ルシファーの冷徹な声が響き渡る。
「お前たちは知らないのだ。この世界がいかに法律によって成り立っているかを。」
彼の足元に広がる地面が再び文字を描き出す。
「公共安全条例第35条:戦闘行為を禁止する」
途端に、タクトとミカエルの体が縛られたかのように動けなくなる。
「またこれか……!」
ミカエルが歯ぎしりしながら力を込めるが、何の効果もない。
「秩序に逆らう者には罰を与える。それが私の役目だ。」
ルシファーは冷ややかに彼らを見下ろした。
タクトは苛立ちを隠せず、叫んだ。
「お前が言う秩序ってのは結局、力による支配じゃないか!」
ルシファーはタクトを一瞥し、言葉を紡ぐ。
「支配ではない、管理だ。人々は法律を守ることで文明を築き、平和を維持する。」
「その法律をお前が勝手に作ってる時点で、平和でもなんでもないだろ!」
タクトの反論に、一瞬だけルシファーの瞳に影が差した。
「勝手に? 笑わせるな。法律とは皆の合意によって生まれる。私がしているのは、それを運用しているだけだ。」
「ふざけるな、ルシファー!」
ミカエルが叫び声とともに力を振り絞る。
「お前がやっているのは独裁だ! 秩序という名の暴力で、自由を奪っているだけだ!」
ルシファーは冷静に答える。
「自由? 自由とは無秩序を許すことではない。真の自由は、秩序の中でしか成り立たない。」
「その秩序が間違っていたらどうする!」
ミカエルの怒りにルシファーは目を閉じ、一瞬の沈黙を挟む。
「だからこそ、法律が存在するのだ。間違いを正し、新たな秩序を築くために。」
「待てよ……」
タクトはふと何かに気づいたように顔を上げた。
「お前の力、『法律』に基づいてるんだよな?」
「その通りだ。」
ルシファーは淡々と答える。
「ってことは、お前が定めた法律でも、お前自身が縛られるんじゃないのか?」
ルシファーの眉がわずかに動いた。
「ほう、それを知ってどうする?」
「簡単さ。お前のルールに従って、お前自身を倒す方法を見つけるだけだ。」
タクトの目に不敵な光が宿る。
ルシファーは微笑を浮かべた。
「面白い。ならば試してみろ。だが、その前に……」
彼は手を広げ、再び空間に文字が浮かび上がる。
「戦時特別法第88条:敵対者の知性を制限する」
タクトの頭に鋭い痛みが走り、思考が鈍る。
「ぐっ……何だ、これ……!」
膝をつくタクトに、ルシファーは静かに告げる。
「お前が私の力に挑むならば、それ相応の覚悟を持つことだ。」
タクトは苦しみながらも立ち上がる。
「ふざけるな……俺は負けるわけにはいかないんだ!」
そして、手をかざし、自らの異能「警告」を発動する。
「注意書き:この場における全ての法律は3秒間だけ無効化される」
その瞬間、ルシファーの術式が一時的に解かれる。
「何っ!?」
ルシファーが目を見開いた。
「よし……これが俺のチャンスだ!」
タクトは残された力を振り絞り、ルシファーに向かって突進する――!