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「サーシャ、我慢しなくていいからね。今日はいっぱい愛しあおうね」
「う、うん……」
元の色に戻ってた顔がまた赤くなった。
照れなくていいんだよ、我慢しなくていいんだよ、もう自由なんだから。
「アリア、とりあえず帰ろう。そしてランニング、ね?」
「うん、そうだね」
外に出たのでサーシャの胸に横から抱きつく。
なぜか一瞬ビクッっとされたけど、優しく肩を抱いてくれた。
うん、守ってあげるから、ちゃんとくっついてね。
今のわたしが守れるのなんて周囲からの視線くらいだ。強くなったらちゃんと守ってあげるから、今はこれで許してね。
「ぐるるるるる……」
「アリア、下校の時も思ったけど、その声は……」
「ん? 威嚇の声だよ? 獣はこうやって周囲を威嚇するんだよね? わたしは小さくて迫力がないから、せめて声だけでもと思って」
「そっか……可愛いよ」
「え? 可愛いの? 怖くないの?」
「私にとってはすごく可愛いよ。周りの人は……怖いかもね」
「周りに効果があればいいよ、ぐるるるるる……」
サーシャが空いている片方の手で頭を撫でてくれる。
肩を抱かれて頭を撫でられる……密着度が増したように感じた。
流石サーシャだよ、わたしが思いつかない方法で密着してくれるなんて。これで周囲の威嚇に集中できる!
「ぐるるるるる……」
「アリア、もう家についたよ」
「ぐるるるるる……」
あ! こっちを見てヒソヒソ話をしてる! サーシャはわたしが守る!
「ぐるるるるる……」
くっ! 今度はコッチ!?
「ぐるるるるる……」
もう! また窓から見られてる! 隣の家なのに失礼だよ!
「ぐるるるるる……ん?」
隣の……家?
「ただいま」
「おかえりなさい、さっちゃん。こっちの馬鹿娘は動物園に贈呈しようかしら?」
「ぐるる……ん? お母さん?」
「残念だわ、人間に戻ったの? 賢くて優しい娘が出来たから、馬鹿娘は動物園に送ろうと思ったのに……」
「ひどい!!」
賢くて優しい娘ってサーシャのことだよね!?
確かに、サーシャの方が優秀で完璧な女の子だけど、実の娘を動物園送りってあんまりだよ! せめて家で飼ってよ!
「大丈夫だよ、アリア。動物園に送られても、私が引き取って一生飼ってあげるから」
「うん、サーシャに飼ってもらえるなら本望だよ……ペットとして一生を尽くすよ!」
「うん、一生可愛がってあげるからね」
「大好き! 愛してるよ!」
「うん、私も愛してるよ」
ご主人様にわたしの匂いをいっぱいつけよう。
猫とか犬みたいに、相手の身体にスリスリして自分の匂いをつけよう。
わたしはあなただけのものアピール!
スリスリスリスリスリスリ……。
「ちょ、アリア、ストップ! くすぐったい! あはははっ!」
スリスリスリスリスリスリ……。
「も、やめて、アリア、も、もう、もう……」
うん! もうすぐ全身にわたしの匂いがつけ終わるよ!
スリスリスリスリスリスリ……。
「……、……、……」
「わたしの匂いがつけ終わったよ! これでわたしは一生サーシャのペットだよ!」
「……、……、……」
「ん? どうしたの、サーシャ?」
わたしを抱え込んだまま座り込み、天井を見上げてポケーっとしてる……。
「天井になにかあるの……痛っ!!!」
わたしが天井を見上げると、顔面にスリッパがぶつかってきた。
これはまさか、スリッパ折檻!?
スリッパの先を見るとお母さんがいた……。
なんでお母さんがスリッパ折檻を習得してるの!? お姉ちゃんだけの特技だったはず!?
……ん? ちょっと待って。わたし、なんで叩かれたの? なにもしてないよね?
お母さんがスリッパ折檻を習得してるのは不思議だけど理解できる。たぶん、お姉ちゃんから伝授されたんだよね。でも、なんでそれでわたしを叩いたの? 全く理解できないよ? 元祖のお姉ちゃんでもここまで理不尽じゃないよ?
「初日から迷惑をかけてどうするの?」
「……誰かに迷惑をかけたの? ダメだよお母さ、痛っ!」
スリッパ折檻を使いこなしてる!
さすが親子だよ! でも理不尽だよ!?
「あ・ん・た・が、さっちゃんに迷惑をかけたって言ってるのよ」
「わたしがサーシャに迷惑をかけた?」
サーシャを見ると、まだ天井を見上げたままポケーっとしてる。
やっぱり、天井になにか……。
「痛っ!!!」
頭を叩かれるより顔面スリッパの方が何倍も痛い! 明らかにお姉ちゃんより理不尽だよ!
「うぅぅぅ~……」
「ほら、さっちゃんに謝りなさい」
「……うん」
お姉ちゃんと一緒だと思うことにする……逆らっちゃダメだ……。
「サーシャ、ゴメンなさい」
「……アリア……夢を叶えてくれて、ありがとう……天国……幸せ、だよ……」
天井を見上げたままだけど、お礼を言われたよ。
匂いをつけられるのがサーシャの夢の一つだったんなら、わたし、なにも悪くないよね? 本人が喜んでるのに、なんでお母さんが横から出てきてスリッパ折檻をしてくるの? 理不尽過ぎるよ? わたしに謝ってほしい。
「……お母さん、サーシャにお礼を言われたんだけど。わたしに理不尽なスリッパ折檻をしたことをあやまっ、痛っ!」
なんで!? 逆ギレ!? 悪いのはお母さんだよ!!
「さっちゃんをこんな状態にして悪くないわけないでしょ。罰として、今日から3日間のお風呂掃除はあんたがやりなさい」
「はぁ!? 痛っ!!」
「返事は、はい、よ」
「……はい」
完全にお姉ちゃんが憑依してる。行動も言動もお姉ちゃんだ。違いは、投げられるかお風呂掃除かだけだ。
これで大切に想われてるの、わたし?
サーシャの勘違いだよ。どう考えても、悪魔で地獄で戦場だよ……。
「ほら、さっちゃんを部屋に運んで介抱してあげなさい」
「……うん」「お風呂掃除とノルマもサボらずにやるのよ」
「ぐっ……うん……」
ホントに言動がお姉ちゃんだよ。お姉ちゃんとお母さんが合体したのが目の前の悪魔だと思う。
なんとかしないと、わたしとサーシャの幸せな結婚生活を邪魔されるかもしれない。理想は倒すことだけど無理だよね……。追い出して、お義母さんに来てもらうのが一番現実的だ。その為にはサーシャの協力が……。
「ねえ、サーシャ」
「……」
まだ天井を見てポケーっとしてる……。
嬉しさが限界を超えると普通はこうなるんだね。玄関で座ってるのもあれだし、とりあえず部屋に運んであげよう。
「サーシャ、掴まって。部屋に行こう」
「うん……部屋……行こう……」
嬉しすぎて頭の回転が追いついてないみたい。
うーん……お母さんの言った通り、ちょっとやり過ぎて迷惑をかけてる気がしてきた。
今度からは、ちゃんと断ってからやってあげよう。
「ほら、座って」
わたしのベットに座らせてあげる。
……あ、サーシャの部屋もあったんだった。あっちに運んであげて方がよかったかな?
「ゴメン、わたしの部屋に連れてきちゃった。サーシャの部屋で休む?」
「……アリア……」
「うん? なに?」
ポケーっとした表情から明るい表情になってくる。
わたしだけに見せてくれる、イタズラっ子で甘えんぼの顔。
これって、なにかされる前兆のような気がしてきた……。
「お返し!」
「きゃ!?」
やっぱりそうだった! イタズラっ子パワー全開だ!
サーシャにベットに押し倒されて、わたしがやったスリスリをそのままやってくる。
「あはははは! ちょ! サーシャ! ストッープ!」
「やめないよ。私がやめてって言ったのに、ずっとやってきたんだから!」
「ひ! ひ! ホントにっやめて! あはは、く、くすぐったすぎるよ!」
「そーれ、スリスリスリスリ……」
サーシャ、口調まで変わってるよ! これがサーシャの本性!?
笑顔全開で全身をスリスリしてくる。匂いをつけるというより、染み込ませるって感じの強引さだ。抱きしめる力が強すぎて逃げられない。
「も、も、もう、限界。降参、や、やめて……」
もう抵抗する力もない。スリスリ恐るべし……。
これはかなりきつい。いきなりやられたら確かに迷惑だ。悔しいけど、お母さんの言う通りだったよ。なんとか止めてくれたけど、もう、動く力もない……。
「ひ、ひ、ひ……きついよー……」
「はぁー、楽しかった。仕返しもできて、夢も叶って、一石二鳥だったよ」
……サーシャ、すごく幸せそうな顔をしてる……。
ずっとこうして遊びたかったんだね。
いつもの冷静で頼れるサーシャも好きだけど、明るくてイタズラ好きな甘えんぼのサーシャも大好き。楽しくて幸せだよ。
わたしだけに見せてくれる顔……わたしだけのサーシャって感じがしてすごく嬉しい。
「はぁ、はぁ、はぁ……愛してるよ、サーシャ」
「うん、私も愛してるよ、アリア」
ぐったりしたわたしに、優しくスリスリしてくる。
あー、これはいい感じだよ……幸せ……ずっとこうしていたい。
「……このまま、寝ちゃおうか?」
「私もそうしたいけど、ノルマをやらないとお姉さんに投げられるよ」
「はっ、そうだった! ノルマ!」
夢のような気分が一気に吹き飛んだ。
お姉ちゃんの仁王立ちと、地獄投げのイメージが頭に浮かんで一気にやる気が出た。
「すぐに着替えるよ。サーシャの着替えは……」
「こっちのタンスにもあるから大丈夫だよ」
「そうなんだ……」
いつも同じような服しか着てないと思ってたら、この為だったんだね。
わたしみたいに色々な種類の服をたくさん買うんじゃなくて、同じ服を2着買って自宅とこっち、両方に置いていたんだ。いつでもスムーズに、この部屋に移れるように。
……あれ? じゃあ……。
「……お泊り会の時とか、着替えを取りに行く必要がなかったんじゃないの?」
「あの部屋の存在を絶対にバレたくなかったからね。アリアと結婚できるかわからなかったし、一緒に住めるかどうかもわからなかった。それに、あの部屋の存在を知ったアリアがどういう感情を抱くか怖かったから……」
「そっか……」
愛されてるのかわからないから秘密をしられるのが怖い。
……たしかに、クラスメイトの友達が向かいの部屋に住むってなったら間違いなく、は? なんで? 頭おかしいの? ってなるね。
お互いに愛してるからこそ、同じ家に住めるんだから。
わたしの気持ちがハッキリわからないのに同居の準備をする……サーシャの意思の強さがよくわかる。お泊り会はよくしてたけど、どんな気持ちであの部屋のことを見てたのかな……。
この家に住みたい、でもわたしの気持ちはわからない、だけど夢の為に準備だけはしっかりする……。6年間か……。
「もうそのこといいよ、着替えよう」
「あ、うん……」
「着替えさせてあげるね」
「え?」
「私の夢の一つ、アリアのお世話をするっていう夢……いいかな?」
「うん」
着替えさせてもらってるとホントに夫婦みたいに感じる。
……みたい、じゃないか。夫婦なんだよね、わたし達……。
「……サーシャの着替えもあるのにゴメンね」
「私の着替えは簡単だから気にしないで。一瞬だよ」
「え? わたしよりも時間がかかってたよね?」
昨日、この部屋でお互いに着替えてた時、サーシャはわたしより時間がかかってた。
獣人さんの服って大変だなー、って思ってたけど、違うの?
「……今だから言うけど、自分の着替えをせずに、アリアの着替えが終わるのをずっと見てたんだ」
なにそれ、ちょっと恥ずかしい。
今までに何度も一緒にお風呂に入ってきたし、身体を拭いてもらったりしてたけど、自分の着替えを最初から最後までずっと見られてたとか……ムズムズするよ。
……んーーー、これって、結婚した直後の愛をしる前の感覚? わたしのしらない、愛以外の感情がある?
「着替えを見ながら、アリアの着替えは私がやってあげたいってずっと思ってた。ずっとこうしたかった……アリアのお世話は全部、私がしてあげたかった……。今日からは、着替えもお風呂もトイレも全部手伝ってあげるからね」
「……嬉しいけど、トイレはちょっと……」
流石に、ね……恥ずかしすぎる。
6年前ならわたしも4歳だから気にしなかったかもしれないけど、10歳でトイレのお世話になるのはどうかと思う……。
「そっか……もう4年生、10歳だもんね、恥ずかしいよね。……トイレのお世話もしてあげたかった……。あの時に断らなければよかった……。二度と叶わない夢……」
あの時って、6年前のことを言ってるの?
サーシャが6年前からうちの家族と仲が良くて頻繁に出入りしてたとしたら、お母さんやお姉ちゃんがわたしのお世話をしてたのをずっと見てたことになる。
その時からわたしを愛してくれてたなら、きっと自分がしてみたかったに違いない。でも、気持ちを押さえて我慢してた……。ずっと、側でお母さん達がやってるのを見ながら我慢する……。
着替え始めた時の嬉しそうな表情がちょっと暗くなってる……そんな顔、させたくないよ……。
「……トイレ、一回だけならお世話してもらおうかな……」
「ホントに!?」
「うん、サーシャの夢は全部叶えてあげたいから。でも、ホントに1回だけだよ! すごく恥ずかしいから!」
「ありがとう! アリア!」
こんなに喜んでくれるなら嬉しいよ。
でも、サーシャの夢ってどれだけいっぱいあるのかな?
トイレのお世話並みに恥ずかしいことがないことを祈ろう……。
「じゃあ、私も着替えてくるね」
「手伝おうか? 上は無理でも、下は手伝えるよ」
「……してほしいけど、今日は遠慮しとくよ。ありがとう、アリア」
「うん、なら待ってるよ」
サーシャが出て行って30秒くらいで戻ってきた。
……ホントに一瞬だね。
ホントに、わたしの着替えを一部始終見てたんだね……ムズムズするよ……。
「じゃあ、いこうか」
「うん」
ランニング5kmはきついけど、今回もなんとか終わった。
サーシャの先導と、「あの公園」じゃない普通の公園で休憩したので問題なしだ。
「お疲れ様。続ける?」
「はぁ、はぁ、はぁ、うん……。いっぺんに、終わらせたい……」
「うん、じゃあ続けようか」
部屋に戻って一度全身の汗を拭いてもらう。
すごく幸せだよ……。サーシャもすごく幸せそうに拭いてくれてる。嬉しい……。
お泊り会では過保護に感じた。それって、幽霊の後遺症のせいで夢が爆発したせいだからなんだと今なら思う。
殺す発言は怒りの感情が爆発、お泊り会のスキンシップは押さえて隠していたサーシャの気持ち、夢が爆発した……。
ホントは恋人や夫婦になったらしたかったこと……それを友達の状態でやってしまったから、わたしは過保護に感じたんだ。
でも、今は安心感や幸せを感じる。お互いに愛していて結婚したから。
幽霊のせいでよくわからないまま終わってしまったサーシャの夢……全部やり直そうね。今日がホント意味での夢が叶う日だよ。
サーシャの夢。恋人になったらしたいこと、夫婦になったらしたいこと……ちゃんと、お互いに愛しあった状態でしっかりと叶えてあげる。
「……愛してるよ、サーシャ」
「私も愛してる。ノルマ、頑張ろうね」
「うん、頑張る」