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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 髑髏撫子を執行官にスカウト。その言葉は、二人にとって予想外のものだったらしく、目を見開いて驚いていた。

 髑髏撫子は冗談と受け取ったのか少し眉を顰めて、白髪の先生はおかしそうに笑った。


「君に、そんな権限があるのかい?」

「あれ? 私のこと知らない? 黒い鳥って呼ばれてるドミナントなんだけど」

「黒い鳥……ドミナントというのは先天的に卓越した戦闘の才能がある存在という定義で正しかったかな。黒い鳥はその焼き焦げた鳥のエンブレムからと記憶している」

「せいかーい。私は、強いから強い。だからパノプティコン機関やパノプティコンシステムからも色々と依頼を受ける代わりに特権を貰ってる感じだね」

「パノプティコンシステムが一人の人間に入れ込むなんて、その平等なシステムの名が泣くね」

「そもそも免罪体質者なんている時点で不完全なシステムなんだよ。だからこそ、その不完全にする要因を味方に取り込んで完全性を高めようとする」

「なるほど。それで、僕にもそのパノプティコンシステムの手先となれ、と?」

「どっちでも。私は貴方の殺害命令は受けてないし、勧誘したのは髑髏撫子さんだし。貴方は好きにすれば?」

「君は公安局の執行官という立場で来たのではないのかな?」

「いいや、貴方の誘いに乗ってみただけ。ぶっちゃけ貴方にそこまで興味ないよ。パノプティコンシステムは取り込みたがってるみたいだけど、どう?」

「遠慮しておこう。僕はね、この人生というゲームを心底愛しているんだよ。だから、どこまでもプレイヤーとして参加し続けたい。レフェリーではプレイを楽しめないからね」

「ふぅん。因みに貴方の名前は?」

「狡噛聖護」

「聖護さんは免罪体質をどう思う? システムの不完全性とかじゃなくて、自分がそうなってみて嬉しい人生だった? それとも嫌な人生だった?」

「さて、君はどちらだと思う?」

「質問を質問で返さないでくださーい。まぁ、免罪体質は大体2つの意見に分かれるよ。特権として活用する私みたいなタイプと、社会から眼中にないと思って孤独に感じるタイプ」

「ほう。それで?」

「聖護さんは後者でしょ。特権に感じるなら、わざわざ人を使った犯罪はしない。犯罪をプロデュースして、人を試すのは、自分と同じ人間が価値ある存在だと認めたい、感じたいって欲求があるからだよ」

「なるほど。興味深い推理だ。僕は人の魂の輝きが見たい。それが本当に尊いものだと確かめたい。だが己の意思を問うこともせず、ただシステムの神託のままに生きる人間たちに、はたして価値はあるんだろうか?」

「まぁ、そういう感じだよね。好きにすれば良い。私はあなたの言うところのレフェリーだから、プレイヤーの操作に関与しない」

「そもそも何を持って犯罪を定義するんだ? パノプティコンシステムが決めるのか? 数値によって振り分けられる善と悪。そこに人間の魂の輝きが見られるはずがない、だって現に自分は正しく振り分けられていないのだから」

「好きだけ存分にやりなよ。パノプティコンシステムも貴方の知性と特異性に喜ぶ。狡噛聖護さんは貰っていくけどね。彼女はプレイヤーであり、パノプティコンシステムが正常に作用する環境下で社会に不要なものだと判断された。ドミネーターも殺害命令を出してる」

「構わないよ。君と対話できただけで充分だ。有意義な時間だったよ。彼女は好きにすると良い。また別のおもちゃを探すことにするから」

「はいはーい。さようなら。あ、でも貴方に相棒を殺された男が、貴方を凄い執念で狙ってるよ。死んでも良いけど、髑髏撫子さんと引き合わせてくれた御礼だと思って聞いておいて。貴方の言う自分の意志で行動できる男だよ」

「そうか、それは楽しみだ。次のゲームの用意は力を入れなくてはいけないね。では、さようなら。ドミナント」

「はいはい、ばいばいイレギュラー」


 狡噛聖護はそう言って去っていった。

 後には髑髏撫子と鮮花が残される。


「貴方は狡噛先生の仲間なの?」

「いや? 別に違うけど。うーん、良い絵を書くね。こういう犯罪数値が上がりそうな作風は刺激的で好きだよ」

「その言い方、不快だわ」

「ああ、ごめんごめん。これはモチーフの女の子はいるの?」

「ええ、とても可愛らしい子よ。これから二人で会う約束だったのだけれど、それはできないわね。時間をかけて丁寧に私に依存するように仕込んだのだけど」

「なんで?」

「貴女が私を殺すか、連行するからでしょう? 公安局から来たんだから」

「あー、ここに来たのは私の単独プレーだから別に執行しないよ。君みたいに可愛い子を殺すか、死ぬまで隔離施設送りするのは忍びない」

「じゃあ、無罪放免?」

「んー、今、ある試みがされてるんだよね。その被験者になるなら趣味をやりつつ、自由に暮らして良いよ」

「その試みっていうのは?」

「……簡単に言えば国家のために邪魔な奴らを殺すエージェント。勿論、運動担当頭脳担当があるから、王陵璃華子さんは頭脳タイプ。犯罪心理とか学んでメンタルトレースとかして貰おうかなって。今日会う女の子も誘って一緒に国のために働こうよ」

「選択肢はないわね。死ぬのも隔離施設もごめんだもの」

「よっし、決まり」

「あと、十分ほどで相談相手の子が来るけど、同席する?」

「あ、隠れて待ってる。多分二人のほうが良いでしょう」

「ええ、そうしてちょうだい。うまく公安局に入るように言えば良いのね?」

「うん、よろしく」


 夕陽が差し込む美術室。

 ノックと共に、噂の彼女はやってきた。


「失礼します」


 彼女は髑髏撫子を見つけると頬を赤らめて、うっとりした顔になった。


「来てくれたのね。聞いたわ、貴方のお父様のこと。お母様の再婚相手」

「気付いてて、くれたんですか」

「ええ、私はずっと吉賀さんを見ていたから」

「髑髏撫子先輩」


 吉賀、と呼ばれた少女は涙を瞳に貯める。


「……っ!」

「何があったのか話してくれる?」

「あの人は、私のことを、嫌らしい目つきで。はっきりと。家に帰る度に誰かが私の部屋に入った跡があるんです。こんなの耐えられない!」


 吉賀は涙を流して顔を覆う。


「お母様には相談できないものね」

「本当の父が残した借金は母だけでは到底返しきれなくて。あの男に頼らないと。でも先週の定期検診でも精神数値が濁ってて、このままじゃ、私は」

「吉賀さん。貴方は望む通りの人生を選べない」


 髑髏撫子は葦歌の頭を撫でると、顔をゆっくりと触れて、顎を持ち上げる。


「だけど、私なら一つの道を提示してあげることができる」


 髑髏撫子は葦歌を抱き締める。

 吉賀は恍惚とした表情を浮かべる。


「公安局から、一つのメッセージが届いたの。私と、私が選んだ人の二人を迎え入れたい、という内容の。そこに精神数値の色相や、これまでの問題や事情を全て解決してくれると書いてあったわ。代わりに公安局で仕事をすることになるけど、そこ代わりに自由が与えられる」

「自由……」

「吉賀さん。私は貴方を選びたい。家庭から、学校から、犯罪数値の変化の恐怖から開放してあげたい。そして自由を与えてあげたい。システムに支配されたこの世界で自分で自分の道を決める自由を。どうかしら?」

「撫子先輩は、私を選んでくれるんですか?」 「貴方だから、教えたの」

「やります。先輩と一緒に、公安局へ入ります」

「そう。ありがとう。真なる自由の未来が貴方を待っているわ」

世界を守る殺戮の救世主

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