テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#秘密
はおと/因幡てゐを愛す者
109
Kenri
1,074
柑橘系の人
5
会議室を出た瞬間、ユウは大きく息を吐いた。
「はぁ〜…まじ疲れた」
「おつかれ」
すぐ横から声が飛んできた
「うわっびっくりした…ってお前かよ」
壁にもたれるように立っていたヒナが、軽く手を振る。
「さっきのアホみたいに大きい声は何よ」
「…聞いてたのかよ」
「聞きたくなくても聞こえるわよ」
呆れ顔のヒナが続ける
「あんたねぇ、会議中よ。か・い・ぎ・ちゅ・う」
「勝手に口から出たもんはしょうがねぇだろ…」
口を尖らせてユウは反論する。
まったく、とヒナは小さくため息をつき2人は並んで歩き出した。
数歩進んだところで、ヒナの足がわずかに遅れる。
ほんの一瞬、ヒナの表情が歪んだ。
ユウはそれに気づき、わずかに視線を向ける。
だが、何も言わない。
何事もなかったかのように、前を向いたまま歩き続ける。
ヒナもまた、すぐに歩調を戻した。
「ほら、コレ頼まれてたやつ」
と言ってヒナがユウに何かを手渡す。
「おー。サンキュ」
ヒナが差し出したのは、一つの小さなケースだった。
「感染抑制剤、まだ試作だから…でも進行は多少遅らせられるはずよ」
ヒナが少し視線を下に落として話す。
ユウはカラカラとケースを鳴らし片目で中身を覗く。
「ってか″はず″ってなんだよ、″はず″って」
「仕方ないでしょ、データが全然足りてないんだから」
いらないなら返して、とヒナがムスッとした顔でユウに向けて手を伸ばす。
「すまんすまん、ありがたくちょーだいいたしますよっと」
そう言ってユウはケースをズボンのポケットにしまった。
「…正直効くかどうかはわからないけど、ないよりマシでしょ」
先程まで強気だったヒナの口調がだんだんと弱くなる。
そのとき――
サイレンの音が施設内に響き渡った。
『緊急事態発生!第二区域にて大規模感染の発生を確認!戦闘員は直ちに現場へ急行せよ!繰り返します――』
一瞬でユウの目の色が変わる。
「わり、俺行くわ。これもありがとな 」
片手を軽く上げると、振り返ることなく走り出した。
遠ざかっていく足音を、ヒナはただ見送る。
やがてその姿が見えなくなった頃、ヒナは小さく息を吐いた。
「…抑制剤。使わなくて済めばいいけど…」
――数分後。
第二区域。
通路に足を踏み入れた瞬間、ユウは顔をしかめた。
「…なんだ、この臭い」
鉄と、腐敗が混じったような異臭が充満している。
壁は抉れ、床には黒ずんだ血の跡が広がっていた。
その中心に――
「…遅い」
低い声が前方から聞こえる。
視線を上げた先には、すでに現場に立つジンの姿があった。
その足元には、動かなくなった感染体が転がっている。
「ユウ、そのまま動くな」
ジンはユウの奥に視線を向ける。
ぐちゃり、と嫌な音が響く。
暗がりの奥の方で″それ″がぬるりと動いた。
人の形をしている。
だが――その輪郭は、どこか歪んでいた。
ところどころ皮膚を突き破るようにして、虫の脚や触覚、羽が生えている。
次の瞬間。
それは地面を抉る勢いでコチラに突進してきた。
「――来るぞ」
その一言で、空気が一変する。
ユウは反射的に武器を構えた。
コメント
1件
読み終えました!第2話、一気に緊張感が増しましたね。会議室の軽妙なやり取りから一転、第二区域の異臭と歪な感染体――世界観のディテールがしっかり描かれていて、没入感が半端なかったです。特にヒナが「効くかはわからない」と弱気になる場面や、ユウが彼女の足の遅れに気づいても何も言わないところが、二人の関係性の機微を感じさせてグッときました。次が気になります!