『貴方想い、散りゆく恋』〜身分違いの恋だとしても〜
第肆話 2人きりで
カキカキ……。
『書けた……。ルカスの伝書鳩に届けてもらおう。』
私は部屋を出てルカスの元へ向かう。
『これをフィンレイ様……グロバナー家に届ければいいのですね?かしこまりました。』
『うん!ありがとう!』
主様はニコニコしながら私の前を去る。
『ふぅ……。』
(好きな人が笑顔なのは嬉しいことですが……でも――。その笑顔の理由が私じゃないのは――。辛いです。)
私は伝書鳩の足に手紙を巻き付けた。
『お願いね。』
『クルッポ〜』
※鳩の鳴き声ってなんだろう。ってなった結果これが選ばれた。
グロバナー家本邸――
『フィンレイ様。デビルズパレスからお手紙です。』
『私に?誰だ?』
『悪魔執事の主からです。』
『!!』
私は憲兵から手紙を受け取る。
『悪魔執事の主が私に手紙……?』
『フィンレイ様へ
ご多忙のところ申し訳ございません。僭越ながら…明日お時間を作っては頂けないでしょうか?私と中央の大地でお出掛け欲しいんです。』
『……。』
私は口を抑えて悶絶する。
(好いている人からの手紙というのは……こんなに嬉しいものなんだな。)
『憲兵。』
『はっ。』
カキカキ……!スラスラ……!
『これを悪魔執事の主……。雪華に。』
『!かしこまりました。』
『それと、明日私はグロバナー家を開ける。留守を頼む。』
『え?』
『私は明日…大事な人とデートだ。』
『!』
(フィンレイ様があの悪魔執事の主を好きになるなんて…天変地異だ…。でも…それが主君の望みなら我々は尊重すべきだ。)
『かしこまりました。』
デビルズパレス エントランス――
『!フィンレイ様からだ。』
『雪華へ
お手紙感謝する。明日を楽しみにしているよ。』
『っ〜〜!』
私は手紙を手に舞い上がる。
『何の服着てこうかな…っ!』
私は階段を駆け上がる。
バタバタ…ッ!
『髪型にメイク、洋服気合い入れなきゃ…!』
『…嬉しそうだな。』
『うん…そうだね。妬けちゃうなぁ…。』
『ふん…。』
『主様はフィンレイ様が好きなんだ…俺達の出る幕は無い…かな。』
『…主が惚れ込んでしまう前に掻っ攫えば良かったな。』
我だけ見ていればいいものを。我から離れることなど許さない。
俺がずっと甘やかしていたかったんだけど…。仕方ないよね。
自室――
『よし、明日の服はこれ!メイクと髪はアモンに頼もう。え、もうこんな時間!?寝ないとクマできちゃう!』
私は急いでベットに入り込む。
次の日――。
『アモン、髪ありがとうね。』
『どういたしましてっす!』
『主様、フィンレイ様とはどこで待ち合わせを?』
『中央の大地の予約したレストラン!』
『ではそこまで…。』
『大丈夫!デートっていうのは待ち合わせも楽しみの時間だから!1人で平気だよ。』
『そう、ですか。かしこまりました。』
『うん、行ってきます!』
主様は嬉しそうに屋敷を出ていく。
『……止めなくてよかったのかい?ベリアン。』
『……。主様の恋を応援するのも我々執事の役目です。』
『健気だね…君も。私も…。』
『フィンレイ様もういるかな…。あ!』
『……。』
『か、かっこいい…。』
思わず声に出てしまった。
『お、お待たせしました…。フィンレイ様。』
『あぁ。……。』
私は雪華をじっと見つめる。
『フィンレイ様?何か変ですか?』
『いや……。』
(黒いドレスも大人っぽくてそそったが…
可愛らしい服も似合うな…。)
『その服もよく似合っているよ。』
『あ、ありがとうございます…///フィンレイ様もお似合いです。』
『あぁ。ありがとう。ところで待ち合わせなんてしなくても迎えに行ったんだが…。』
『デートっていうのは待ち合わせから始まるんですよ!』
『…デート?』
『…はっ!!』
(何しれっとデートって言ってるの!失礼にも程がある!)
『あ、いや、その…っ!』
『ふふっ。雪華は面白いな。分かった。今日は君の言うデートに付き合うよ。』
フィンレイ様は私に手を差し出す。
その手をぎゅっと握る。
『行こう。』
『はい。』
2人は並んで歩き出す。
一方その頃――
『フィンレイ様大丈夫でしょうか…。』
『女性とデートなんて初めてでしょうし…。』
グロバナー家の憲兵。変装してデートを尾行していた。
『フィンレイ様との距離近すぎますよ!手も繋いでるし…っ!』
『ロノ落ち着け。バレるぞ。』
『2人とも静かにして…っ!』
こちらも主様が心配でというより尾行したくて来た執事。※買い物は口実である。
ロノとバスティンは買い物(口実)
フェネスは本屋さんに用事(口実)
『『距離が近すぎる…っ。』』
『『え?』』
『『悪魔執事!!\グロバナー家の憲兵!?』』
『ん?』
『『やばい!』』
2人が振り返って急いで身を隠す。
『今知ってる声が聞こえたんだが…。』
『私もです。気のせいですかね?』
『なんでお前らがいるんだ!』
『俺達は主様が心配で…!』
『我々はあくまでフィンレイ様のデートを成功させるためにだな…。』
『要は俺たちと同じわけだな。』
『一緒に見守りましょう。』
『あ、あぁ。』
こうしてグロバナー家憲兵と悪魔執事による尾行が始まった。
レストランにて――。
『ここはステーキが美味しいんですよ!』
『それは楽しみだな。』
『料理なら俺の方が…っ!!』
『ロノ、出るな出るな…っ!』
壁から出ようとするロノを引っ張る。
『フィンレイ様は貴族だからな。一流の食材を口にして当然だ。』
『次はどこに行くんだ?』
『次はですね…。』
本屋さんにて――
『ふむ…興味深い本があるな。これを一つ買おう。』
『フィンレイ様!本なら我々が取り寄せます!!』
『お前らうるせぇよ!』
『なんだと!』
『2人ともうるさいです…っ。』
『あ、この本面白そう。』
『主様!?本なら俺がオススメしたいです…この本は――。』
『フェネスさん落ち着け!』
小物屋にて――
『この猫の置物かわいい……。』
『ほぉ。木で作られてるみたいだな。』
『大きいですね…。』
『そんな簡単なものでいいなら俺が作るぞ!主様!』
『バスティンっ!静かにしろって!』
ギャーギャーギャーギャー……!!
夕方にて――。
『ロノ、そろそろ帰らないか?夜ご飯を作らないといけないぞ。』
『うぐ…そうだな。』
『我々も仕事がある。帰らないとな。』
『あぁ。ではここまでだな。』
『失礼します。』
それぞれ帰路に帰る――。
『……。やっと2人きりでデートできるな。』
『え…っ?』
『ずっとつけられていたみたいだな。』
『え?そうなんですか?気付かなかった…。』
『…雪華。』
『は、はい……。』
『今夜はもう少し付き合ってくれ。』
『……!』
『私がよく通っている高級レストランを予約したんだ。ディナーはそこで食べよう。』
『は、はい……。』
ギュッ
強く手を握った。
(どうしよう…心臓がドキドキして…はち切れそうだ…っ。)
2人は鈍感な程に両片想い――。想いを伝えたいのに。伝えてはいけないもどかしい――
カンっ
『『乾杯。』』
ゴクッ……。
『美味しい…。』
『ふふ、良かった。君の為に用意したからね。』
『私の……?』
『あぁ。この前のパーティのお詫びだ。 』
『そんな、お詫びだなんて…。私はフィンレイ様のためにやったことですから…お気になさらず。』
『ふっ…優しいな。雪華は。』
ドクンっ!
『っ……。』
その笑顔が好きになった。優しいその笑顔が……。
『さぁ、食事を頂こうか。』
『は、はい。』
(凄く幸せだな…恋人みたいな…。なんて、思い上がっちゃダメ。私らこれからもっとアタックして振り向いてもらうんだ。)
数時間後――。
デビルズパレスにて――
『主様はフィンレイ様と夜ご飯もお食べになったのでしょうか…。』
『帰ってこないってことはそういうことですね…。』
中央の大地 高級レストラン前――
『…少し飲みすぎてしまったようだ。』
『大丈夫ですか?フィンレイ様。』
『あぁ……。』
私はフィンレイ様を支える。
『君と飲んでいたからかな。とても美味しくて止まらなかった。』
『っ…。』
頬を少し赤く染めたフィンレイ様が私の目を真っ直ぐ見つめた。
『か、からかわないでくださいよ…。』
『からかってなんていないよ。私は…。君のことが好きなんだから。』
『え…っ?それって、どういう意――。』
――――――――――――――――――――
その先の言葉を言う前に――唇を塞がれてしまった。
私は、拒絶しなかった。そのまま身を委ねて唇を重ねた――。
次回予告
酔っていたとはいえキスをされてしまった私。2人はギクシャクし始めて――?
『初めて…キスされた…っ。』
『責任は取る。男としても…グロバナー家当主として。』
次回
第伍話 初めての…