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コメント
3件

えほんとに神すぎる。 ほんとにどうでもいいことなんですけど、14話は短編じゃないような、(((
校舎裏の死角は、
いつの間にか「呼ばれる場所」になっていた。
最初は偶然だった。
次は、流れ。
三度目からは、もう予定。
翠は、そこへ向かう足取りを
自分でも驚くくらい冷静に制御できるようになっていた。
怖くないわけじゃない。
ただ、慣れてしまった。
ポケットの中のスマホ。
録音開始の操作は、もう目を閉じたままでもできる。
殴られる前。
罵声が始まる前。
「……今だ」
そう思うタイミングが、
自分の中で明確になっていくのが、何より怖かった。
証拠は、増えていった。
声。
足音。
誰かが笑う音。
悪いことをしていないのに「ごめんなさいって言えよ」という言葉。
データが増えるほど、
スマホは“守り”じゃなくて“義務”になっていく。
——今日は撮らなきゃ
——失敗できない
——赫ちゃんのために
その言葉を、
自分に何度も貼り付ける。
ある日、翠は気づいた。
録画中、
自分の心拍数がほとんど変わっていない。
前は、手が震えていた。
今は、震えない。
代わりに、
帰り道で急に足が止まったり、
何もない壁を見つめて動けなくなったりする。
教室で名前を呼ばれても、
一拍、反応が遅れる。
「翠くん?」
黄の声に、
少しだけ遅れて「……ん?」と返す。
それを、誰も深掘りしない。
赫の方が大変だから。
校舎裏に行く回数が増えるにつれて、
翠は“効率”を考え始めた。
毎回スマホを構えるのは危険。
落としたら終わり。
——置けないかな。
昼休み。
誰もいない時間。
翠は、校舎裏の排水管の影にしゃがみ込む。
落ち葉とコンクリの隙間。
小さな三脚。
目立たない色。
カメラは、絶対バレてはいけない。
顔が映らなくてもいい。
音と、構図と、距離感が分かれば。
テスト起動。
風の音。
遠くのグラウンドの声。
そして、自分の呼吸。
——残ってる。
それを確認した瞬間、
胸がきゅっと縮んだ。
「……これで、いい」
自分に言い聞かせる声が、
前よりずっと小さい。
その日から、
翠は事前に校舎裏に行き、“仕込み”をするようになった。
呼び出されると、
無意識にカメラの位置を確認する。
「今日も、ここか」
そう思った自分に、
一瞬、ぞっとする。
殴られても、
蹴られても、
意識の半分は「撮れてるか」に向いている。
痛みは、後回し。
終わったあと、
排水管の影からカメラを回収する。
手が、少しだけ遅れる。
まるで、そこに戻りたくないみたいに。
データを保存して、
フォルダ分けして、
日付を入れる。
その作業が終わると、
一気に力が抜ける。
帰宅後、
リビングでは赫の話。
「今日は先生優しかった?」
「無理してない?」
すちは、
ソファの端で静かに聞く。
その夜。
ベッドに入っても、眠れない。
目を閉じると、
校舎裏の音が再生される。
——でも、証拠は増えてる
——ちゃんと意味がある
そう思わないと、
自分が何をしているのか分からなくなるから。
壊れている自覚は、
もうあった。
でも、止める理由は——
ひとつも、残っていなかった。