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「とりあえず気を取り直して、アンタの名前は?」
恐神先輩が泣き続ける女性らしき幽霊に対して少々スパルタな発言をかましているのを無視し、儚くも確かにその場に存在している幽霊の吐息がある程度落ち着いてきたところで、‘’来客者‘’としてオレなりの優しい声色で話しかける。
「ぁッ、ぇ、…ぉ、い、わ…で、ッ、す」
「何でそんな赤ん坊のように泣きじゃくってんだよお前…
ここは幽霊病棟でもねぇぞ…」
「恐神先輩、少し黙ってて下さい。
お名前は‘’お岩さん‘’で合ってます…?」
未だに嗚咽が収まっていない様子だけれど、責めて名前と依頼目的は最低限聞き出さなくては此方としても何も対処できない。ただ隣で警戒心の強い犬のようにギャンギャン吠えている恐神先輩に関しては少々眠ってもらいたいが…
「ッ…、合ってます…
それと少し落ち着きましたので、…えっと…あの、…一応先にお聞きしたいのですが、ここは幽霊などオカルト系の対応もしてくれる探偵事務所であっていますでしょうか…?」
「ええ、まぁ一応そういう事になってるっぽいっすね…」
恐神先輩がほんの一瞬だけ更に顔が怖くなったのを察して、少し他人事のような言い方になってしまったがこれもこの先輩の機嫌取りにやるしか無いのだ。
何故なら――
「そう、なんですね…
えっと…トントン拍子で話を進めていて申し訳ないのですが…、私が依頼したい内容はと言いますと…
‘’私をこんな目に遭わせておいて、他の女と不倫をした夫に復讐がしたい‘’んです。」
「おお、復讐ねぇ…いいじゃん
え??」
先程まで弱々しそうな声でありながらも礼儀正しい印象を持っていたお岩から、想像を絶するような言葉が吐き出されたことに、その場にいた男二人は今まで感じたことのない身の毛のよだつような感覚を味わった。