。」
「ふふ、それは良かった。」
けど、こうして幸せそうな類を見ているとそんな気持ちも少しの間忘れられる。
さっきまでは見えなかったが、箸を持った手の指には絆創膏が貼られている。
料理だって、まだ得意では無いだろうに。
本当に、可愛い奴だ。