コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ラズールが心底悔しそうに声を絞り出して言う。
僕は黙って目を伏せた。
そんな話は、リアムは知らないと思う。ずっと旅をしていたんだから。
しかしラズールは、どうしてそんなにもリアムを嫌うのだろう。僕の愛する人のことを、僕が信頼するラズールには認めてほしいのに。
「どうかされましたか?」
「…いや、今回の調査によっては、イヴァル帝国とバイロン国の関係が悪くなるかな…」
「なるでしょうね」
僕は更に顔を伏せる。
本当にイヴァル帝国の民が盗んでいたのなら、どうすればいい?犯人を捕まえて差し出せば、許してもらえる?
いや、そもそも我が国の民がやったとは信じられない。きっとその話は間違いだ。
僕は腹に力を入れて立ち上がると「早く行こう」とラズールの方を見ずに言った。
途中で三組に別れた。僕とラズール、騎士が三人と二人だ。
僕とラズールは村長の家へ、三人と二人はそれぞれ村人の家を探ることになった。
僕以外の五人には、その他にも命じられたことがあるようだ。ラズールが僕から離れて五人の所へ行き、コソコソと何かを話していたから。
バイロン国が関わることだし僕に気を使っているのかな、と大して気にもしなかった。
五人と別れ、四半刻もしないうちに広い敷地の立派な家に着いた。どうやらここが村長の家らしい。
門をくぐる前に「これを」とラズールが僕の顔に何かをくくりつけた。
「えっ、なに?」
「潜入する時につける面です。俺のは黒ですが、あなたのは銀の面です。あなたの顔が見れないのは残念ですが、相手国の者に顔を知られるわけにもいきませんので」
「面…」
僕は自分の顔を触った。口元はストールで隠され、目と鼻が硬いもので覆われている。
顔を上げてラズールを見る。黒い面をつけたラズールの姿は、怪しい以外の何者でもない。
「すっごく怪しいよ…」
「そうですか?俺はこの面を結構気に入ってるのですが」
「まあ…似合ってもいるけど」
「ありがとうございます。無駄話はここまで。今から村長を呼び出します。かなり強引に話を進めますが、黙って見ていてください。あなたが嫌がることをするかもしれませんが、我慢していてください。俺に任せてくれますか?」
「…わかった」
少し不安に思いながら頷く。
何をしようというのか。
ラズールは、僕が何かをされたら、襲ってきた者を容赦なく傷つける。しかしか弱い村人を、意味もなく傷つけたりはしない。
だから僕は、邪魔をしないようにラズールの後ろに控えていよう。
ラズールが門をくぐって敷地を横切り玄関の前で止まる。そして黒い手袋をはめると、力強く扉を叩いた。
しばらく待ってから扉が開いて、白髪に白い髭の老人が出てきた。たぶんこの人が村長本人だろう。
村長がラズールを見て目を見開く。
「どちら様…っ」
「悪いな」
村長の言葉が言い終わるよりも早く、ラズールが村長の口を塞いで身体ごと押し返した。
そして顔をこちらに向けて頷く。
僕も慌てて中に入った。
僕が中に入ると、ラズールが後ろ手で扉にカギをかける。そして村長の身体を押して部屋の中央まで進み、そこにあった椅子に座らせて、ようやく村長から手を離した。
「なっ、何者…!」
「静かに。痛い思いをさせたくないので、大人しくしていただけませんか?あなたがこの村の村長ですね?少々聞きたいことがあるのです」
大声を出そうとした村長に向かって、ラズールが自分の唇に人差し指を当てながら言う。そしてもう一つの椅子を村長の対面に持ってきて僕を座らせ、自身は僕の隣に立った。
「わしを…殺すのか?」
「そのような野蛮なことはしません。だが、あなたが正直に話さない、またはこちらの言うことを聞いてくれない場合は、奥の部屋にいる家族の身に危害を加えるかもしれませんよ」
「な…っ」
村長の椅子がガタンと揺れる。
僕も思わず声を上げてしまうところだった。
でも大丈夫。ラズールには何か考えがあるんだ。ここは黙って見ていよう。
ラズールが僕の肩に手を乗せた。手から伝わる熱が温かくて、安心できた。
「聞いてもよろしいですか?」
「…なにをじゃ」
「この村にはふんだんに宝石が採れる山がある。その山の採掘場で、盗難が起こっているそうですね?」
「ああ、そうだ…」
「いつから?」
「ひと月ほど前からだ」
「今も続いてる?」
「ここ数十日は落ち着いているが、いつまた盗難が起きるかわからん」
「犯人の目星はついてるのですか?」
「ついてる。この村と隣接するイヴァル帝国の蛮民の仕業じゃ」
「そっ…」
黙って聞いていたけど、自分の国の民を悪く言われてつい興奮してしまった。
思わず立ち上がろうとしたところを、ラズールに肩を押さえられて我に返る。僕は、ゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせながら、椅子の背に身体を預けた。
ずっとラズールを見ていた村長が、この時初めてこちらを見た。そしてなぜか寂しそうな顔をする。
「君…まだかなり若いのじゃないかな?その歳で賊のような真似事に加担させられて、かわいそ…」
「黙れ。村長、会話は俺とだけにしてください。この者に関わった場合も、家族に危害を加えます」
村長は驚いた様子で、僕とラズールを交互に見ていたけど、「わかった」と頷いて話を続けた。