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🗓️
深澤から、LINEが届いた。
[空いてる?]
[19時から空く]
[行くわ]
[……また暇なの?]
[うるせーよ]
阿部の部屋のドアが開いた瞬間、
深澤の鼻に“あの匂い”がふわっと入ってくる。
無香料の柔軟剤と、落ち着いたルームフレグランス。
その奥に、ごく微かに阿部自身の匂い。
(……あ、なんか安心すんな)
深澤はそう思った自分に、内心鼻で笑う。
慣れって怖い。
「ただいま〜」
「うちはお前んちじゃないけど」
阿部は相変わらず、冷たいような優しいような声で迎え入れる。
⸻
🛋️
「今月、やたら長かったわ」
ビールを飲みながら、深澤がつぶやく。
「……なに、俺に会いたかった?」
「いやいや、別に。仕事バッタバタだったから。あれだよ、現実逃避的なやつ?」
阿部は笑いもせず、ただ一言。
「逃避するなら、俺は使いやすいってことか」
深澤は目を細めた。
「……なんか言い方、冷たくね?」
「ちょうどいいだろ?」
その言い方が、深澤の胸に少し引っかかった。
⸻
🌘
阿部の手が、シャツの裾からふっかの腰に沿って滑り込む。
何度か交わしてきた手付きは、もうお互いに馴染んでいた。
「……ちょっと、今日は……」
「ん?」
深澤は、ふと口をつぐむ。
(なんか、今日は……ちょっと、やさしくしてほしい)
そう言うのは、違う気がして。
でも、そうじゃないふりをするのも、面倒だった。
「……や、なんでもない。いつも通りで」
阿部は何も言わず、ただ静かに頷いて
深澤の首筋にキスを落とす。
⸻
🌒
「ふっか、今日……すぐ反応するね」
「うっせ、黙ってろ」
深澤は顔を背けたけど、
心のどこかでわかっていた。
(やばいな……“欲しい”と思ってるの、俺の方じゃん)
阿部の体温、声、匂い。
すべてが“もうわかってる”。
まるで恋人のように、馴染んでることに気づきかけていた。
⸻
🌕
「シャワー、先使っていいよ」
阿部の言葉に、深澤は軽く手を振って答える。
「……あとででいい」
本当は、しばらく動きたくなかった。
阿部の隣のこの空気の中に、もう少しだけいたかった。
でも、それを口にするほど、甘ったれてはいない。
「来月、また暇だったら」
そう言った深澤の声に、阿部は目を閉じたまま静かに返す。
「うん。暇だったら」
それ以上、どちらも言わなかった。