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第二章、渡辺さんの理性が完全に崩壊する直前の、最も歪んだシーンを詳しく描きます。
第二章:『檻の中の残響』——均一な絶望と、歪んだ収集
楽屋の隅で、渡辺さんは震える手で膝の上の台本を握りしめていました。 視線の先には、阿部さんと笑顔で談笑し、向井さんの冗談に肩を揺らして笑う宮舘さんの姿があります。
「……なんでだよ」
渡辺さんの胸の奥で、どす黒い感情が渦巻きます。 かつて自分を「生け贄」と呼び、狂おしいほどに求めてきたあの眼差しは、今やどこにもありません。宮舘さんは、渡辺さんに対しても、目黒さんに対しても、ラウールさんに対しても、完璧に「平等」で「丁寧」な、非の打ち所がないSnow Manの宮舘涼太として振る舞っていました。
(俺は、あんたの特別だったはずだろ。……『普通』になんて、戻りたくないんだよ)
他のメンバーと同じように「翔太」と呼ばれ、同じように労いの言葉をかけられる。その「健全な優しさ」が、今の渡辺さんにはどんな猛毒よりも苦しく、耐えがたい屈辱でした。
その夜、渡辺さんはいつものように寝室の奥、クローゼットの聖域に逃げ込みました。 スマートフォンの画面をスクロールすれば、SNSに溢れる宮舘さんの最新画像がいくらでも出てきます。保存した枚数は、すでに数千を超えていました。
けれど、指先で液晶をなぞるたび、冷たいガラスの感触が渡辺さんを嘲笑うのです。
「……こんなの、誰だって見れる。俺じゃなくても持ってる」
液晶越しの光は、渡辺さんの飢餓感を満たすどころか、余計に喉を乾かせるだけでした。 ガシャリ、と音を立ててスマートフォンを床に放り捨てると、渡辺さんはクローゼットのさらに深い闇、棚の奥から「あるもの」を取り出しました。
それは、SNSの画像でも、市販の雑誌でもありません。
現場で宮舘さんが使い捨てた飲料水のボトル。 撮影の合間に彼がこぼした、コーヒーのシミがついたままの台本の断片。 そして、衣装室のゴミ箱から拾い上げた、宮舘さんの髪の毛が一本だけ付着したままの粘着クリーナーのテープ。
「……涼太、涼太……」
渡辺さんは、それら「生きた形跡」を、まるで宝石のように愛おしげに並べました。 他人が見れば正気を疑うようなゴミの山。しかし、渡辺さんにとっては、今の冷淡な宮舘さんから唯一奪い取ることができた、剥き出しの「真実」でした。
渡辺さんは、宮舘さんが触れたであろうペットボトルの飲み口に、自分の唇をそっと重ねます。 そして、クローゼットの壁に貼られた何百枚もの「宮舘涼太」の視線に晒されながら、自嘲気味に笑いました。
「ねえ、涼太。あんたが俺を『普通』に扱うなら……俺は、あんたの知らないところで、どんどん壊れてあげる。……ほら、見てよ。あんたの望んだ通り、俺はもう、あんたがいないと息もできないよ」
渡辺さんの瞳には、もはやアイドルとしての輝きはなく、愛する者に無視され続けた「生け贄」の、どろりと濁った情愛だけが宿っていました。
この異常な収集癖と、誰にも言えない密室の聖域。 この狂気が飽和した瞬間、宮舘さんが再び「神」として渡辺さんを連れ去る、あの逃避行の幕が上がるのです。
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