テラーノベル
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最初におかしいと思ったのは、
「日付」だった。
保存したはずの動画。
確かに“昨日”のはずなのに、
フォルダを見ると、二日前になっている。
「あれ……?」
翠は、画面を指でなぞる。
ファイル名。
時刻。
並び順。
全部、合っている。
スマホは、嘘をついていない。
——じゃあ、俺が間違ってる?
胸の奥が、ひやっと冷える。
その日、校舎裏で何があったか。
誰が、どんな声で笑っていたか。
最初の一言は、何だったか。
思い出そうとすると、
映像が途中で途切れる。
まるで、
編集途中の動画みたいに。
「……ちゃんと撮ったよな」
確認のために再生する。
聞こえる。
声も、足音も、空気も。
なのに、
“その場にいた自分”の感覚だけが、抜け落ちている。
痛かったはずなのに、
どこが、どう、とは思い出せない。
翠は、スマホを伏せた。
——大丈夫
——記録がある
そう言い聞かせる。
でも、その言葉に、以前ほど力がない。
次の日。
校舎裏へ向かう途中、
ふと、足が止まった。
「……今日、だっけ?」
呼び出されたのか。
それとも、
自分から行こうとしているのか。
分からない。
ポケットの中のスマホを触る。
指が、操作をためらう。
——もう起動してたっけ?
確認すると、
録音は、すでに回っていた。
ぞっとする。
いつから?
誰の声が入ってる?
慌てて止めて、保存する。
ファイル名を付けようとして——
手が止まる。
「……今日は……何日だ?」
教室のカレンダーを思い出そうとして、
なぜか、赫の顔が浮かぶ。
優先順位が、絡まっていく。
夜。
部屋で証拠の整理をしながら、
翠は同じ動画を、二回保存していたことに気づく。
フォルダが、重複している。
「……俺、何やってるんだ」
消そうとして、
どっちが“正しい方”か分からなくなる。
怖くて、
どちらも消せない。
証拠は、増えている。
でも、管理できていない。
頭の中で、
校舎裏の音と、家のリビングの声と、
赫の小さな背中が、全部同時に再生される。
眠れない。
目を閉じると、
録音開始の“ピッ”という音だけが、何度も鳴る。
翌朝。
黄に声をかけられて、
一拍、反応が遅れた。
「翠?」
「あ……うん」
笑ったつもりだった。
でも、口角がうまく動かない。
「大丈夫?」
その一言に、
心臓が跳ねる。
——気づかれた?
でも、黄はすぐに目を逸らす。
「赫っちゃん、もう保健室行ってるって」
そっちか。
そっちだよな。
翠は、安心と同時に、
理由の分からない喪失感を覚えた。
——証拠さえあれば
——俺が壊れても意味がある
そう思ってきた。
でも今は、
証拠があるのに、掴めない。
校舎裏へ向かう足取りが、
少し、ふらつく。
自分がどこまで耐えられるのか、
どこまで覚えていられるのか。
もう、
自分でも分からなくなっていた。
コメント
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ああぁ翠っちゃん病気だよ( もうこれ以上身を削らないでくれよ(