それから暫く、俺と青年と赤子の間に沈黙が流れた。
『お前、どうして俺が見えるんだ?名は何という?』
俺は雨の音しか聞こえないこの空間の沈黙を破り、青年に問い掛ける。
「見えるって、そりゃ、貴方は人間でしょう?」
困惑しきった表情で青年はそう語る。
これは驚きだ。そう言えば、前にであった霊が『お前、恐ろしいほどの力を持ってんな。そんなんじゃ人間に簡単に見られるぞ』なんて言ってた気がする。そういう事か。
『俺は幽霊だ。生前の名前は忘れたから“彰”と名乗っている。お前は?』
困惑を隠せない様子の青年の為に先に俺が名乗ってみた。
「俺、霊感なんて無いはずなんだがな」
苦笑いを浮かべた青年はそう言葉を溢す。
「俺はこの国の現役ドールの“盟典”です」
しっかりとナイトグリーンの瞳を俺に向けて青年は名乗った。
『ドールっていやぁ、結構なお偉い様じゃないですか。俺に敬語なんて使わないでくださいよ』
しっかりと彼の瞳を見つめ返しながら俺はそう言葉を返す。
「分かった。なら、彰も敬語は止めてくれよ」
怪し気に盟典はそう微笑む。
『りょーかい』
こんな風に人と話したのは随分と久しぶりだからか、楽しくなって俺はそう返事をする。
『にしても、ドールがこんなところに来るなんて珍しいな。しかも赤子を抱えて。どうしたんだ?』
ドールだと聞いた時から不思議に思っていた事を盟典に問うてみた。
「実は逃げてるんだ」
『へぇ〜、そっか。って、はぁ?逃げてる?そりゃまたどうして』
後頭部に手を当てて軽いノリでとんでも発言をするものだから、軽く受け流す所だった。