しばらくは、ただぼーっと時が過ぎるのを感じていただけでした。
食欲も湧いて来ず、水もいつ飲んだのか、忘れそうになるほどの時を過ごした気がします。
それからふと、何を考えたのか私はふらりと外に出ました。
オリバーと過ごした泉を、急に見たいと思ったからです。
泉は、オリバーに愛の告白を受けた日と同じ、美しい姿をしておりました。
「オリバー……会いたい……」
私がぽつりと弱音を漏らしたその時でした。
獰猛な獣が突如、私の目の前に現れたのです。
私が何かしらの次の声を発する間も無く、獣はその爪で私の体を引き裂きました。
痛みは感じませんでしたが、血飛沫が宙に浮いているのがわかりました。
私の体は、花畑の上へと落ちていき、花びらを赤く濡らしました。
きっと、その獣は私を食事と考えたのでしょう。
森の奥から、次々と同じような姿の獣が現れ、私の周りを囲みました。
(ああ。私はもう死んでしまうのね)
痛くはありません。
未練はありますが後悔はありません。
そのまま私は、出来事を受け入れるための目を閉じました。
体が、バラバラに千切られる感覚だけは、しました。
しかし、はっと気がつくと。
太陽は登っていました。
獣達の姿は、消えていました。
獣が切り裂いた私の体は、いつの間にか元通りに戻っていました。
傷1つついておりませんでした。
「どうして……」
私は、老いなくなりました。
私は、バラバラに千切られても、元に戻っていました。
その時、1つの仮説が生まれました。
私は……死を迎えられない体になったのではないか……と。
私は自分の意思でも、他のものの介入でも、オリバーの側に行くという手法を奪われてしまったのだと、悟りました。
それから。
何年という時が経ったのか分かりません。
ここには、時を教えてくれるものが太陽と月の動きだけですから。
今日という日が、いつなのか、私には知る術がありません。
もう、何度そんな夜を繰り返したのでしょう。
思い返すのも難しいくらい長い時を経てからのこと。
突然、私の隠れ家に訪れる人間が現れました。
初めてのことでしたので、私は警戒しました。
警戒して、それからその人の顔を見て腰を抜かしそうになりました。
現れたのは、オリバーに瓜二つの男性だったからです。
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