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目黒さんに秘密を暴かれたことで、逆に「もう失うものはない」と開き直り、周囲に悟られないよう表面上の平静を装いながらも、その裏で宮舘さんへの執着を限界までエスカレートさせていく渡辺さんの数日間を詳しく描きます。
第二章:『檻の中の残響』——加速する蒐集(しゅうしゅう)
目黒さんにクローゼットの秘密を見られたあの瞬間、渡辺さんの中で「羞恥心」という名の最後の理性が焼き切れました。普通なら恐怖や罪悪感を抱く場面ですが、今の渡辺さんにとっては「目黒に知られた=もう誰にも隠さなくていい」という、歪んだ解放感へと変換されたのです。
それからの数日間、渡辺さんは驚くほど「普通」に振る舞いました。楽屋では目黒さんに対しても「昨日はごめんね、ちょっと疲れてたわ」と、記憶に残らないほど自然な笑顔で接します。 しかし、その瞳の奥は一滴の光も通さないほど濁っていました。
目黒さんが自分を監視していることを逆手に取り、渡辺さんは「普通のメンバー」を演じることで、宮舘さんをより深く、より密やかに侵食する愉悦に浸り始めたのです。
クローゼットの中身を見られたことで、SNSの画像や市販のグッズといった「誰でも手に入るもの」への興味は完全に消失しました。渡辺さんが次に手を出したのは、より直接的な、宮舘さんの
「生活の断片」でした。
仕事の合間、宮舘さんが少しでも席を立てば、渡辺さんは音もなくその場所へ忍び寄ります。
宮舘さんが読み終えて楽屋に置いたままの、角が少し折れた新聞。
彼が喉を潤した後の、わずかに結露が残るペットボトルのキャップ。
衣装の着替えの際に、床に落ちたわずかな糸屑。
渡辺さんはそれらを、目黒さんの視線を盗むスリルを楽しみながら、宝物のように懐へと滑り込ませました。
クローゼットの中は、もはや写真のギャラリーではありませんでした。 壁には剥がされた写真の代わりに、宮舘さんの動線や発言、その日の香りの強さを分刻みで記録した狂気的なメモがびっしりと貼り出されました。
中央には、以前宮舘さんが「もう古いから」と楽屋で捨てようとしていた、彼私物のハンドクリームが鎮座しています。渡辺さんはそれを自分の手に塗り込み、目を閉じて、宮舘さんの大きな手に包まれている錯覚に耽(ふけ)ります。
「……涼太、見てる? めめがどれだけ見張っても、俺の頭の中までは覗けないんだよ」
ある日の収録後、宮舘さんが通り過ぎる際、渡辺さんはわざと彼の肩に自分の体を強くぶつけました。
「あ、ごめん舘さん。」 「……気をつけて」
一言だけの短い会話。しかし渡辺さんは、ぶつかった瞬間に宮舘さんのコートから自分の指先に移った、わずかな繊維の感触を、クローゼットの中で何度も何度もなぞり続けました。
目黒さんが自分を救おうとすればするほど、渡辺さんはその救いの手を宮舘さんへの供物(くもつ)として捧げるように、深い闇へと沈んでいきました。この「普通のふり」をしながら執着を募らせる数日間が、渡辺さんを真の狂気へと完成させ、あの逃避行の夜へと繋がっていくのです。