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阿炎快空
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阿炎快空
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うわっ……第12話、めちゃくちゃ重かった……。楓の恐怖がひしひしと伝わってきて読んでてこっちまで息が詰まる場面が続いた。特にカッターの描写とか「子ども産めなくなる」って脅し、読んでるだけでゾッとしたわ。でも冬香と由衣の「絶対守る」ってのが救いすぎる。楓が立ち直れるか気になるし、この先あのクズ綾乃にどう立ち向かうのか、続きがめっちゃ気になる🔥
刃物で脅される、なんて。
ドラマや漫画なんかでは、時々見かける光景だった。そういうものを見ても楓が思うのは精々、「野蛮な人がいるんだなあ」くらい。恐怖心を覚えるようなことはまったくなかった。何故なら、それは画面の向こうや紙の上の出来事で、けして自分の身に降りかかるものではなかったからである。
箱入り娘だった、と言う自覚はある。
己がいつも誰かに守られて、庇われてきたということも。
幸い勉強は嫌いでなかったので、高校は自分が好きな学校に行かせて貰えた。偏差値がものすごく高いわけではなかったが、公立としてそこそこ名の知れた学校であったし、治安もいいということで親もそこならOKと言ってくれたのである。家から近く、通いやすかったというのも大きい。
そして小学校や中学校は公立だったが、そこも穏やかな学校だった。
早い話、楓は人生で一度も“不良”なるものを現実で見たことはなかったし、これからもきっと見ることはないだろうと思っていたのである。ましてや受験して入ったこの進学校に、そのような存在などいるはずもないだろうと。
それが、まさか。
『もうやめて、やめてください……!』
何でこんなことになるのだろう。不良でもなんでもない少女に脅されて、誰が来るともしれぬトイレで今、楓は全裸にさせられているのである。
『服、服返して……』
『服う?このびりびりの布切れ、まだ着れると思ってるわけえ?』
綾乃は武骨なカッターナイフを振りながら、楓の服を踏みつけて言う。――制服の上とスカート、キャミソール、ブラジャー、パンツ。全てカッターによって切り裂かれて、今彼女の上履きの下になっている。
確かに、もう着て歩くのは無理かもしれない。でも全て、お父さんとお母さんが働いて買ってくれた大切なものなのだ。それに、何より全裸の状態では、トイレの外へ出ることも叶わない。スカートを切る時に床に投げ捨てられたスマホも、果たしてまだ無事であるのかどうか。
『それにしても、結構肉ついてんのねアンタ!モデル体型の美女気取ってるけどさー』
『そ、そんなの気取ってないです……お願い、服を』
『マンコの毛もボーボー生えててくっさそう!パイ毛はどお?腋毛は?処理足りてないんじゃないの?』
『うう、うう……』
じろじろと裸を見られて、体のあちこちを笑いものにされる。どうして自分は、こんな目に遭わされているのだろう。自分が一体何をしたというのだろう。誘われるまま、彼女と二人きりで会ってしまったのが良くなかったのだろうか。友人達に「一人で行くから」と説得し、行先も告げずに出てきてしまったのが間違いだったのだろうか。
あるいはもう少し、もう少し、この少女の機嫌を取らないような上手な対応ができていたら、こんなことには――。
『自分が悪かったって、認める気になった?ほら言ってみなさいよ。「わたくし、蓮見楓は、先生達とみだらな行為を行って自分の絵が校内選考に残るよう画策しました。そして自分より才能があって邪魔な野間綾乃さんの絵が選考に入らないように先生達にお願いしました」って!』
それだけは、と楓は首を横に振った。カッターで切りつけられるのは恐ろしい。でも、自分にだってまだプライドは残っている。何故、やってもいけない行為を認めなければいけないのだろうか。
これがまま、自分を貶めるだけのものだったなら頷いてしまっていたかもしれない。でもこればかりは、こればかりはテコでも認めるわけにいかないのだった。だって、楓がイエスと言ったら、大好きな先生たちがあらぬ疑いをかけられて逮捕されてしまうかもしれないのだから。
そして、この場に綾乃しかいないからと油断はできない。
彼女の性格はもうわかってきている。下手をしたら、どこかにレコーダーを隠しているかもしれないし、スマホの録音アプリを使っているかもしれない。自分がウソの告白をしたのを録音されて、それをバラ撒かれでもしたら――。
『この期に及んで、まだ認めないわけ!?』
『きゃあっ!』
髪の毛を掴んで、床に引き倒された。そしてちきちきちき、とカッターナイフの歯を見せつけられながら、恐ろしいことを言われてしまう。
『そう、いいこと思いついたあ。これ、あんたの腐れマンコにぶっこんでやりましょうか?』
『!?』
『入口に押し当てて、少しずつ、すこぉしずつ押し込んでいくの。肉が切れて、ずたずたになって、きっとすっごく痛いんでしょうねえ。もちろん、それだけじゃ終わらない。奥まで押し込んで、子宮口までねじ込んであげる。そうなったら?……あはははは、あんた、一生子供産めなくなっちゃうわね!』
『いやあ!やだ、やだやだやだやだ!お願い、お願いやめて、やめてええええ!』
想像するだけで恐ろしい。どれほどの苦痛と絶望であることか。何も身にまとっていない股間がきゅっとなり、下腹部がずんと冷たくなった。
大事な大事な蓮見家の一人娘として、自分はちゃんと結婚して家族を作り、大好きな祖父と父に報いる責任がある。万に一つ自分が子供を産むことができない体になってしまったら、その責任を果たせなくなってしまう。いや、それ以前に、そんな激痛味わいたくもない。
『許してほしい?やめてほしい?じゃあ、可哀想なあんたのために代替案』
ここでまた謝罪を要求されるのか、と思ったら違っていた。今思うと、もはや彼女には楓に謝罪させることより、辱めを与える方が重要だったのだろう。
『トイレの床に座って蛙みたいに足おっぴろげて……オナニーしなさい。クリだけじゃなくて、ちゃんと指を中に突っ込んでやるのよ。そのすんごく恥ずかしくてみっともない姿をあたしに見せるの。いいわね?』
もう、正常な思考は失われていた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔で、楓はその提案に頷くしかなかったのである。
***
――あのあと。
思い出すだけで、背筋が凍る。楓は教室を出ながら、思わずぶるりと体を震わせたのだった。
――私の恥ずかしい写真を何枚も撮って、笑いものにしたあと……満足したのか、野間さんはトイレを出ていって。私はその場で一人、取り残された。
泣きじゃくる楓の顔と陰部を特に丁寧に撮影して、綾乃はそのまま楓を放置したのだった。楓の心は既にぐちゃぐちゃだったけれど、このままトイレで泣いているわけにもいかなかった。なんせ全裸なのだ。こんな姿を、他の誰かに見られることだけは耐えられない。
服は、酷いことになっていた。なんせ自慰を強要されている最中で、破れた服は全てトイレに漬けられてしまったのだから。あれではとても救出して再利用などできるはずもない。下着一枚ないまま、楓は祈るように床に落とされたスマホを拾った。唯一の幸いは、綾乃が恐らく楓のスマホを壊すのを忘れたことだろう。床に落とされたものの、ケースに入れていたこともあって楓のスマホは無事だった。それを使って冬香と由衣に助けを求め、ジャージを持ってきてもらって――どうにか、事なきことを得ることができたのである。下着はないが、ジャージの上下を着ていればひとまず体を隠して、家に帰ることはできるからだ。
『こんなのもう犯罪じゃねえか!』
助けにきてくれた冬香は激怒した。それはそうだろうな、と楓もどこか他人事のように思ったものである。自分も、冬香や由衣が同じ目に遭ったら間違いなくキレているだろう、と。
でも、今は自分のことなのに、自分のことだと思えない。心が、深く考えることを拒否してる。
『器物破損に脅迫。それに、女の子同士とはいえこれは性的暴行ってやつだよ。ねえ、警察に言おう?あの女、捕まえてもらおうよ』
いつもは比較的穏やかな由衣も険しい表情でそんなことを言う。そうだ、その通りだと冬香も同意する。でも楓は、二人の言葉にふるふると首を横に振るしかできなかったのだ。
『ありがとうございます。でも……でも、やめてください』
『なんで!?あいつ庇う必要なんかねえだろ!?』
『そうじゃなくて。……そういうんじゃ、なくて。……お父様とお母様を、心配させたくない。先生達にも、ご迷惑かけたくないんです。私が、ちゃんと野間さんと仲直りしてたら、こんなことにならなかったはずなんですから……』
そうだ、自分が対応を間違えたのだ。何がいけなかったのかわからないけれど、そのせいで綾乃の機嫌をあそこまで損ねてしまったのだ、きっと。
ぐるぐるとした頭で、そんな考えばかりが巡っていた。自分はただでさえ、突出した才能など何もない、恵まれていただけの普通の娘だ。せめて、人様に迷惑をかけない生き方だけはしなければならない。
『それに、あの写真を、あの人がネットにアップしたりでもしたら……』
同時に。
いや、ある意味ではそれ以上に。
『私は……私はこれ以上、野間さんを怒らせるほうが怖い、です。あの人が怖い、怖いんです……!』
『楓……』
嫌いとか、憎いではなく。ただひたすら怖い、恐ろしいと言う気持ちが勝っていた。明日からも教室で、自分は彼女の顔を見なければいけない。平静を保てるだろうか。怯えないで普通に授業を受けることができるだろうか。
そもそも自分は。明日からちゃんと、元気に学校に来ると言う行為が可能なのか――。
『……わかった』
そんな楓を見て、何を思ったのだろう。
『じゃあ、アタシが……あいつから、写真取り返してやるよ。撮られた写真消せば、楓もちょっとは安心だよな?』
『え、でも冬香さん……』
『私も協力するよ、冬香。一人じゃ危ないもん』
『由衣さん……』
怒りと決意に満ちた目で。冬香と由衣は、顔を見合わせて頷きあったのだった。
『安心しろよ、楓。もうあんなクズに、指一本触らせやしない。アタシたちが、絶対あんたを守ってやるからよ!』