午後、ロビーで待機していた華に、ひとりの小さな男の子が近づいてきた。
「お姉ちゃん、暇そうだね。なんかやって!」
突然の無邪気な声に、華は目を瞬かせた。
「え、えっと……じゃあ、マジックでもしようかな」
そう言ってポケットからハンカチを取り出し、手の中にぎゅっと握り込む。
「いーち、にーい、さーん……消えろっ!」
ぱっと手を開く――しかし、そこにはしっかりハンカチが残っていた。
「お姉ちゃん、下手くそ〜!」
「ごめん~! なんでか上手くいかないよぉ!」
男の子の笑い声に、ロビーがほんのり和んだ。
少し離れた場所からそれを見ていた律は、思わず口元を緩めていた。
――初めて、彼が華に向けて見せた“微笑み”だった。
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