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それから私たちは、人々の怪我を治療していった。
夕方には全員を治療し終わり、私たちは馬車に乗り込んだ。
……それでも、どうしても心残りがあった。心に、何か引っかかるような物があった。
どうして?全員を治療したのに。
と、向かいに座っている彼が、口を開く。
「納得していない様子だな」
彼の言葉に、私は苦笑した。
「そうですね。なぜでしょう」
すると、彼が少し間を置いて、私を見据える。
「……あんな対応では、十分じゃないと思っているんじゃないのか?」
その言葉に、私は目を見開いた。
その言葉が、私の中で、すぅっと溶けていく。すとんと落ちていく。
……ああ、そうか。そういうことだったのか。
私は、静かに頷いた。
「お前は、どうしたいんだ?」
彼のそれに、私は躊躇してしまう。
どうしよう。言葉が出てこない。
すると、彼は私の隣に座り、私を抱きしめる。
彼の温もりが、私を包み込んで離さない。
「……まず、井戸を直したいです」
私の口が勝手に動いた。
「それから、食料をたくさん送り届けて、家を建て直して……」
さっきまで全然出てこなかった言葉がぽんぽん出てくる。
同時に、涙があふれ出す。
突然出てきた雫に、私は驚いた。
なぜ私は泣いているのだろう。
「……ゆっくりでいい。焦るな」
彼の声音は、とても優しく、私を包み込むようだった。
いつだって彼はそうだ。
私が泣いたらこうして抱きしめてくれて、私を甘やかしてくれる。
彼は優しい。
だから私は、どうしようもなく彼に甘えてしまう。
北部の光景を初めて見たときもそうだ。
自分では受け止めていたつもりだった。
そんなことは、全然なかった。
だからこうしてまたあふれてしまったのだ。
私は、彼がいないと何もできない弱虫だ。
「……リリアーナ」
彼が、ふと私の名前を口にする。
「は…い」
私は泣きながら答えた。
すると、彼の手が私の髪の方に伸びる。
首を傾げる私をよそに、彼は私の髪を一房取った。
私は目を見開いたまま彼を凝視する。
私の髪を絡めた大きな手は、彼の口元へ運ばれ……、唇に押し当てられた。
途端に、私は赤面する。
「るっ、ルウィルク様、何を…」
「リリアーナ」
彼の優しさで満ちあふれた声音が、耳朶を打つ。
私は顔を上げ、彼の顔を覗いた。
彼は、微笑んでいた。
彼の青い瞳が、まるで氷が溶けたようにやわらかく、温かかった。
「帰ったら、お前のやりたいことを全部言おう」
そう言いながら、彼は私の髪を優しく撫でる。
「は、はい……」
私は彼の声音に心臓を速くさせながら頷く。
そのまま私たちは、しばらく抱きしめあっていた。