私
の名前は月影美帆里。高校三年生だ。今日から受験勉強が始まるということで、昨日の夜はあまり眠れなかったのだが、それでも朝になれば目が覚めるもので、いつも通り学校へと向かっていた。
そうして学校に着き、自分の教室に入ろうとすると――。
「……ん?」
ふわりと何か甘い香りを感じた気がした。気のせいだろうかと思いながら、私は自分の席へと向かう。だがしかし、やはりどこか香ばしく感じる匂いが漂ってきていて、私は思わず足を止めて振り返った。教室の中を見回すと、クラスメイト達は皆一様に窓の外へと視線を投げかけている。私もつられてそちらを見てみれば、そこには一人の男子生徒がいた。
すらりと背の高い彼――伊織くんは、いつものように人好きのする笑顔を浮かべていて、片手を上げてこちらへ挨拶してくる。私もそれに応えて小さく手を振れば、彼は満足そうに笑みを深めた。
そのまま伊織くんの様子を見守っていれば、次第に落ち着きを取り戻し始めたのか、静かに眠りについていた。
それを見てホッとしていると、今度は突然部屋の扉が開かれて……そこに立っていたのはお姉ちゃんだった。
「あぁー! やっぱりここに居た!! もうっ、なんでわざわざこんなところに隠れてるわけ!? 探し回ったんだけど!!」
「ごめんね。ちょっとだけ隠れさせてもらってました。あと、勝手に入ってきちゃダメだよ?」
「えぇ〜、別に良いじゃんか。っていうかそれよりさっきの話なんだけど!」
そう言いながら詰め寄ってくるお姉ちゃん。
その勢いに押されながらも僕は話を続けることにした。
「うん。それでいいよ。そうしてごらん……」
「えーっと……なんの話?」
「だから、キミの夢の話だよ」
「あぁ夢ね!なるほど!」
「ボクはね、もうちょっとしたら消えるからさ」
「ふむふむ……って!?」
「ほら、やっぱり覚えてない」
「……あれ?ほんとうに誰だったっけ?」
「まぁ、いいんだけどさ。とりあえずがんばってみてよ」
「ん~?よくわからないけどぉ……」
「えへへぇ!あたしはねぇ!
『お友達』が欲しいんだよ!」
「だからぁ……キミのこと、『お友達』にするね?」
「大丈夫だよぉ!痛くないからぁ!」
「ふぅ……やっとできたよぉ!」
「これからよろしくねぇ♪」
「あっ!そうだぁ!名前つけてあげるぅ!」
「そういえば聞いてなかったよねぇ?」
「なんて呼べばいいのかなぁ?」
「あ!じゃあさっき教えてもらったからぁ……」
「キミの名前はぁ……『お兄ちゃん』で決定だねぇ!!」
「はあ!?なんでそうなんだよ!!俺はお前の兄貴じゃねえぞ!」
「えぇ~だってぇ…………」
「……おい、なんだよ?」
「お兄ちゃんの名前、わかんないもん!名前教えてよぉ」
「んなこと知るかああ!!!」
俺の名は【御堂正孝】(みつどうまさたか)。
年齢は15歳。高校1年生になる。
今は家族4人で海外旅行中。
「あぁ~……暇じゃのう……」
ワシの名は、山田太郎(仮)! 異世界からやってきた魔王さまの側近じゃ。
今、我々はホテルの部屋でのんびりと寛いでおるところよ。
しかし、平和すぎる時間は退屈なもの。
そこでワシは考えた。
そうだ! せっかくだから、勇者様ご一行の様子を観察してこよう!! そうと決まれば話は早い。
早速スマホを手に取り、ビデオ通話アプリを立ち上げる。