テラーノベル
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誰かと、一緒に、川に、行ったっけ。
あの人、誰だっけ。
なんで、川なんかに入ったんだっけ。
というか、あれはいつだっけ。
私の人生の中で経験したことないはずなのに。
もしかしてなんか動画で流れてきたとか?
だとしたら…なんで気温、空気の香り、暗さ、川のせせらぎ、誰かのあたたかみが、こんなにもリアルに記憶されているのだろうか。
なんでだろう…
「え〜江戸時代中期には歌舞伎、浮世絵、人形浄瑠璃などが流行りました。え〜その歌舞伎や人形浄瑠璃の人気脚本を書いたのは、この『近松門左衛門』という人です。え〜この人の作品の中で特に有名なのが『曽根崎心中』や『心中天網島』などです。え〜この『心中』というのは恋人同士の二人が愛を確かめるために死ぬということで、江戸時代にはブームになりましたが、のちに規制されました。」
授業つまんねー…。
ノートをとるが、眠気で字がグシャグシャだった。
でも「心中」「歌舞伎」「浮世絵」「人形浄瑠璃」などの言葉に心が大袈裟に動くのだ。
なぜだ?歌舞伎も浮世絵も人形浄瑠璃も、一度も見たことないぞ?
なのに…なのに、歌舞伎や人形浄瑠璃や浮世絵がやけに本当に見たかの様にリアルに思い出せる。
それに江戸時代の書物、少しだけだけど、読める。
勿論全部は読めないけど…。
なんで勉強してないのに読めるんだ?
確かにひらがなに近い文字もあるが漢字も読める。
不思議だ…。
給食の時、急に男の人の叫び声がどこかをよぎった。
「えっ?」
「ん?どうしたの?」
友達は気づいてないようだった。あんなに大きな声だったのに…?
じゃあこの叫び声の主は?発信源は?
ついには鼓動が暴れて止まらなくなってしまった。
家に帰って、歌舞伎って何円で観られるのか検索してみた。
《数千円から二万円程度》
に、二万円!?
そんなに高額だったんだ…。
で、でも数千円の席狙えば大丈夫でしょ!多分!
今度…行ってみようかな…!
そして一番有名(?)な曽根崎心中について調べている時だった。
心臓が早く動く。全身が熱い。いつの間にか頬にキラキラと光る線が引かれていた。
「俺はおつゆのことを愛してる。でも禁じられてるんだから…」
「ええ。わかってるわ、だからここでーー。」
川の音が強くなる。
それと同時に、風も強くなる。
暗くて相手の顔が良く見えない。
「来世でまた会いましょう」
最後言ったのはそんなこと。
そして次に思い浮かんだのが、一人の丁髷の男性の顔だった。
正直言うとめちゃくちゃタイプ。顔が。
丁髷だったら誰でもカッコ悪いと思ってた過去の自分を殴りたい。
その人の腰には確か…二本の刀…武士の証拠…
ってあれ?今のこと授業でまだ習ってないのに、なんでわかったんだ?
そんなことは置いといて次に思い浮かんだのは、あのリアルな歌舞伎だった。
今度は芝居小屋の木の香りまで思い浮かべられる。
私の隣にはーーあの顔がタイプの男性ーー確か名前はーー「ひがしのすけ」だったような……ん!?東之介様!?
思い出した。私は…私は…
「つゆ」だった
名前が少々うどんの「汁」みたいだったがそんなことは置いといて。
私は商人で、とある水茶屋で働いていた。
そこで出会ったのがーー東之介様だった。
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