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유리
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「筆談用のノート、か……」
平次と別れた帰り道、快斗は一人で夜道を歩きながら、くつくつと喉の奥で笑い声を漏らしていた。怪盗キッドにこれ以上会話を盗聴されないために、学校では黒羽快斗と「筆談」で会話する。あまりにも斜め上で、あまりにも純粋で、そしてあまりにも可愛いその対抗策を思いついて、今頃必死に文房具屋でノートを選んでいる名探偵。
(愛おしすぎて、本当に頭おかしくなりそう……)
快斗はスウェットのポケットの中でスマートフォンを握りしめた。正体を明かしてすべてを終わらせるのは簡単だ。平次の言う通り、「俺がキッドだよ」と言えば、新一は今すぐにでも自分の腕の中に降伏してくるだろう。
だけど、探偵と怪盗というこの危うい境界線の上で、新一が自分(キッド)を想って涙を浮かべ、自分(快斗)を頼って顔を真っ赤にしているこの瞬間が、快斗にとっては狂おしいほどに愛おしかった。
(もうちょっとだけ、この贅沢な特等席を楽しませてよ、新一)
大怪盗は静かに微笑むと、夜の工藤邸の方向をちらりと見上げ、自分の家へと足早に帰路を急いだ。そして、翌日の朝。江古田高校2年B組の教室。
「…………黒羽」
新一は登校するなり、いつになく真剣な、まるで重大な事件の捜査会議でも始めるかのような張り詰めた顔で、快斗の席の前に立った。その手には、昨日買ったばかりの、まだ折り目一つついていない真っ新な一冊のノートが握られている。
「ん? なんだよ工藤、朝からそのノート持って。ついに探偵小説でも書き始めたか?」
快斗がいつものひょうきんなポーカーフェイスでトランプを弄びながら尋ねると、新一は無言のまま、そのノートを快斗の机の上にバサッと置いた。そして、胸のポケットからシャープペンシルを取り出すと、カチカチと音を立てて芯を出し、ノートの1ページ目にさらさらと文字を書き始めた。
カチ、カチ、カチ……。
静かな教室に、新一が文字を綴る音だけが響く。新一は書き終えると、そのノートをくるりと快斗の方へ向け、指先でトントンと叩いた。そこには、少し尖った新一の綺麗な文字で、こう書かれていた。
『いいか、黒羽。これから学校では、俺とお前は一切口を利かない。全部このノートを使った「筆談」で会話する。あいつ(キッド)のハッキングが本物なら、俺たちの声やスマホの電波を拾ってる可能性が高い。だが、紙に書いた文字なら、さすがのキッドも盗聴できねぇはずだ。お前も協力しろ。いいな?』
新一はフンスと鼻息を荒くしながら、どうだと言わんばかりのドヤ顔で快斗を見つめてきた。耳の根元がまだほんのり赤いのは、キッドへの意識が抜けていない証拠だ。
(ぶっ……はははははは!!! ホントにやりやがった!!!)
快斗は笑いを噛み殺すために、頬の筋肉が千切れるかと思うほど必死にポーカーフェイスを維持した。目の前で大真面目に「キッド対策」を講じている新一が可愛すぎて、今すぐ机を跳ね除けて抱きしめてしまいたくなる衝動を、必死に抑えつける。快斗は新一の手からシャーペンをひったくるように奪うと、その文字のすぐ下に、さらさらと返信を書き込んだ。
『了解、名探偵様(笑)。でもさ、これだと授業中の内緒話みたいで、なんかちょっとドキドキするね?』
書き終えてノートを新一に突き返す。それ読んだ新一は、一瞬で顔をボォッ!と真っ赤に染め上げ、快斗をギロリと睨みつけた。そして、ものすごい筆圧で次の行に殴り書きをする。
『からかうなバカ!! 俺は真面目にキッドからお前を守るためにやってんだよ!!』
(守るため、か……)
紙の上で躍る新一の文字を見つめながら、快斗の胸の奥に、じわりと熱い独占欲が広がっていく。あいつ(キッド)から黒羽(俺)を守るために、必死にノートに文字を書いている新一。ハッキング対策のはずの筆談ノートが、結果的に二人だけの「秘密の交換日記」のようになってしまっていることに、このポンコツ探偵はまだ気づいていない。快斗はふっと妖しく目を細めると、新一の目を真っ直ぐに見つめながら、ノートの次の行に、これ以上ないほど甘く、意地悪な一言を書き添えた。
『俺を守るため? 嬉しいな。じゃあさ、キッドにバレないように、この紙の上で、俺がお前のこといーっぱい口説いてドキドキさせても、文句言うなよ?』
「……っっっ!!!」
ノートを読んだ新一は、声にならない悲鳴を上げてガタッと椅子を揺らした。顔だけでなく、首筋まで一瞬で真っ赤に変染まっていく。新一はシャーペンを握り直そうとしたが、指先が激しく震えて、うまく文字が書けない。そんな新一の様子を特等席で眺めながら、快斗はモノクルのない素顔のままで、大怪盗としての完全勝利の笑みを浮かべるのだった。
コメント
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うわ、めっちゃズルい戦法……!w 筆談ノートでキッド対策って名探偵らしい真面目さが可愛すぎるし、それに乗っかって口説き始める快斗の余裕がエグいw「秘密の交換日記」になるって新一が気づいてないの、もう完全に快斗の掌の上やん……続き気になるわ🔥