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最近スマホ版「魔女の家」が楽しいです。
注意事項
・二次創作です。ご本人様とは一切関係ありません。
登場人物
らっだぁ ぴくとはうす
本編どうぞ
ra視点
石畳の階段を一段ずつ登っていく。段数はそこそこあるが、階段自体は急では無いためあまり苦にすることなく上がっていく。しかし、夏の暑さのせいで額には汗が滲んでいた。
目的地である鈴狐神社(すずこじんじゃ)は江戸時代からあるらしく、当時は豊作や無病息災を祈って建てられたとか。けど、現代では農業医療の技術共にめざましい発展を遂げ、こんな神頼みなんてする必要がなくなった。そして鈴狐神社は今となっては知らない人の方が多いスポットになっている。階段は分かりにくいところにあるし、鳥居もあるにはあるけど頂上にしかない。そりゃ誰も気付かねえよ、こんなとこ。
何故俺がそんな誰も気付かない所に来てるかと言うと、ぶっちゃけ理由はない。いや、理由はあるが多分言っても理解されないだろう。
実は、こんな夢を見た。
どこからか二胡の音が聞こえる。特徴的な柔らかく伸びのある音がどこか遠くからしていて、目の前は橙色の灯りが沢山灯っている。ここはどこかの神社だろうか。そして、俺の前には一人の少年がいた。齢は14、15と言ったところか。右耳によくは見えないが、何やら耳飾りをしてる。
『らっでぃ、早く行くよ!』
何故か俺の名前を知っている。そして、名前の呼び方は俺の知り合いに似てた。
そこで目が覚めたのだ。俺は夢の場所も知らないし、話しかけてきた少年も、知り合いに似てたがあんな耳飾りは付けてなかった。けど、あの場所に猛烈な懐かしさを覚えていた。
そして、俺は取り敢えず似た場所の鈴狐神社に来てみた。しかし、当然二胡の音も謎の少年も居なかった。鳥居を抜け、拝殿と呼ばれる場所へ行く。その奥には神様が奉られてる本殿があるらしい。拝殿の前には数段程の小さな階段があり、そこを上る。すると、拝殿の扉の前の廊下に小さな鈴が置いてあった。巫女さんが躍りで使うような鈴。何個か鈴が三段に別れて集まっていて、その下にダラリと赤色の紐が垂れ下がっている。鈴が置いてある周辺だけ、時間が止まってるような、神秘的な感じがあった。
その鈴を何となく手に握ると、鈴は少し重みがあり歴史を感じられた。鈴を気まぐれに振ってみる。シャランと心地の良い音が、小さな神社一体に響く。何も無いか。柄にもなく夢に引っ張られてここまで来てしまったが、そもそも夢に出てきたのがこの神社とは限らない。そんなこと少し考えれば分かったじゃないか。ズボンのポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。
「もう二時じゃん……早く帰るかぁ」
大きく伸びをする。もう二時で、辺りは真っ暗に染まっていた。その時、後ろでシャランと音がした。
「……は?」
今の音は間違いなく、先程の鈴だった。けど、俺は鈴を振ってない。後ろを振り返ると、廊下に置いたままだった鈴が煌びやかな光を放っていた。その眩しさに、思わず目を細める。
「……うわっ!」
急に光が強くなる。そのまま俺は、深い暗闇の中へ意識を落としていった。
「……っだぁ!らっだぁ!」
二胡だ。二胡の音が聞こえる。二胡の音と誰かが俺を呼ぶ声で目を覚ます。
「……んぅ?」
「やっと起きたよ。全く、こんな大事な日に寝るかねぇ」
まず辺りを見回す。どうやら拝殿の廊下にいるようだ。そして、目の前に少年がいる。巫女のような装束を身に纏っていて、頭の横に狐の面を着けている。その少年は夢で見た耳飾りをしてて、呆れたような顔をしてる。よく見ると耳飾りはかなり良くできてて、耳朶のとこに紐で縁取られた花があり、その下に房になって糸のようなものが集まってる。縁取られた花は赤色に染まってて、白い糸が華やかさを強調してた。直感的にこの子が夢に出てきた少年なんだなと分かった。しかし、それよりもある事実に気付き目を見開く。
「……ぴくと?」
震える声で数少ない友達の名前を呼ぶ。そこにいたのは、間違いなく何回もコラボしており一緒に飲む仲でもあるぴくとだった。何で?何でぴくとがここに居るんだ?ってかそもそも何で夢の中に少年のぴくとが出てくるんだ?頭の中が疑問で埋め尽くされ、訳が分からなくなりこめかみを押さえる。そんな俺をぴくとは不思議そうに見下ろしていた。
「どしたんらっだぁ。今日は毎年恒例の鈴狐祭だろ。楽しみにしてたじゃん」
俺は自分の体を見下ろす。ぴくとと同じ巫女のような装束を着ていて、頭の横を触ると、いつものニット帽の代わりに狐の面らしきものがあった。鈴狐祭。そう言えば、明治時代に鈴狐神社ではそんな名前の祭がやってたと聞いたことがある。あれ?つまり今って……
「ねえぴくと、ちょっと聞いて良い?」
「ん?別に良いけど、何を?」
「今ってさ、何年?」
すると、ぴくとは顎に手を当て視線を右上に上げる。
「たしか……1909年、明治42年8月15日だけど。何でそんな事聞くの?」
やっぱりだ……。俺は今明治時代の鈴狐神社にいる。何故そうなったかは分からないが、今分かっている事実は、この少年がぴくとである、そして俺はらっだぁとして明治時代の鈴狐神社に来てしまった。しかし、一つ心当たりがある。あの鈴だ。あの鈴が急にひかりだして、ここに来てしまった。
「ぴくと、俺今から何すんの。詳しく聞かせて」
ぴくとはこいつ何言ってんだ、みたいな顔をする。「まぁ良いけど……」と言い説明し始める。
「この鈴狐神社では江戸時代から、豊作や無病息災を祈って毎年夏に鈴狐祭って祭が行われるの。それで祭のメインイベントが、鈴狐神楽。14、15歳くらいの少年が狐の面を着けて鈴を使って踊るの。で、今年は俺らがその役割をすることになったって訳。どう?よく分からんけど、理解した?」
「あぁ……うん。ありがと」
「らっでぃ今日本当にどうした?」
不思議そうに見つめられる。俺だって何がなんだか分かんないよ。ぴくとはふぅーと長く息をつく。
「まぁいいや。見た感じいつもの陰キャのらっだぁだし」
「え?ぶっ飛ばされたい?」
お互いにふざけあって、同時に笑い出す。まるで発作のような笑いだった。ひとしきり笑うと、ぴくとは俺に手を差し出してくる。
「らっだぁ。鈴狐神楽の時間まで屋台回ろうよ」
その顔は柔らかい笑みが浮かんでた。拝殿の向こう側には食欲をそそるりんご飴の匂いや、祭を楽しむ人々の騒がしい声が聞こえる。俺はその手を握り、明るい声で答える。
「……うん!行くわ!」
俺はぴくとに連れられ、騒がしい声の中に飛び込んでいった。
中編へ続く